2014年面白かった小説は?

出口:僕、本を読んだらすぐその街に行きたくなったりするんですけど、2014年は『Q』という小説を読んで、休みの時にふらっと1人でドイツのミュンスターに行ってきたんです。この本はいろんな物語が書いてあるんですけれども、たとえばミュンスターの千年王国の話が書いてあったりして。外国の小説はローマ字のタイトルってわりとおもしろい本があって、2013年は『HHhH』が僕は最高だと思ってます。14年は『Q』がおもしろくて。
もう1つ面白いのは、この本は1人が書いてるんじゃないんですよ。集団で書いているんです。何人かの仲のいい人が1冊の本を書くって、そんなの面白い本なんてできるはずないじゃんって思ったらですね、意外におもしろくて。

『Q』ルーサー・ブリセット著/さとうななこ訳(東京創元社)

『Q』ルーサー・ブリセット著/さとうななこ訳(東京創元社)

会場からの質問:出口さんにお伺いしたいんですけど、他の方の読書スタイルって、どういうふうに思いますか?

出口:僕は、『本の「使い方」』にも書いているんですけれど、人それぞれなんで、読んでおもしろければそれでいいじゃないかと。自分の読み方とか、人にこれは正しいとか言う人って僕は嫌いだし、人間にとって価値観の押しつけほどひどいものはないと思っています。『本の「使い方」』という本を書いたんですが、僕はこういうふうに使ってますということだけなんで、本は自分がおもしろければいいと思います。どんな読み方でも、線引いても何しても、自分がおもしろいと思う読み方で読むのが一番いいと思います。こんなんがええとかいうのは、僕はないと思ってます。

会場からの質問:歴史が大好きで、共感することがいっぱいあるんですけど、出口さんっていうと、旅もテーマの1つになっていますよね。自分も歴史の本を読んで、現場検証じゃないんですけど、旅に出かけます。出口さんはどんな旅のスタイルがお好きですか?

出口:僕は簡単で、さっきの『Q』の話に戻れば、ミュンスターの千年王国というのはやっぱり学者の興味をものすごいそそるんですよね。結局ルターのプロテスタント革命の行きついたところなので。それでは『Q』を読んで、なんで突然ミュンスターに行ってみようかと思ったかというと、最後はもちろん千年王国はあっという間に抑圧されて最後はその指導者も壊れていくんですけど、その指導者3人を見せしめのために檻に入れて教会の塔に吊るすんですよ。

こんなあほなことをせんように、と思うのですが、読んでいて、今もそれがあるのか見に行きたいと思ったのです。答えは、「今もあった」んですけどね。旅行については、だいたいそんな感じですね。ほっといたら忘れちゃうじゃないですか。だから、見たいと思ったらすぐ見に行くという感じです。でも、これで痛い目にあったこともあるんですよ。

ロンドンの地下鉄に乗っていたら、目の前にポスターが貼ってあったんですよ。「ダビデの街を見に行こう」と。エルサレムに行く勧誘ポスターですよ。そのポスター見た瞬間に、「あ、まだ行ってなかったからこれは行くしかない」と思って、すぐにチケットを買ったんです。

その週の週末に航空の事務所に行ったら、ものすごい厳しくチェックされるんです。パスポートを2回取り上げられて、「なんで行くんだ?」と。
それで、僕はもう正直に、「『ダビデの街を見に行こう』っていうポスターを見たからや」とか言ったら、胡散臭がられて、「どこの地下鉄か言いなさい」って。「そんなん覚えてへんけど、たしかサークルラインや」「サークルラインに貼ったことはない」とか。すごく苦労した件があるんで、思いついただけで行くと難儀なことは起こり得るかもしれないっていうのはあるんですが、それも楽しいですよね。あとで思い出になりますので。

東:ちなみにどうやって本を読む時間を作りますか?

出口:断捨離です。僕、寝るのも大好きで食べるのも大好きなので、たとえばテレビは見ないとか、ゴルフはしないとか、捨てるものをつくって、好きなことを優先したいんです。好きなことをやっているとやっぱり時間がなくなるので、それほど好きでもないことはもう、あっさり捨てちゃうというのが一番ですかね。

<クレジット>
文・ライフネットジャーナル編集部