「なにかあったのですか?」と、何人かに質問されたりするのですが、何もなくたって、人はなにやら考えるものですぞ。
ガムを噛みながら、足を投げ出し、だみ声の音楽を聴き、人は神妙な顔をしてまじめなことを考えたりもします。
(糸井重里「ボールのようなことば。」より)
question hands

前回の記事「内向性の時代が来た」では、公開後に多くの反響をいただき、特に

「ここに書いてあることは、まさに自分のことだと思いました」
「自分も内向型なので、しっくりきました」
「なんだか、元気が出てきました!」

と、ご自身が「内向型」なのではないか、それはネガティブなことではなく、むしろそれゆえ力を発揮する時代になりつつあるのではないかと感じ、安心したというお声を多数いただきました。本当にありがとうございます。

ライフネットジャーナル オンライン編集部でも、この記事を作っている主だった面々は、「ああ、自分は内向型だったんだ」と実感しており、毎回の記事制作、取材先でのやりとりでもしばしば「ああっ・・・それよく解ります〜」と、声を上げてしまうことが少なくありません。

というわけで、今回の記事では、この「内向性」についての外部取材第一弾として、株式会社東京糸井重里事務所(以下、糸井事務所と略)でCFOを務められている、篠田さんとのやりとりをご紹介致します。篠田さんを指名させていただいた理由は、当社常務取締役の中田華寿子から、「この件について、ぜひ篠田さんの見解を伺ってみたい!」という推薦があったためです。

結論から言えば、「糸井事務所、素晴らしい・・・」と、唸る取材となりました。

本記事の構成です(読了5分):

・篠田さん個人と内向性
・内向性を大切にする糸井事務所
・「極上の問いかけ」が内向性の才能を最大限に引き出す
・「内向性」を活かすために気を付けるちょっとした習慣

 

■篠田さん個人と内向性

今回、編集部がお邪魔したのは、「ほぼ日手帳」をはじめとして、個性的なヒット商品を連発する「糸井事務所」。こちらで6年前からCFO(最高財務責任者)を担当する、篠田さんにお話を伺ってきました。

篠田さんは、金融機関、外資系コンサルティング会社、海外留学などを経て現職に就かれています。現在は二児の母でもあり、糸井事務所の財務を、一手に担当されています。

篠田さんには、前回記事のアウトラインをご覧いただいた上で、お話しいただきました。

篠田:当社の代表、糸井重里は「内向型」ですね。そして、当社は、わりと内向的であることを大事にしている職場だなと思います。私個人に関して言えば、内向的・外向的のどちらであるかをいうのは難しいですが、ひとつのことに一人でガーッと集中するのが好きなので、そういった意味では内向的なのかもしれません。いずれにせよ、自分にとってちょうどいい刺激の水準というのはあるなというのを、前回記事を拝見して感じました。

この「刺激量の適正値は、人によって様々」という点は、前回記事のリリース後も、多くの方からのフィードバックで指摘された点です。

内向性とは、外部からの刺激が少ないのが快適で、外向性とはその刺激が多いのが快適な性質を指すわけですが、篠田さんは自分自身を、「どちらかというと内向的=比較的小さな刺激が適正」と語ります。

篠田:自分にとっての刺激の適切な量があるなというのは、2人の子どもを育てるようになって、実感します。この2人が与えてくれる分だけで、自分としての刺激はもう十分、と感じたりもします。子どもができる前とは、大違いですね。

ふむふむと聞き入る取材チーム。

そんな篠田さんのトーンが少し上がったのは、下のお子さんが小学校に入るときの準備会での、こんな出来事に関するお話でした。

篠田:下の娘が小学校に入学するときに「こういう準備をして下さい」という集まりがあったんですよね。

「小学校に入ったら、お子さんがどうなるといいと思いますか?」というモデレータの問いかけに、多くの保護者が「友だちがたくさんできたらいいな」と答えていて、【違和感】を持ちました。「数だろうか?」と。「数ではないだろう」と。モデレータの人も「そう、友達たくさん出来たらいいですよね」とまとめていました。集まりの主題はそこではなかったので、特に質問などはしませんでしたが、その光景に【違和感】があったんですよね。

学校では、親しい子もいれば、友達かどうかもわからないという関係の子もいる、という状態でよいのではないか。正しい友達の数なんてない、と親としては思うんですよね。

ここでも出てきました。この「違和感」というキーワードは、前回記事で登場した、当社のお申し込みサポート部長を務める吉見もそうですし、他の方へのインタビューでも、必ず出てきます。この【違和感】を掘り起こしていくのが、当取材企画の、ひとつの役目となってきつつある感もあります。

■「内向性」を大切にする糸井事務所

さて引き続き、話題は糸井事務所における「内向性」へと移りました。

篠田:内向性と関係する糸井事務所の中のキーワードは、「自問自答」です。「ほぼ日」では商品もコンテンツもたくさん出していますが、その動機(内発的な動機)というのは、「自問自答」からスタートします。例えば「このお茶が美味しい」というところが起点だとしましょうか。ここで、

「なぜ、美味しいと思っているのか?」
「シチュエーションなのか?」
「逆に美味しくないお茶とは何なのか?」

ということを、事務所のメンバー達は、考えていきます。
そしてさらに、

「冷たいお茶を楽しむというのはどこまで歴史的に遡るのか?」
「千利休の時代のひとも、冷たいお茶を喜ぶだろうか?」

などと、深掘りしていく。その過程で培ったものが企画のベースになります。うまくいったときには、年齢・性別・言語を超えて、面白いなぁというものになるんですよね。
このように深掘りを続けていくところが、まさに「内向性」の才能を活かす上で大切なことなんだと思います。

──職場環境として、そうした深掘りを行ないやすいんですか?

