■新装開店の賑わい感を演出しよう

クラウドソーシングの企業を立ち上げようと、37才になった吉田さんは、心機一転、行動を起こします。車を売り、貯金をはたき、妻の実家に身を寄せて、手元にかき集めた2,500万円を元手に、退路を断ってクラウドワークスを創業。ですが、最初から取引が活発に進むはずもありません。

そこで、吉田さんは一計を案じます。まず、著名なフリーのエンジニアを始め、外資系企業のクリエイティブディレクター、アプリ開発の達人、学生のハッカーなど、さまざまな分野で活躍する人々の許可を得て顔写真を集め、トップページにずらりと掲載しました。

現在の「クラウドワークス」トップページ

現在の「クラウドワークス」トップページ

「お店が新装開店するとき、店頭が贈られた花でいっぱいになりますよね。あの盛況感を出すためです。サイトを見に来た人に、『有名な◯◯さんがクラウドワークスを応援しているんだ』と思ってもらえれば、認知度が高まると考えました」

効果はてきめん。トップページの顔写真掲載で協力を仰いだ人たちがTwitterでも積極的につぶやいてくれたことも後押しして、クラウドワークスに関する口コミは一気に広がりました。日経新聞にも紹介され、スタートから2ヶ月後には、登録者数はエンジニアやデザイナーを中心に1,300人に達します。

あとは発注企業を増やし、サイトを作りこむだけ。利用者視点でサイトの利便性を追求するのが常道ですが、吉田さんはあえて真逆の手段に打って出ました。

■子育て中のママからシニアまで、個人の働き方を変えた

吉田さんが採った手段とは、サイトの閲覧性を低くすることでした。

「サイトを開設するときに、30社の仕事を取ってはいたんですが、仕事の数が少ないのに閲覧性が高いとがっかりされてしまいますよね。だから、仕事一覧のページでは1社あたりのボリュームを増やし、2スクロールしてようやく5社の情報が見られるようにしたんです。あえて、スキルの絞り込み機能も付けませんでした。せっかく検索で絞り込んだ結果がゼロ件では意味がない上に、逆効果ですからね」

賑わい感をもたらすためのさまざまな工夫や演出。その甲斐あってクラウドワークスのサービスは順調に滑り出し、いまでは188種類もの仕事が登録されています。web制作、映像制作から、テープ起こしや経理代行、商品モニターまで。プロ向けの仕事からアマチュアでもこなせる仕事までを網羅したクラウドワークスは、人材の宝庫といってもいいでしょう。

リアルの世界では大半の仕事が東京に一極集中していますが、クラウドソーシングの世界では状況が異なります。実際クラウドワークスでは、会員の約8割が東京以外の場所に住み、海外移住者も少なくありません。会員の居住地は108カ国にもおよびます。

「モルジブで登録している方もいるので、もしかしたらビーチでプログラミングしているかもしれませんね。年齢も幅広いですよ。最年長が85才です。在宅で月に20万円以上を稼いでいるシニアもいれば、月に45万を売り上げている子育て中のお母さんもいます」

クラウドワークスが実施した会員へのアンケートでは98%が「働く機会が増えた」と回答しています。クラウドワークスは、間違いなく個人の働き方に変革をもたらしました。

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<プロフィール>
吉田浩一郎(よしだ・こういちろう)
1974年兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコムの執行役員として東証マザーズ上場を経験した後に独立。ベトナムに衣料品を輸出するアパレルの会社の立ち上げを経て、時間と場所にこだわらない働き方に着目し、2011年11月にクラウドワークスを創業。岐阜県と提携し、岐阜県が育てた人材に仕事を提供するプロジェクトや震災復興のプログラムで教育と仕事を提供するなど、多彩な活動を展開している。
●クラウドワークス

<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/鈴木慎平