会社のロゴはツバメ。「ハヤブサは下降ときのスピードが速く、 ツバメは上昇するときのスピードが速い」のだそう。

会社のロゴはツバメ。「ハヤブサは下降ときのスピードが速く、
ツバメは上昇するときのスピードが速い」のだそう。

佐々木:僕が入社する前、まだ日本での検索シェアが低かったグーグルは、日本を中心としてアジアにデータアナリストチームを作ろうとしていました。それを聞いて面白そうだなと思って、最初のメンバーとして入りました。僕のチームのミッションは、どうやったら日本のマーケットに受け入れられるのかを分析することです。

ところがすぐリーマン・ショックが起きた。そこで、もう少しビジネスに直結するようなことをやろうという話になって、中小企業の広告主を増やすマーケティングを始めたんです。この時いろんな中小企業の方と仕事をする機会が増えて、日本の中小企業はITの面でずいぶんと遅れているな、と思いました。freeeを開発するチャンスがあると感じたのはこの頃からでした。

■なぜ自動化にこだわるのか――人間には人間しかできないことを

岩瀬:この先はどういう絵を描いていますか?

佐々木:freeeはクラウド会計ソフトでシェアナンバーワンになりましたが、それでもまだ40%程度なのでもっと伸ばしていきたいと思っています。それに会計ソフト全体で見ると、クラウド自体のシェアはまだ5%しかありません。もっと多くの方にクラウドの便利さを知ってもらうことを、徹底してやっていきたいと思っています。

それと自分たちは今、会計ソフトを中心にやっていますが、勤怠管理から給与計算まで含めた会社の業務全般をもっと効率化したいと思っています。freeeには、モバイルアプリから領収書を撮影してそのまま申請できる機能がありますが、こういった中小企業や個人でも簡単に使えるシンプルなものを提供していきたいですね。

岩瀬:会社のバックオフィス機能全体を自動化していくということですね。つまり会計はその入り口である、と。

佐々木:そうですね。自社で使っている給与計算ソフトなどは、すでに外部向けにリリースしています。

岩瀬:自分たちがクラウドを活用したモデルケースになるわけですね。

佐々木:その通りです。だからほとんどの社員のパソコンには、マイクロソフトの「オフィス」が入っていません。みんなクラウドで作業しています。社内では雇用契約のサインもクラウドで済ませています。

岩瀬:徹底していますね。最後に、佐々木さんにとって会計とは?

佐々木:大きく2つあると思います。ひとつは、自分の最新の財務状態を記録しておくというと。どこで何にお金を使った、どこからお金が入ってきた。これを集合させるプロセスというのは、結構大変なことだと思います。自分の家計簿を付けるだけでもなかなかできないことなのに、会計となるとレシートまで取っておかないといけませんし。もうひとつは、それを見たうえで判断しないといけない。つまり会計というのは意思決定のための材料でもあるんですね。

岩瀬:いくら自動化が進んでも、最後の判断は人にしかできませんね。

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佐々木:そうなんです。だからこそ、機械でできることを徹底的に自動化してやりたい。判断のほうに人がフォーカスすることができれば、みんなもっとやりたいことに集中できると思います。

岩瀬:会計というひとつの切り口からも、ビジネスが大きく変わる可能性があることを、今日は教えてもらった気がします。会計って、いろんなことにつながる奥の深い世界だと思いました。調べてみたら古典なんかにも会計の話が出てきそうですね。

佐々木:僕も知らないことが多いので勉強しておきます(笑)。子どもの頃、父親がPC98というパソコンを買ってきて、その時入っていたソフトがゲームと会計でした。ゲームはパソコンから家庭用ゲーム機、スマホと、時代の変化に合わせてさまざまに進化してきたのに、会計ソフトというのは昔から止まっているんです。

こういうことひとつ取ってみても、会計ってすごくトラディショナルで、コンサバティブな業界だと思います。だから自分たちも含めて、これまで社会で当たり前とされてきたやり方を疑っていくことを続けていきたい。みんなが起業しやく、創造的な活動をしやすい社会をつくっていくのが、根幹にある大きな目標ですね。

(前編はこちら)

<プロフィール>
佐々木大輔(ささき・だいすけ)
1980年東京生まれ。2004年一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。在学中はスウェーデンのストックホルム経済大学への派遣留学や、インターネットリサーチ会社でのインターンを経験する。卒業後は博報堂、CLSAキャピタルパートナーズを経て、株式会社ALBERTの執行役員に就任。2008年にGoogleに参画。2012年freee 株式会社を設立。日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 、2014年日本の主役100人に選出。

<クレジット>
取材・文/香川誠
撮影/村上悦子