写真左:山田真哉さん(公認会計士・税理士・一般財団法人 芸能文化会計財団理事長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

写真左:山田真哉さん(公認会計士・税理士・一般財団法人 芸能文化会計財団理事長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

会計士にとって「お金」とは何なのか――。会計士ならではの考え方を知ると、「カネで何でも買える」という言葉に対するイメージも変わるかもしれません。対談後編では、苦手意識を払拭する会計勉強法や、意外に深い会計と社会の関係についてなど伺いました。
(前編はこちら)

■経済指標は簿記のパロディー?

岩瀬:会計士でない人が会計のことを知っていると、日常生活でどんなメリットがありますか?

山田:メリットより、会計のことを知らないことのデメリットが大きいと思います。会計のことを知らないというのは、資本主義が何たるかを知らないに等しいからです。多くの人は、資本主義があって、その中に会計の簿記があると考えています。でも実はその逆で、資本主義というのは、簿記の延長線上にあるものです。マルクスが『資本論』を書く前に何を勉強していたのかというと、簿記なんですね。エンゲルスから一生懸命、簿記のことを聞いていた。

岩瀬:複式簿記から資本主義が生まれたという考え方なんですね。

山田:そうですね。経済学で使われる「所得=消費+投資」の式も、複式簿記の「資産=負債+資本」のパロディーなんです。簿記学が生まれて、会計学が生まれて、経済学が生まれた。それなのに、経済学に出てくる指標のほうがさも偉いように語られている。

岩瀬:会計学から経済学を眺めると、見え方がまるで異なるんですね。

山田:堀江貴文さんが「世の中カネで何でも買える」と言ってバッシングされましたけど、会計の勉強をしている人間はこの時に世界史を思い浮かべます。なぜかというと、複式簿記が発明されたルネサンス初期の建築家アルベルティがそれと同じことを言っているからです。ルネサンス以前というのは、貨幣はあってもまだ物々交換が主流の時代でした。貨幣経済が本格的に始まったのは、複式簿記の発明以後です。

岩瀬:つまり物々交換の世界では、キャッシュフローだけわかっていればよかった。でもそれではお金の貸し借りなどはできない。時空を超えたお金の貸し借りを可能にしたのがバランスシートで、貨幣経済が膨張する土台になっていたということですか?

山田:そうですね。帳簿にお金を記載するという技術が複式簿記の一番凄いところだといえます。

※ご本人は後に「取材した新聞社が付けたタイトル」として発言を否定

■会計の勉強がさっぱりわからない人へ

岩瀬:新年度ということで、会計をこれから勉強をしてみようと思う方にアドバイスをお願いします。実は僕も昔、チャレンジしたことがあったんですが、なかなか頭に入ってこなかったんです。帳簿で在庫の科目を見てもピンと来ない。言葉の意味はわかるけど、実体として見えてこないんですね。工場に行ってみて初めて理解できるんですが、全部の科目がそんな感じにイメージしづらくてさっぱりわかりませんでした。

山田:おっしゃるとおりだと思います。簿記は実感がないのでみんな苦労しています。実際に商売をするのが一番の勉強になると思います。すぐに始められることとしては、地図を見ることをおすすめします。

岩瀬:地図と会計にどんな関係があるんですか?

山田:まず世界地図を広げてみます。すると、国の位置関係がわかりますよね。最近は海外の経済ニュースが増えていますけど、その国がどの位置にあるか、どんな国に囲まれているか、意外と知らない人が多いと思います。「日本からこれだけ離れたところでこんな問題があるのか」といったように関連性を見つけながらニュースを見ていったほうが理解も深まると思います。

岩瀬:地図も会計も「経済に近いもの」としては同じだから、地図から実体を見ることが会計から実体を見ることにもつながるわけですね。

山田:そうですね。実は以前は、簿記を勉強する学生に向けて「家計簿をつけましょう」と言っていたんです。でも学生の中には家計簿を知らない人もいる。親がつけていなかったからです。家計簿を見たこともない人に家計簿をつけさせるのはハードルが高いと思って、地図を見ることから推奨するようにしたんです。

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