■ハコだけでは変わらない——本当の子育てインフラづくり

14102401_3樋渡:以前の武雄市図書館は静かすぎて、子どもを連れてくる方は多くはありませんでした。今は、心地よいBGMが流れ、書店とコーヒーショップがあって、適度な音がストレスの緩衝材となっているので、親子で来られる方も多いです。もちろん静粛さを求める人には、学習室や閲覧室を使っていただいています。

今度は、さらに特化したキッズライブラリー(こども図書館)をやろうと思っています。児童書の充実、読み聞かせコーナーの設置、学習室の機能を持たせ、一時預かりなどを導入して、その時間だけは子育てから離れてもらい、特にお母さんに本に没頭してもらえるようにします。保育士、保健師、看護師が入るというようにして、本の相談もできるような場所にしたいと思っています。本の持つ役割ということを主軸に置いて、そこに子育てやお母さんたちの交流を入れようと思っています。

出口:子育てのインフラって、託児所だけじゃないと思うのです。環境があって、お母さんが楽しく過ごせるということがすごく大きいですよね。ある人と話をしていたんですけど、ベンチャーが集まる街を作ろうと思ったら、世界中から優秀な人を呼んでこないといけない。いい大学を作って、立派な宿舎を作って、奨学金を作ればいいと言う人が多いんですけど、それだけじゃないんですよね。いずれ子どもが生まれるので、赤ちゃんを連れて行ける場所が街になければ優秀な人がこない。子育てに優しいというのは、何も待機児童ゼロで保育園が安いだけではなくて、いろんな人生の選択肢が選べるインフラを自治体が提供するということだと思います。

樋渡:いい図書館、いい病院、いい学校があれば人は来るんです。しかも、できるだけ今あるものを活かしていい図書館、いい病院、いい学校づくりをやっていきたいって思いますね。ゼロからハコモノを作ろうとする人が多いんですが、魅力のないハコモノだけを作っても、ダメになります。今あるもの活かして、いい図書館にして、いい運営をする。もちろん、それだけでサプライ出来ない場合は、キッズライブラリーのように、ある程度特化した関連施設を新しく作る。

出口:1つハコを作ったところで、ちゃんとそれぞれが有機的に繋がって、そこで生活の質が上がらなければダメですよね。

14102401_2樋渡:そうです。すでに結果が出てきていて、武雄市図書館の近くにマンションが2、3棟建つことになりました。若い世代が、図書館の近くに住みたいと思うようになっているんですよ。今度、花まる学習会(学習塾)と官民一体型学校をやりますが、市長になって8年、ようやく広い意味でのインフラ整備が出来るようになったかなと思います。

出口:面白いデータがあって、業績がいい企業はオーナー企業が多くて、社長が10年くらいやっているんです。そのくらいの年月があると、目先のことではなくて、本当にいい施策が出来るそうです。歴史的に見ても、太宗とか、康熙帝とか、名君と呼ばれる人は20年くらいやっています。まともな事をやって、市民が喜んだら、トップには長くやってもらった方がいいですよね。

<プロフィール>
樋渡啓祐(ひわたし・けいすけ)
1969年11月18日、佐賀県武雄市生まれ。1993年に東京大学経済学部を卒業し、総務庁(現総務省)に入庁。2006年に36歳で全国最年少市長(当時)として武雄市長に当選、現在3期目。著書に、「『力強い』地方づくりのための、あえて『力弱い』戦略論」(2008年)、「首長パンチ」(2010年)、「沸騰!図書館」(2014年)、「反省しない。」(2014年)がある。
趣味は読書と旅行

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン編集部