15020601_2アナウンサーになる旅、鍛冶屋になる旅、探偵になる旅。旅行に行くような感覚で、憧れの職場や子どものころ夢見ていた職業を1日だけ体験できる「仕事旅行」を提供しているのが、仕事旅行社。月間約300人が仕事旅行を体験しているそうです。社長の田中翼さんに起業のきっかけや仕事体験した旅行者の反応、今後の構想についてお尋ねしました。

■価値観が変わった自分の体験を多くの人とシェアしたい

──憧れの職場を訪問し実際仕事を体感できるツアーを提供する仕事旅行社の事業構想を、田中さんはどのようにして描かれたのですか?

田中:私は大学卒業後、金融会社で働いていましたが、入社して5年経った頃、自分がやりたいのは本当にこの仕事なのかなと考えるようになったんです。そこで、異業種交流会や勉強会に出席しては、そこで知り合った人のオフィスに訪問して色々話を伺いました。その一つが、体験型ギフトを手がけるソウ・エクスペリエンス社。社長の西村琢さんをオフィスに訪ねたときは本当にびっくりしました。

──予想外のオフィスだったんですね?

田中:僕が働いていたのは、夏場でもネクタイ、ジャケットの着用が当たり前で、若い者はまず掃除から始めろというようなことを言う上司がいるような、コテコテの会社。ところが、西村さんときたらTシャツ、短パン、ビーサンで出勤し、音楽をガンガンかけて仕事をしている(笑)。

でも話をすると、自分とそんなに遠い存在の人ではない。年齢も近い。そうか、こういう働き方もできるんだなと思いました。自分の価値観ががらっと変わったこの体験を、もっと多くの人とシェアしたい。そうしたらみんな、自由になれるんじゃないかと思ったのが起業のきっかけです。

■自ら体験することで得られる深い学び

──仕事旅行社の設立は2011年。それから約4年が経過しましたが、手応えはいかがですか?

田中:出足は悪かったんですが、新聞で紹介されてから認知度が上がりましたね。一つのメディアがまた別のメディアを呼びこむ、という循環で、利用者はいま月間300人に達しました。年齢は20代後半から40代が中心ですが、最年少は小学校3年生、最年長は68才と幅広いです。男女比は4:6で女性が多いですね。

──参加者は、どのような動機で仕事旅行に参加しているのでしょう?何か特徴がありますか?

田中:お客様の利用目的は4つのパターンに分かれます。
1つは、ただ単純に非日常を味わうため。
2つ目は自分探し、天職を探すための参加です。
3つ目が、スキルアップの目的ですね。視察旅行として参加する人も多いです。

最後の4つ目、転職を考えていて、その情報収集のため。中には、仕事体験をしたその職場に転職される人もいます。

また、僕たちが提供している仕事体験は、

・仕事を見る
・職場の人と語らう、
・仕事自体を体験するという

3つの要素に分解できますが、講義を聞いたり文献を読む、あるいは映像から学ぶという座学中心のサービスはあっても、デモンストレーションを通して学んだり、自ら体験することで深い学びが得られる機会って世の中には少ない。そこが支持されている理由だと思います。

■自分がいた場所の良さを見直す機会に

仕事旅行社 社長 田中翼さん

仕事旅行社 社長 田中翼さん

──最近は個人だけでなく、法人の福利厚生としての利用も増えているとお聞きしています。

田中:はい。社員研修のように社員に仕事旅行を体験させる利用です。会社のイベントとして、例えば飲み会や最近また復活し始めている会社の運動会の代わりとして参加いただいています。今後は、仕事旅行で何が得られるのかをもっと多くの人に伝えていくためのキャンペーンも打ちます。社員に仕事旅行に参加してもらい、その様子を配信することも計画しています。

──また、職業体験先として受け入れたいという声もあるそうですね。

田中:企業のイメージアップや新規顧客開拓のツールとして、あるいはIターンやUターンなど採用に使いたいといったニーズに応えています。2015年1月からこのニーズにもっと対応できるよう職場体験の受入れ先として登録できるようプラットフォーム化に踏み切りました。個人が宿泊施設を登録できるエアビーアンドビーのような形です。

──仕事旅行を経験された方の反応はいかがですか?

田中:体験後の感想は「楽しかった」「転職したい」など、ばらばら。面白いのが、他の仕事を体験しことでいまの自分の仕事の魅力に気がついたという反応がけっこう多いこと。他の仕事体験が、自分のいる場所の良さを改めて見直す機会になっているんですね。

(編集部が実際に体験した「仕事旅行」はこちら)

仕事旅行社

<プロフィール>
田中翼(たなか・つばさ)
1979年7月生まれ、神奈川県出身。Central Missouri State University、国際基督教大学を卒業後、金融会社に就職し、営業職として勤務。在職中に様々な業界への会社訪問を繰り返し、自分の価値観が大きく変わった経験を踏まえて、憧れの職場を訪問し仕事を体感できるツアーを提供する仕事旅行社を設立し、代表取締役に就任。社長業のほか、仕事観や仕事の魅力に関する講演も積極的に行っている。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/三田村蕗子