篠田:裁量労働制なので、それぞれが働き方を柔軟に決められる環境です。自宅で集中的にこもる時間を取る人もいますし、その時間やタイミングは個人によります。「自問自答」の基本は、ひとりでの作業なんですよね。
ただ、企画やクリエイティブは、組織で取り組んでいるんですよ。

──それはどういう意味でしょうか?

こうした話の流れから、テーマは今回の核心ともいうべき「極上の問いかけ」へと移りました。

■「極上の問いかけ」が内向性の才能を最大限に引き出す

篠田:糸井重里のように個人で大きな価値を作り出せる人は、「自分で自分に良い問いを投げかけることができる」んですよね。もちろん、歴史に名前を残しているクリエイターの方々も、きっとそうだろうと思うんです。

こうして、糸井氏の凄さの一端に触れたあと、篠田さんはこう続けます。

篠田:ただ、それは誰でもできるわけではないですし、一流の人であっても、いつでも上手にできるわけではないと思います。
そういう、「良い問いかけ」が良い結果を生むということを分かっている人が互いに一緒に仕事をすることによって、凡人であっても高い成果を出すことができます。

なるほど、という観点です。図解すると、下記のような状況です。左にあるような超一流のクリエイターは、自分で問いかけをつくり、それをきかっけとして自分で熟考する。一方で、それをチームで分担すれば、自分で良い問いかけをつくれないクリエイターであっても、じっくり考え、質の良い問いかけを身につけながら、高い成果を出すことができるようになっていく、と。

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そして、この「極上の問いかけ」を活かすための、糸井事務所ならではの会議進行を、篠田さんはこう紹介しています。

篠田:当社には「水曜ミーティング」という、糸井重里がそのとき考えていることを全員に話す場が毎週あります。糸井重里が、こういう自問自答をしているとか、いまこういう投げかけをしている、というエグザンプル(実例)に触れることができます。

これは凄い。糸井氏水準の問いかけを、チームが受け、考えるキッカケを得られる場があるわけです。篠田氏は続けます。

篠田:糸井のもとで薫陶を受けてきた先輩社員が、後輩に対して、企画について問い続けます。

「それ、本当におもしろいと思ってる?」という厳しい問を投げかけている。その場で3秒「ガハハ」と笑えるものだけではなくて、突き詰めることによって、人が心から「湧く」かどうかを見るんです。たとえば、3つの企画案を出した時には、「どれが本当におもしろいと思っているの?」と聞いたり、別のところに動機がありそうであれば「そっちをもっと深掘りしてみれば?」という問いかけが、ミーティングの中で日常的に起きています。

逆に、後輩が説明を求め、先輩は問われて初めて自分の考えを整理し、言語化できたり、矛盾や間違いに気づいて一緒に考えよう、となることもよくあります。

なるほど。糸井氏個人だけではなく、その薫陶を受けた面々も、次々と「極上の問いかけ」を、若いメンバーに浴びせていく。これが、糸井事務所の、圧倒的なクリエイティビティの源泉なのかもしれません。
そして、この「問いかけ」を与えられたら、あとはひたすらじっくり考え続ける、というのは、まさに「内向性」の才能を最大限に活かす方法なのではないでしょうか。

■「内向性」を活かすために気を付けるちょっとした習慣

この「極上の問いかけ」の投げかけを行う「水曜ミーティング」に対して、深く感心しながらも、編集部には、ふとした疑問が湧いてきました。このミーティングでの刺激量が高すぎて、「内向性」あるクリエイターは本来の才能を発揮できなかったり、違和感を覚えたりするのでは? という点です。

篠田氏の回答は、普段の僕らの仕事にも、大いに参考になるものでした。

篠田:糸井事務所では、ミーティングで「発言を強制する」ということはしないんです。
黙っていたからといっても考えがないというわけではないし、今それを表明するタイミングではないと思っているのかもしれない。

それを無理やり発言させても意味が無い。無駄なプレゼンも禁止。プレゼンの手法として、正解はこれだとわかっているんだけど、3案出したりしますよね。そういうA、B、Cみたいなのを出すことも禁止です。

篠田氏は、笑いながら軽快に続けます。

篠田:「何がよいか?」ということを考えつづける。とりあえずならべた100個のアイデアはいりません。「本当に良い1個を持って来て」と。

いかがでしたでしょうか。今回の篠田さんのお話をまとめると、以下のようなポイントが、僕らにとっても参考になるのではないかと思います。

・「内向性」の才能は、熟考によって引き出されるが、その熟考の質を左右するのは「問いかけ」の質にある

・ただし、「問いかけ」を交換する場としての「会議」では、いわゆる「会議」としての発言の強制、発表の強制などを、惰性で行ってはならない

会議で何も発言しなくとも、それは考えていないということを意味するのではなく、熟考している証拠なのかもしれない。

これが、今回の取材で、最も印象深い点でした。

今回の内容、あなたの仕事の進め方や、あなたの組織の運営に、何か参考になる点はありましたでしょうか?

それではまた。

[前回記事]「“ありのままの自分を出せる”時代の到来——内向性の秘めたる力」

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン編集部