2014養殖場_ツナドリーム五島(豊田通商)2
国際的に減少を続ける高級魚「クロマグロ」。その救世主として期待を集める完全養殖クロマグロの稚魚の育成事業に、豊田通商が本格的に乗り出しています(※欄外の説明を参照)。

豊田通商の参入は、もともと経理部員だった福田泰三さんが社内の新規事業公募に事業化を応募したことがきっかけ。商社による未知の分野への挑戦は、いかにして実現したのか? 苦難の末、事業化を推進してきた福田さんに聞きました。
(前回の「経験ゼロの経理部員が完全養殖マグロを事業化できた理由」はこちら)

■事業の立ち上げ初年度に事務所を追い出された

――完全養殖クロマグロの育成事業は、社内の「イノベーションリーダー育成塾」(以下、育成塾)という新規事業公募から始まったとお聞きしました。まったくの新規事業を立ち上げるにあたって、福田さんはどのように会社を説得されたのでしょうか?

140602_2福田:実は、育成塾のプレゼンでは100億円規模の事業として説明していたんです。でも、実際に事業を立ち上げるにあたって、まずは3,000万円の投資からスタートしました。

――それはすごい縮小ですね。

福田:これは私が長年、経理部にいたからわかるのですが、新規事業はとにかく一歩を踏み出さないと始まらないのです。豊田通商という会社のいいところは、やる前はあれこれ言うけれど、いざ事業が始まったらちゃんと応援してくれる。だからとにかく一歩を踏み出すことが重要で、そのために、「私に3000万円だけ預けてください」と説得しました。

――それは育成事業を行う「ツナドリーム五島」(長崎県五島市に2010年設立)の設立資金ですよね。

福田:そうです。

――100億円規模で想定したものを3000万円で立ち上げるとは、相当できることが限られてしまうのではと思うのですが。

福田:ですから、初年度は本当にまずは挑戦してみようというレベルでのスタートでした。ただ、そんななかでも会社からは応援してもらって、クリスマスには社長だった清水(順三。現在は会長)も現地に駆けつけてくれました。

――当時、福田さんはどんな状況で仕事をしていたのでしょう?

福田:最初の頃は事務所もボロボロでした。警察の元派出所を改装して事務所にしているのですが、それも当初は3か月の契約から始めました。そうしたら、12月に契約が切れてしまって(苦笑)。

――えっ、豊田通商の事業なのに事務所がなくなった?

福田:ええ。しかも、そんな状態のときに社長が訪ねてきたんです。


※ 豊田通商が完全養殖クロマグロに参入する意図は?

140602_37月の記者会見で加留部淳社長は、「社会的意義の高い事業。短期の利益にこだわらず、長期的な視点で、5年かけても10年かけても成功させたい」と意欲を語っています。完全養殖クロマグロへの参入を後押ししたのは、ビジネスチャンスというだけでなく、「日本の食卓からマグロが消えるかもしれない」という危機感でした。

そもそもクロマグロの完全養殖事業は世界初の試みということもあり、投資対象としては不確実な要素が大きい。しかし、世界的にクロマグロの天然幼魚の漁獲が規制されるなかで、完全養殖の量産化が実現できれば、日本の食文化を守ることにつながるのです。

ほかにも福田さんは、「弊社から完全養殖の幼魚を日本中の養殖業者さんにお渡しすることで、漁獲規制が強まるなか第一次産業を活性化させることにもつながります」と語ります。そのために、同社は近畿大学や、種苗センター・中間育成の施設がある長崎県五島市と協力し、日夜、完全養殖クロマグロの品質改善を行っているのです。