――今でこそ15億円を投資する大きなプロジェクトになりました。しかしこの事業はもともと、社内での新規事業募集に、当時は経理部員だった福田さんが応募したところから始まったとか。

福田:そうです。豊田通商には「イノベーションリーダー育成塾」(以下、育成塾)という新規事業を社内から公募する制度があります。私がこれに応募したのは2008年なんですが、その3年前に放送された『プロジェクトX』で「近大マグロ」を取り上げた回がずっと頭に残っていたんですね。

――何にそこまで魅了されたんでしょう?

福田:近畿大学の人たちの研究にかける“熱”に感化されたんだと思います。世界初のことに挑戦するとは、なんてすごい仕事なんだ! と画面を通じて魅了されたんです。それで新規事業に応募するとき、「これをビジネスにしたい!」と育成塾で提案したことがすべての始まりです。

■社歴10年目を迎えて、ずっとモヤモヤしていた

――育成塾には自分から立候補を?r1

福田:そうですね。私は1997年に入社して以来、ずっと経理や財務の仕事をしてきました。それが2006年に合併(株式会社トーメンと合併した)があり、そこで社内でのキャリアの積み重ねが一段落して、次は海外駐在に出ないか、という話もあったんです。サラリーマンとしてはうれしい提案なんですが、心のなかではずっとモヤモヤしていたんです。

――出世コースを歩み始めていたのに、何が不安だったのでしょう?

福田:合併の時期がものすごく忙しかったので、次は何を目指したらいいのか、次の目標を模索していました……。正直、経理をずっとやって社内に人脈もあったし、仕事がやりやすい環境ではあったんです。そこで海外に出て、さらに経験を積むっていうのがサラリーマン的には真っ当な道なんですけど、なんかモヤモヤしていたんですよね(苦笑)。

――それは入社して10年目くらいですよね。

福田:はい。33、4歳の頃ですね。

――会社員はそのぐらいの頃に「これでよかったのか?」と悩みがちなのだと思うんです。そんな時期に、ちょうど育成塾が目についたと。

福田:ずっと『プロジェクトX』は好きな番組で、新幹線の誕生秘話とか黒部ダムとか、そういうのに挑戦する男たちの生き様を見てカッコいいとは思っていたんです。ただ、あの番組で取り上げられていた事業はすでに完結してしまったものが多くて、そのなかでも現在進行形だったのが「近大マグロ」だったということなんです。