みんなが知りたいお金の話、知っておくべきお金の話。岩瀬大輔が「お金のプロフェッショナル」の方々に、直接インタビューしてまいります。クラウド型会計ソフト freee(フリー)社長の佐々木大輔さんへのインタビュー後編は、留学時代の話から――。(前編「『会計ソフトが変われば日本が変わる』のは本当か?」はこちら)
岩瀬:佐々木さんの個人のお話をちょっとうかがいたいのですが、一橋大学商学部でデータサイエンスを勉強されていたそうですね。今でこそ注目の分野ですけど、在学していた2000年前後はその言葉自体あまり知られていなかったんじゃないですか?
佐々木:当時はまだ金融工学の一派に過ぎない分野で、注目度は低かったと思います。
岩瀬:もともと金融関係の勉強をしたかった?
佐々木:いえ、将来は美容師になるつもりだったんです。
岩瀬:え!? それはそれで面白い話が聞けそうですけど(笑)。
佐々木:実家は祖父の代から美容室で、自分も当然美容師になるつもりだったんですが、親からは「大学に行きなさい」と。美容師の勉強は卒業後にすればいいということで、とりあえず「商学部卒業なら商売上いいかな」という理由で進学しました(笑)。ただ、大学2年の頃にテレビドラマの影響で「カリスマ美容師」がブームになって、それに乗っかったと思われるのが嫌で、美容師の道には進まないことにしたんです。
岩瀬:そういうものなんですね(笑)。
佐々木:それから真面目に勉強してみようと思って、3年からデリバティブやブラック・ショールズといった統計学にのめり込みました。そして4年の時にスウェーデンに留学しました。
岩瀬:スウェーデンの授業では何語が使われますか?
佐々木:英語です。日常会話ではスウェーデン語が使われていますが、だいたいのスウェーデン人は英語も喋れます。僕は英語が苦手だったので付いていくだけで精一杯でしたけど(笑)。
岩瀬:留学時に経験したことで、今にもつながっていることはありますか?
佐々木:スウェーデンはクレジットカード先進国で、現金が衰退してしまったんじゃないかっていうくらい、ほぼ100%みんなカード払いなんですよ。セブンイレブンでお金を使う人がいないっていうのは衝撃的でしたね。
岩瀬:100円程度の小さな買い物でも?
佐々木:そうですね。名刺入れみたいな財布にカードを入れていて、紙幣は持ち歩かず、小銭をポケットにジャラジャラ入れている程度なんです。
岩瀬:それはカード決済によって全自動化されるという、freeeの誕生につながる原体験ともいえるようなエピソードですね。
佐々木:合理的な世界を身を持って体験したことが今につながっていることは確かだと思います。
岩瀬:そして大学卒業後は大企業からベンチャーまで、いろんな規模の会社で仕事をされてきた。広告代理店から投資ファンドまでと、業界も幅広い。どういうキャリアプランがあったんですか?
佐々木:大学時代にマーケティングの勉強をしていたこともあって、大手の広告代理店に入りました。ただ、その頃「テレビ広告って本当に意味あるんですか?」ということを企業の広告担当者からよく言われていて、それに対して自分はうまく回答できないし、企業として回答するカルチャーもなかった。そういうのって、世の中の本質的な問いに答えていないんじゃないかな、と思ったんです。それで「リターンと向き合う仕事がしたい」と思った時に、たまたま投資ファンドというキーワードが引っかかって転職しました。
岩瀬:だいたい2年くらいで仕事を変えていますが、最後にいたグーグルは5年ほど在籍されていたんですね。グーグルにはどういった経緯で転職を?