青山:薬膳料理は中国が発祥ですが、韓国には「韓方」という独自の考え方もあるんです。熱いときにあえて身体が温まるものを食べたりして、汗を出し体温を下げる。反対に寒いときには暖かい部屋で冷麺のように冷たいものを食べたりする。その国や地域、さらには食べる人に合わせた料理を提供ことが「薬膳」であって、西洋医学のように、どこでも同じ薬を出すというわけではないんですよ。

――青山さんがそういった薬膳の考え方に惹かれたのは、自身がそれで育ったということだけでなく、お姉さんがご病気になったということが大きいのでしょうか?

青山:それはあると思います。メニューを考えるときにも、豪華なものというより、お姉ちゃんが毎日食べられる料理を出したいと考えていました。その後、姉は亡くなったんですが、いまでも姉を思い浮かべてメニューを考えています。

私が思うに、何かを作るときって、「こういうものが作れたらいいな」という漠然としたイメージよりも、「たったひとりのために頑張る」という具体的な目標があったほうがパワーになるんです。

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――今はどうですか? お姉さんのためにも店を守りたい、と?

青山:うーん……というよりも、お店が続いていくことが、“自分にとって”一番の喜びだから頑張っています。以前は私も「人のために」って考えていましたけど、それだと我慢になってしまって、「苦しい」という思いは消えないんですね。料理は怖いもので、それが味に出てしまうこともある。これじゃあダメだと思って、あるときから、「自分が嬉しいから、この店を守るんだ」と考え方を変えました。そのほうが、心が楽になるんです。

■働き過ぎで倒れた経験から、薬膳の資格を取得

青山:そういう風に考えられる前は、自分の限界がわからないくらい働きすぎていました。「青家」を作って3年くらいしたときに、ある朝起きたら耳が聴こえなくて、声も出なくなっていた。さらに、味覚も急になくなったんです。病院に行っても原因不明で、「このままでは働けなくなる!」とすごく怖かった。それで「これは薬膳しかない」と東洋医学の病院に通って、自分で食養生をしたら治ったんです。

――知らず知らずのうちに、疲労やストレスがカラダに蓄積されていたんでしょうね。

青山:それは薬膳の勉強を本格的に始めるきっかけにもなりましたね。ここで理論的にちゃんと学んでおこうと思って、中国の国立大学の日本校で国家資格を取得したんです。

――「国際中医薬膳師」という薬膳の資格ですね。

青山:それまでは自分が親しんだものだから、ということで薬膳をベースとした京おばんざいを提供していたんですが、薬膳を勉強すればするほど、どっちも同じ考え方で作られている料理なんだとわかりました。たとえ生薬が入っていなくとも、「食養」という意味では、伝統的な日本料理の根底には薬膳としての発想があるんです。

――それは裏を返せば、もし生薬が入っていたとしても、食べる人のカラダに合ってなければ薬膳としては意味がない?

青山:健康に良いかどうかは、あくまでその人に合うか合わないかです。だから、よくある「薬膳ラーメン」みたいな料理はちょっと微妙で、薬膳が誤解されやすい原因になっていると思いますね。

あと、世の中にはマクロビとかヴィーガンとか、健康に良いとされている食べ方や料理がいろいろありますけど、そのほとんどは「これは食べちゃダメ」というもの。でも薬膳には、そういった禁止がないんです。存在する食べ物には全部意味があると考える。

私は、そういう考え方を「美しい」と思います。人間にはムダな経験なんてないし、ひとりも存在しなくていい人なんていない。この人にはこの食材が合って、別の人にはこれが合うという違いがあるだけ。こうした「陰陽」の考えは料理だけじゃなく、すべてに通じていますよね。寛容的ですごく素敵だなと思います。

――食も働き方も、人生はバランスが大切だと。

青山:例えば、「生姜」がありますよね。冷えを治してカラダに良いと言われていますけど、元気があり余っている子供や、イライラしているオジサンが食べると、熱がこもってしまい、かえって害になることがあります。全員が正解なんてないんです。そのときの体調や環境によって提供する料理が変わるのが自然だし、それが「医食同源」だと思います。

とはいえ、うちの料理をそういう理屈で食べてもらいたいわけではありません。何も知らないままに食べて、なんとなく次の日に調子が良いなって感じてもらうのが理想ですね。

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<プロフィール>
青山有紀(あおやま・ゆき)
京都生まれ。大学卒業後、美容業界やファッション業界を経て、「青家」を東京・中目黒にオープン。京都で料理屋を経営する母から受け継いだ、京おばんざいと韓国家庭料理を提供する。2010年に国立北京中医薬大学日本校を卒業し、国際中医薬膳師資格を取得。2011年4月にはオリジナルのお菓子も提供する「青家のとなり」をオープン。数々のレシピ本を執筆するほか、テレビ朝日系『お願い!ランキング』など、メディア出演も多数
青家

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/植松千波