3:ライバルの強さを認めることを恐れるな

では、観察眼を鍛えるためには何をすべきなのか? 王道は、新聞などで情報収集を怠らないことですが、その前提として、柔軟な感受性を養っておくことが重要です。それはプライドを捨てて、自分や会社の現状をきちんと把握することから始まります。

「まず、負けたときほど素直に負けを認めて次に生かすことが大切です。将棋の世界では格下の相手に負けても、自分から『負けました』と頭を下げて、感想戦で何が悪かったのか語り合わなければならない。非常に厳しい世界ですが、相手の強さと自分の弱さを認めることから、次の新しい手が生まれていくのです」

しかし、現実にはなかなかできることではありません。植田さんによると、製造業の世界では、ライバル社の工場を見学に行った際の感想文には、「やっぱりうちの工場が一番だ」というものがもっとも多いそうです。

「それでは見学に行った意味がないのです。人は己の実力を過大評価するもの。ライバルと力量が同じくらいだと思っている場合は、現実はほとんど負けていると考えたほうがいい。大幅に勝っていると思えたときで、だいたい同じくらい。そのぐらいの心構えでないと、冷静に現状を観察することはできません」

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4:頭を下げて教えを請うてこそプロフェッショナル

そして、真のプロフェッショナルであるほど、成長するためには人に頭を下げて教えを請うものだといいます。

「私は東京海上の時代に、若手の資産運用ポートフォリオを見て、『これでは世界相手に勝つことは難しい』と思いました。世界を見渡すと、トンデモなく運用がうまい人はいくらでもいる。だからグローバル時代に対応していくため、そういう人たちをコーチとして招いて教えを請うたほうがいいと提案したら、これが大反対の嵐だったのです。『自分たちは大丈夫だ』と。日本のエリートサラリーマンには、そういうプライドの高いところがあった」

しかし、プロスポーツの世界であれば、一流の選手が一流のコーチに教えてもらうのは当たり前のこと。プライドを捨て、自分がどうしたら上達するのかを真摯に考えるのがプロの本来の姿といえるのでしょう。

5:悩み抜いていない決断ほど間違う

キャリアを積み重ねていけばいくほど、人間関係や仕事が複雑化し、悩みは増えていきます。しかも、自分のものだけでなく、周囲から相談されるようにもなり、他人の悩みも抱えていかなければならなくなります。そして、何かにつけ決断を迫られるのです。

しかし、そのときに悩みから逃げては、大事なところでしくじってしまいます

「私の人生を振り返っても、間違えた決断ほどパッと直感で決めてしまっている。でも、AかBか徹底的に悩み抜いて出した答えは、どちらも間違いではない。悩みから逃げては足元をすくわれる。悩みをポケットいっぱいにつめこんで全力疾走しながらも、ときには深く考える習慣をできるだけ身につけてもらいたい。それは苦しいことですが、悩ましい仕事ほど成長できるのです」