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日本の食文化に欠かせないマグロ。その絶滅の危機が叫ばれるなか、完全養殖を推進する豊田通商は7月16日、6年間で15億円を投資して養殖の規模を拡大。将来的には海外進出も視野に入れた大規模な計画を発表しました。

なぜ、商社がクロマグロの完全養殖を事業化できたのか。事業を中心となって立ち上げた人物であり、現在は水産養殖事業のチームリーダーとして日夜奔走する福田泰三さんに話を聞きました。

■きっかけは『プロジェクトX』だった

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福田泰三さん

――7月に大々的な事業規模の拡大が発表され、豊田通商のクロマグロの完全養殖事業への注目が高まっています。

福田:本当にすごいことですよね。少し説明すると、豊田通商が新たに行うのは養殖クロマグロの卵をふ化させて稚魚に育て上げる事業です。これまでは「近大マグロ」として有名な近畿大学(以下、近大。世界で初めて卵からの完全養殖に成功した)がふ化から稚魚までの育成を行い、われわれが体長30センチほどの幼魚に育て上げる「中間育成」を担ってきました。

――養殖マグロの“種”は近大がつくり、それを“苗”に育成するところを豊田通商がやってきたわけですね。

福田:ええ。それが来年初夏からは、ふ化から稚魚までの育成も共同で行うようになります。長崎県五島市に中間育成の施設(株式会社ツナドリーム五島)があり、これまでは近大が和歌山県内などで育てた稚魚の約半分が輸送中の天候や波の揺れなどで死亡してしまっていた。そこで同じ五島市に「種苗センター」(※)という、ふ化から稚魚までの育成を行う施設も新設することで、生存率の大幅な向上を目指すのです。


※「株式会社ツナドリーム五島種苗センター」は何をする会社なのか?

ツナドリーム五島種苗センター(イメージ)

ツナドリーム五島種苗センター(イメージ)

今年7月、豊田通商が新たに発表したのは、完全養殖クロマグロの“人工種苗事業”を行う同社の立ち上げでした。長崎県五島市にはもともと、クロマグロの稚魚を体長30cmほどの幼魚にまで育てる“中間育成”に世界で初めて特化した「ツナドリーム五島」がありました。しかし、稚魚はとても繊細で、近畿大学の水産研究所(和歌山および奄美)から、五島市への輸送中に約50%も死んでしまう課題を抱えていたのです。

そこで、豊田通商は近畿大学と地元・五島市の協力により、新たにクロマグロの卵から稚魚にまでふ化させる“人工種苗事業”のセンター設立を実現。中間育成に近い場所で稚魚の育成を行うことで、生存率の大幅な向上を目指します。

稚魚_豊田通商 (20)「これは完全養殖クロマグロのパイオニアである近畿大学の技術力と、五島市の方々の協力がなければ実現できなかった『産官学』の連携事業なのです」と福田さん。世界進出も視野に入れたこの事業は、2015年初夏の稼働開始を予定しています。