「何を勘違いしていたのか、当時の僕はアメリカ留学が安いと思い込んでいたんです。しかし、僕が選んだ大学が私立ということもあったんですが、学費のほかに滞在費なども含めたら、現実は日本の私立大学に行くよりもずっと高い。それにびっくりしました。こんだけ落ちこぼれて、親に迷惑もかけてきたのに、高額な留学費用を出してくれなんて言えない。結局、地元の工場で1年半アルバイトをして留学資金を貯めることにしました」

以降はひたすら工場でのアルバイトに励む日々。働いている以外の時間は、空手の稽古にあけくれて煩悩を払っていました。

そんなとき、人生の転機となる「嵐の夜の啓示」が児玉さんに訪れるのです。

■バカになってやり抜く「ストロングスタイル」開眼

児玉さんはいつも工場でのアルバイトが終わってから、空手道場でトレーニングをしていました。ところが、この夜の天候は大嵐。「これは練習に行っても誰も来ないな……」。そんな考えが頭をよぎったそうです。

「あまりの暴風雨で道が冠水していて、橋が流されるのではと思うほどでした。夜で見通しは悪いし、道場までは30分くらいはかかります。普段ならすぐに諦めて帰っていたところ。でも、何かが頭のなかで引っかかっていたんです」

しばらく考えて、児玉さんはその違和感の正体に思い至りました。

「ザーッと頭を過去のうまくいかなかった思い出が通り過ぎ、そして突然、『わかった!』と思ったんです。『そうか、オレは今までこういうときに“帰っていた”のか』って。僕は困難にぶつかったら“帰る人”だったのだと気がついたんですよ」

何をやってもうまくいかない、いまいち熱中できるものが見つからない……。そんな悩みに直面したとき、人の行動は「正面からぶつかる」か「問題に直面することを避ける」のどちらかに分類されます。この嵐の夜までの児玉さんはまさに後者のタイプであり、それが自身の足かせになっていたというのです。

「だけど、本当にアメリカに留学したら、もっと大変な困難に直面するはず。しかも、どこにも逃げ場はない。それなら、ここを境に自分は“帰らない人”になってやろうと決意しました。豪雨に当たりながらバイクを押して道場まで行きましたよ。結局、近所の中学生が数名しか来ていなかったんですけどね(笑)」

ただ、このときから児玉さんのなかで何かが大きく変わりました。

「僕はそれを『ストロングスタイル』と勝手に名づけています。できない理由を考えたりして立ち止まることなく、バカになって何事もとことんやるという姿勢のことです」

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