編集者/ライターの藤吉豊さん

編集者/ライターの藤吉豊さん

出版社で雑誌の編集長をした後、フリーランスの編集者として数々のベストセラーの編集協力としてご活躍中の藤吉豊さん。昨年はライフネット生命会長の出口治明の著書『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』の編集協力としても関られました。
その藤吉さんが、ライフネット生命の社内勉強会で、わかりやすい文章を書く5つのコツを伝授してくれました。
(藤吉さんの仕事の流儀はこちら)

*藤吉さんの「吉」の字は、正しくは上が土、下が口です

■1.「1文」を長くしない。1文の目安は、長くても80文字以内

「文章が長いと、主語と述語(誰が、何をしたのか)がわかりにくくなってしまいます。ですので、1文をあまり長くしないほうがいいでしょう。1文の長さの目安は、人によって50文字だったり、60文字だったり、80文字だったりしますが、僕の場合は、1文1意を意識して、できるだけ80文字以内にまとめるように心がけています。単行本のおよそ2行分ですね」

例(1) 1文が長すぎて、わかりにくい(以下、例文)
国家社会主義ドイツ労働者党、通称ナチスの勃興と、アドルフ・ヒトラーの台頭は、ドイツ史の中に暗い影を落とすしこりとなって存在したが、それでも、この時代に起きたことを、ドイツ自動車史から消し去ることができないのは、ドイツの自動車交通を象徴するひとつとして多くの人々に知られる速度無制限の自動車専用道路アウトバーンが、第一次世界大戦前のドイツ帝国時代(1871〜1918年)から構想され、ベルリン郊外や、ケルン〜ボン間に建設されたからである。

例(2) 上の文章をいくつかの文章に分けると、読みやすくなる
国家社会主義ドイツ労働者党(通称ナチス)と、アドルフ・ヒトラーの台頭は、ドイツ史に暗い影を落としている。
それでも、この時代に起きたことを、ドイツ自動車史から消し去ることはできない。なぜなら、ドイツの自動車交通の象徴である「アウトバーン」が、ドイツ帝国時代に建設されたからである。

■2.本文を書く前に「見出し」(タイトル)を考える

「いきなり本文を書くのではなく、文章を書き始める前に、仮でもいいので、タイトルや見出しを考えます。本の売上はタイトルで9割決まる、と言う編集者もいるくらいですし、なにより、タイトルが決まっていると、書く内容の方向性も定まって、内容を絞り込むことができます。タイトルや見出しが決まっていないと、つい、あれもこれもと書き足してしまい、主張が分散してぼやけてしまいます」

■3.「中学生」にもわかるように書く

「漢字や固有名詞が多い文章は、それだけで“おもしろくなさそう”“難しそう”と思われてしまいます。中学生でも読める漢字、中学生でもわかる内容を意識して書くと、わかりやすさが増して、読みやすくなります。漢字を使うかひらがなを使うか迷った場合は、僕は“ひらく”(ひらがなで書く)ようにしています」

例(1) 専門用語や漢字が多くて難しそうな文章(以下、例文)
人工多能性幹細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)のように非常に多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞のこと (Wikipedia)

例(2) 漢字の使用をできるだけおさえて、わかりやすい言葉で説明された文章
病気で内臓が悪い人がいたとすると、その人の皮ふから細胞を取り出して、iPS細胞にすれば、そのiPS細胞を内臓の細胞に成長させることができる (学研サイエンスキッズ)

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