仕事にはたくさんの落とし穴があるもの。それを避けるためには、僕らはどんなことに気をつけるべきなのか? 数多くのM&Aに携わり、“一流の仕事術”を知る植田兼司さんが、「若手がはまりがちな仕事の落とし穴」について語ってくれました。

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ライフネット生命の岩瀬大輔が、「20代の頃にもっとも影響を受けた伝説の元上司」と呼ぶのが、著書『一流の決断力』などで知られる植田兼司さん(いわかぜキャピタル代表取締役)。

植田さんは関西学院大学を首席で卒業後、日銀の内定を蹴って東京海上に入社。金融市場でグローバルに活躍し、外資系ファンド「リップルウッド」の日本法人の立ち上げ時に移籍。植田さんと岩瀬は、同社で3年弱ほど二人きりのチームで仕事をしてきたといいます。

ライフネット生命では、そんな植田さんをお招きした社内勉強会を実施。「若手リーダーが成長していくためには?」をテーマに語ってくれました。

■みんなが賛成するプロジェクトほど危ない

企業が大きくなると次第に組織が官僚化していき、無難な選択ばかりするようになると植田さん。そこでは、上司が部下に「これどう思う?」と聞いて、できない理由を真っ先に並べるようになると要注意です。

「そうすると、社内のプロジェクトはみんなが賛成するものばかりになります。本来は賛成と反対の両方がバランスよくあるものが良いのですが、リスクをとることを恐れて、賛成意見の多いものに飛びつくようになるのです。しかし、そういうプロジェクトほど、失敗する危険をはらんでいるものなんです」

なぜ、賛成意見ばかりのプロジェクトが危険なのか? それはビジネスにおける交渉の主導権争いに関わっています。

「交渉の現場では、人間は“期待の塊”になっているんです。相手が素晴らしい話をもってきてくれるものと思ってしまう。そのときに主導権を握るのは、あえてリスクをとって、大胆な提案ができるほうです。そうすると、向こうが乗ってきて、交渉が転がり始める。どちらもリスクをとらないままでは、交渉は一歩も進みません」

つまり、誰もが賛成するプロジェクトにはリスクがなく、自分たちにとってだけ“うまい話”になってしまいがち。他社を巻き込んで何かを始めようにも、いざ交渉となると首を縦に振ってもらえないのです。

■成功体験にこだわり続けることが最大のリスク

個人でも企業でも、人は何かで成功すると、その“成功の方程式”が万能だと思い込んでしまいます。しかし、みんなが賛成するプロジェクトが危険なことからもわかるように、リスクをとらない安全策にばかりこだわっていると、方程式が通用しなくなっても、それに気がつかなくなってしまうのです。

「将棋の羽生善治さんが語っていたのですが、勝負の世界では、同じ戦法を続けていることが最大のリスクなのだそうです。一見、安定して勝っているようでも、何かのきっかけで崩されたら取り返すことができない。状況がうまくいっているときでも積極的にリスクをとり、常に変わり続けているものだけが生き残ることができるのです」

■予測はいともたやすく期待にすり替わる

「仕事に対する熱意や情熱は大切だけど、『こうなってほしい』『こうなるはずだ』という願望を持ち込んではいけない」と植田さん。資産運用に携わるなかで、冷静な予測がいつの間にか、根拠のない期待にすり替わってしまう例を多く目にしてきたそうです。

「時々いるんです。相場に熱中するあまり、若手のポートフォリオ・マネージャーで『自分の予測ではなく、マーケットが間違っているんだ』というやつが。いやいや、間違っているのはお前だろと。そうならないためにも、自分はこう分析するけど、ほかの人は違う判断をするかもしれない、という冷静な視点をいつも意識してほしい」

■行き詰まったら、物事をシンプルにして考える

「相場でも、ファクターが多いものほど判断が難しい。これはプロでもそうです。だから一番難しいのは、ランダムウォークの為替。次が株式。そしてもっとも簡単なのが債券。だから仕事で行き詰まったら、多すぎるファクターをそぎ落として、できるだけ問題をシンプルに捉えてみると解決法が見つかりやすくなります」