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大塚食品は、クラウドワークスで「ボンカレー」の美味しさを伝えるキャッチコピーを、10万円+「ボンカレー」1年分のギャラで募集をかけたところ、大変な反響を呼びました。従来であれば、大手広告代理店が何百万円から何千万円もの費用を投じて取り組む企画です。しかし、クラウドソーシングの世界では10万円という金額でも大きなムーブメントを起こすことができる。この現象の背景にあるのは参加者意識ではないか。吉田さんはそう指摘します。

「もう社内とか社外は関係ない。金額も関係ない。自分もそこに参加するんだという気持ち、皆の力で作るんだという共感が価格の源泉になっているんですね。昔は、価格の源泉は製造原価でした。企画、マーケティング、製造、販売などモノができるまでに携わった社員の人件費やマージンを乗せて価格を決めるのが当たり前でしたが、これが変わりつつある。わくわくしたい、共感したい。そんな気持ちがないと人が動かない時代なんです」

スターバックスは経営危機に陥った2008年、多くの店舗を閉じる一方で、製品ではなく客との関係を見直し、顧客からサービスやグッズに関するアイデアを募りました。そこから生まれた大ヒット商品が、旅の思い出にもなるご当地マグカップです。地域によって絵柄が異なるマグカップは、単なるコーヒーの器ではありません。スターバックスを体験するコミュニケーションツールそのもの。モノの消費から体験の消費へ──。クラウドソーシングは、消費行動のパラダイムシフトを加速させています。

■社会保障や教育を整備した新しいコミュニティを作る

2012年にクローズドβ版のサービスを開始してから2年余り。クラウドワークスの守備範囲も変わりつつあります。オンライン上での仕事のマッチングサービス以外に、オンライン以外でのやりとりも増えているとか。

「たとえばゴルフ場のポータルサイト向けに、全国のゴルフ場の各ホールをアマチュアカメラマンに撮影してもらうという仕事。あとはプライベートで息子の運動会の専属カメラマンになってほしいという依頼なども5,000円〜1万円で入っていますね。こうしたライトな写真撮影のお仕事はすでに始まっています。中長期ではリアルのクラウドソーシングが広がっていくことも考えられるでしょう」

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個人にフォーカスした保険や教育の仕組みづくりも課題の一つ。クラウドワークスは個人の働き方の多様化に成功しましたが、企業に所属する社員に比べると、個人で働く人々の社会保障や教育環境はじゅうぶんとは言えません。

「将来的には、個人で働く人々が、クラウドワークスを通じて保障や教育を手にすることができる仕組みづくりを進めたい。例えば、会員から1,000円ずつ集めて基金のようなものを作り、共済にできないか。そんなことも考えています。個人の力は小さくても、サービスを通じて力を束ねることで、強くすることはできるはず。クラウドワークスを、個人で働く人々の新しいコミュニティに成長させていきたいと考えているんです」(※)

クラウドワークスがサービス2周年を迎えた2014年3月。吉田さんは、会員が参加した「ユーザー大交流会」の席で感謝の言葉を多数もらい、大感激したといいます。会場に広がっていたのはまぎれもなく新しいコミュニティでした。

個人に新しい収入源を提供し、個人の側から社会を再構築していきたい。吉田さんは社会のパラダイムシフトを牽引しています。

(※)11月5日より、ライフネット生命保険は豊通保険パートナーズを通じ、クラウドワークスのフリーランスへ保険加入機会の提供を開始しました。詳しくはこちら

<プロフィール>
吉田浩一郎(よしだ・こういちろう)
1974年兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコムの執行役員として東証マザーズ上場を経験した後に独立。ベトナムに衣料品を輸出するアパレルの会社の立ち上げを経て、時間と場所にこだわらない働き方に着目し、2011年11月にクラウドワークスを創業。岐阜県と提携し、岐阜県が育てた人材に仕事を提供するプロジェクトや震災復興のプログラムで教育と仕事を提供するなど、多彩な活動を展開している。
●クラウドワークス

<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/鈴木慎平