世界約90か国で人権侵害の事実を調査し、保護活動を行う国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ。アジア初の事務所・東京オフィスの代表をつとめる土井香苗さんが語る「日本の子どもの人権問題」とは? ライフネット生命の社内勉強会で語ってくれたお話を紹介します。

■家庭で養護する子どもの割合は世界最低ランクの日本

1411hrw_t26人に1人の子どもが「貧困」状態にある――。こんなショッキングな数字が2014年7月に厚生労働省から発表されました。豊かなはずの経済大国・日本の子どもたちの多くが貧困に直面している実態は徐々に知られるようになってきましたが、里親や養子縁組環境で育つ子どもの割合が先進国の中でも突出して低い事実はあまり知られていません。

「私たちは年間150冊ほどの調査報告書を出しています。そのうちの一冊が先日出した『夢がもてない-日本における社会的養護下のこどもたち』。『社会的養護』という言葉はまだ認知されていませんが、保護者がおらず、社会が面倒を見ている子どものことで、全体の85%が施設に、残りの15%は里親に預けられています。問題にしたいのは、この15%という数字。これは世界でも最低ランクの数字なんです」

里親や養子縁組のように家庭で子どもをケアすることを家庭的養護といいます。この家庭的養護率を世界の主要国と比較すると、衝撃的な事実が明らかになります。。オーストラリアの里親委託率は93%、香港80%、アメリカ77%、イギリス71%。一方、日本はわずか15%に過ぎません。

「国際的には、社会的養護が必要な場合、まず親族、次に養子縁組、その次に里親養育の順で子どもの行く先を考え、最終手段となるのが施設入所。それにも関わらず、日本の児童相談所は85%もの子どもを施設に入所させている。基本、人権の考え方がないんですね。諸外国にはたくさんある里親支援機関が日本には根付いていない上に、そこを補うはずの児童相談所は忙しくて余裕がない。その結果、どうしても施設入所が増えてしまうんです」

■里親制度の充実化がもたらすさまざまなプラス効果

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗さん

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗さん

なぜ、子どもには家庭的養護が必要なのでしょう。人間には集団生活は必要ですが、安心して甘えることのできる場所も子どもには絶対に不可欠です。施設では、個というものが後回しになり、日課が細かく決められているので、自立に必要な自己決定の機会は限られてしまいます。また、6才まで集団生活の中だけで育つと、愛着障害という脳の問題がおきてしまうことも科学的に明らかになっています。子どもにとって、それほど愛情を注ぐ保護者や家庭の存在は重要なのです。

「とりわけ、3才未満の子どもを養育する乳児院の弊害は深刻です。赤ちゃんは、一生のうちに一番親の愛情を受ける時期。自分の存在が人を喜ばせることを感じる、幸福にすることができるという感覚を乳児院では与えられないのです」

国連は何度も「施設は最終手段である」と個別勧告を出し、日本政府も現状15%の里親委託率を今後15年で30%に増やす目標を掲げてはいますが、進捗状況は芳しくありません。国民が無関心なこと、実際には子どもを育てていなくても親の権利が非常に強いこと。そして、里親制度が不整備なことも大きな要因です。

「日本の里親システムはモニタリングやトレーニングが不足しています。社会福祉士の研修期間は4週間なのに対して、里親は2日間。児童相談所がどこに里親に出せばいいのか、躊躇するのもそのためです。保護者がいなくなったときに『児童養護施設や乳児院に入れてよかったね』という認識から脱して、子どもが無償の愛を感じられる安心できる場所を社会全体で確保していかなければなりません」

里親制度は、国の負担削減にもつながります。施設で子どもを養育した場合、必要な費用は里親の約4倍にものぼります。また、生活保護の受給者の5〜12%が施設出身者という説もあります。現状、日本の施設を出て自立の道を探すのは難しいと言わざるを得ません。里親制度の整備によって、生活保護の費用も軽減できるのです。

里親制度には、もう一つ、見逃せない効用があります。

「里親制度は、少子化対策でもあるんですよ。いま日本では年間約20万人が中絶していますが、里親制度が充実すれば、望まない妊娠をしてしまった母親は、自分で育てるか、中絶するか以外の第3の選択肢が得られるようになる。不妊治療者にとっても良いマッチングです」

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