写真左:山田真哉さん(公認会計士・税理士・一般財団法人 芸能文化会計財団理事長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

写真左:山田真哉さん(公認会計士・税理士・一般財団法人 芸能文化会計財団理事長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

みんなが知りたいお金の話、知っておくべきお金の話。岩瀬大輔が「お金のプロフェッショナル」の方々に、直接インタビューしてまいります。今回は公認会計士であり作家の山田真哉さんにお話を伺いました。会計の専門家から現代の貨幣社会はどのように見えているのでしょうか?

■税理士業界も楽じゃない? 人気会計士が選んだ生き残りの秘策

岩瀬:山田さんの最新刊『結婚指輪は経費ですか?』はタイトルからして面白そうですね。

山田:経費モノは興味をもたれやすいんです。今回はミステリー小説を書いてみました。

岩瀬:作家として、公認会計士として、とても幅広く活躍されていますが、今、割合としてはどの仕事が一番多いんですか?

山田:7割くらいは税理士業務です。4年前に芸能文化会計財団というのを立ち上げて、作家さんや俳優さん、スポーツ選手などを対象に税務相談の仕事をしています。

岩瀬:顧客対象を特化するのはなぜですか?

山田:税理士には定年がありません。上の世代の方がまだまだ現役なので、後から参入してきた人たちはどこかで差別化をしないといけません。それが従来はある税に特化するというやり方でした。たとえば法人税が得意なら法人税、相続税が得意なら相続税を専門にしていたのですが、複数の税金をまたがって相談したい方もいるので、実はお客さま側から見てあまり差別化されているようには見えないんじゃないかと思ったんです。税の種別より、業種別に特化しているように見せたほうが、わかりやすいんじゃないかと。

岩瀬:それで芸能関係の方に絞ってみようと思ったんですね。

山田:自分も作家活動をしていたので、そこが一番得意だと思いました。業種に特化していると、共通に発生する税金やその業界特有の社会保険などに詳しくなれるので、きめ細やかにアドバイスすることができます。

岩瀬:確定申告だけでなく、経営コンサルティング的なことまでできそうですね。

山田:そうですね。例えば漫画家さんからは、アシスタントさんの社会保険をどうすればいいかとか、アシスタントが辞めてしまったけれどどうしてだろうとか、何でも聞かれますよ。

岩瀬:最近はドラマの監修もされているとか。

山田:『美女と男子』(NHK、4月14日スタート)や池井戸潤さん原作の『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ、4月13日スタート)の監修をしています。その中で粉飾決算についてCGで説明するシーンがあるのですが、視聴者に一発でわかってもらうための図解を考える仕事をしています。他には在庫の棚卸のシーンの指導。テレビ局の方は棚卸することがありませんから、手順から教えるようなこともしています。

岩瀬:会計について世の中の人にわかりやすく説明するということに関しては、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』から一貫してるんですね。

山田:翻訳者みたいなものです。僕より専門的知識を持つ詳しい人はたくさんいますが、僕はどちらかというとわかりやすく説明するのが得意なんです。

■ふるさと納税の狙い目自治体はどこ?

岩瀬:今年の確定申告で何か例年と変わったことはありましたか?

山田:ふるさと納税をする人がとても多かったですね。ふるさと納税というのは、全国どこかの自治体に寄付をすることで、自分の住んでいる自治体に納める住民税などが控除される制度です。実質的には自分で納税場所を選べることになり、生まれ故郷やお世話になった土地に納税することができます。寄付をした自治体からは特産物などの返礼品が送られてくるのですが、このラインナップが年々充実していて、「何がもらえるか」を基準に納税先を決める人も多いですよ。

岩瀬:山田さんが注目している自治体はあります?

山田:最近はカタログから好きなものを選べる返礼品も増えていますが、その先駆けともいえる島根県米子市は100種類以上の中から選べるようになっていて、結婚式の引き出物なんじゃないかっていうくらいに充実していますよ。

岩瀬:TポイントやDMMマネーなどがもらえるというのも話題になりましたよね。換金性や流動性の高いものが返礼品になると、ふるさと納税の最初の趣旨からも少しずれてきそうですけど、どうなんでしょう。

山田:総務省もそういった競争の過熱に歯止めをかけたいので、換金性の高いプリペイドカードや返礼割合の高いものを贈らないようにという自粛要請を、4月1日付で各自治体に通達しました。

岩瀬:ふるさと納税は地域経済の活性化につながっていると思いますか?

山田:贈り物の原価、送料、広告宣伝費なども掛かりますし、寄付の入金を受けてからの会計処理の手間などを考えると、自治体の収支としてはトントンだと聞いています。でも自治体が地元の企業から返礼品を買っているので、地元への経済効果は確実にあるようですね。

岩瀬:確定申告の時期は終わりましたが、来年に向けて忘れがちなポイントがあれば教えてください。

山田:医療費控除ですね。医療費というと、同居している家族のことだけを考えがちですが、実家の親御さんに医療費を送金している人もいると思います。医療費控除は扶養家族である必要はないんです。

岩瀬:それを証明するような書類は必要ですか?

山田:状況証拠だけで十分です。でも現金よりは振込みのほうがいいですね。記録が残るので。あと財布を落とした時に、雑損控除というものが使えるということを知らない人も結構います。これは警察の証明書が必要ですので、財布を落としたことに気づいたら、すぐ近くの交番に行ってもらってください。

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