橋爪健人さん(株式会社ターアイ・ジャパン代表取締役)

橋爪健人さん(株式会社ターアイ・ジャパン代表取締役)

「生命保険とは人の死を扱う忌まわしいもの」。かつてそう考えられていた時代があったといいます。今日では生命保険は人々の生活に不可欠な重要産業とみなされていますが、人の生死を扱う点は変わりません。人によっては、「人の死を契機にお金が動く」というところだけをみて毛嫌いする人も少なからずいます。生命保険と「死」の関係について、生命保険業界で30年以上の経験を持つ、保険ビジネスコンサルタントの橋爪健人さんが、ライフネット生命保険の勉強会で語ってくれました。

■生命保険はもともとバクチだった!

保険の入門書では「保険は宝くじと仕組みが似ている」と説明されることがあります。多くの人からお金を集めて、少数の人にお金を分配する点では、確かにそうです。しかし、運営する側が絶対損をしない宝くじと違い、保険会社は損をすることもあります。この点で大きく違います。掛け金を出す側も運営する側もリスクを負うという点で、保険は宝くじよりむしろカジノに似ている。そんな見方ができそうです。

「実は、保険はカジノと仕組みが似ているだけでなく、歴史的にはギャンブルそのものでした。17世紀末のイギリスに『ロイズ』というコーヒーショップがあり、そこに集まった人たちが、うまい儲け話に知恵を絞りながら、そして時間つぶしの遊びとして『貿易船が沈むかどうか』といったバクチを始めたのです。

船の所有者たちは『沈む』に賭け、本当に沈めば得られる当選金で損失の一部を回収しようと考えました。一方、バクチである以上、『沈まない』に賭ける人がいないと成り立たない。その役回りを演じたのがお金と時間を持て余し情報通を自負する英国貴族たちでした。船のほかに『有名人がいつ死ぬか』という賭けもありました。見ず知らずの、名の知られた政治家などの生死を面白がってバクチの対象にしたのです」

やがて船舶を扱う保険は社会的な必要性が認知されるようになり、海上保険として整備されていきましたが、人の死をめぐるバクチが保険として人々に受け入れられるまでにはまだまだ時間がかかりました。やはり人の死を商品として扱うことに生理的なためらいがあったのでしょう。このような経緯を経て、やがてバクチと公益的な生命保険を切り分ける概念として「被保険利益」が生まれました。

「家族の主な働き手が死亡すれば、扶養家族は安定的な収入を失います。あるいは家屋が火災で焼失すれば、入居者は安心して暮らす生活の基盤を失います。事故が発生したことによりある人が損害を被る場合、その人と損害を被った物との間にある利害関係を『被保険利益』と考えます。

つまり、被保険利益があるものは保険とみなす。見知らぬ第三者の生死には被保険利益はなく、保険ではない。そんな峻別法に基づく法律が18世紀後半にイギリスで成立しました。その後、イギリスでは多くの判例を経て自分自身や夫婦間に掛ける生命保険は認めるが、それ以外は被保険利益の存在が証明できないと生命保険として認められないことになりました」

(次ページ)従業員の死や末期患者で儲けることは許されるか