■市場調査から尖った製品は生まれない
――ある時期までのVAIOには、ビジネスパーソンから絶大な支持を集めていたように、持っているだけで「デキル男」になれるような印象がありました。そのイメージの源泉となっていたのが、「人の創造力を拡張する」というところだったんですね。
花里:それはPCの本質でもあると思います。だから今回の試作タブレットで、世界のクリエイターの方々にあらためてこのコンセプトを問いかけてみたかったんです。
――本質といえば、VAIOは会社の新しい哲学に「本質+α」を掲げています。
花里:今説明したようなことが本質ではあるんですが、製品はそれだけではダメなんです。少なくとも、それはVAIOではない。「+α」がないといけない。
――極端なことをいえば、必要な機能だけに特化して、ムダを徹底的にそぎ落としていくのも“本質の追求”ですよね。
花里:まさに、そのムダの部分が「+α」です。「パソコンは動けばいい」と考える人にとって、尖ったデザインは“ムダ”です。でも、VAIOはデザインも重要な「+α」と考えます。これは言い換えれば“遊び心”みたいなもので、それこそが人の創造力を拡張してくれる。
日本のものづくりは過剰品質でムダが多いとも言われていますよね。でも、それの何が悪いのかと思うんです。問題は過剰品質が価値として認められていないことであって、その価値を知ってもらうように努力していくしかない。ものづくりの芯まで曲げてしまったら、築き上げてきたブランドが失われてしまいます。
――では、VAIOは「市場調査して商品を企画する」というマーケティング活動はしないのですか?
花里:ユーザーへの聞き取りは行っていきますよ。今回のAdobe MAXへの出展も、世界中からクリエイターの方が集まるイベントで、直に反応を知りたいからです。ただそれは、お客様の求める通りの商品を作るということではない。いろいろな要望を聞いたうえで、その先をいく商品を提案することが最終的なゴールなんです。
――「市場調査」というより、ユーザーとの「対話」だと。
花里:そうです。市場調査で出てくる商品は一般的なものになってしまいますから。