自分の意見を表現するやり方について学ばないままに5W1Hだけを身につけると、「自分の意見が主張できない大人」になってしまうと木暮さん。表現したいことがあって初めて5W1Hが役に立つのであり、その逆ではないのです。

「また、起承転結でまとめさせてもいけません。そもそも『起・承・転・結』の定義を、それぞれきちんと説明できる大人はどれくらいいるのでしょうか。指導する側がわかっていないのに子どもに教えても混乱するだけです。

そもそも、僕が文章を書くときに『起』から書き始めることなんてありません。特にビジネスの現場では、結論から書き始めないとわかりづらい文章になってしまいます。仕事の報告書を『起承転結』で書いたらどうなるか想像してみてください。そんな書き方を子どもに教えて、どれだけ意味があるのでしょうか」

■その3 「正解はない」ことを伝えると子どもは自分の意見が言える

木暮さんが行っている指導は、「感情を言葉にする方法」をすべての基本としています。それはこんな方法です。

読書の感想を聞いて、「面白かった」と子どもが答えたとします。しかし、それは「前に読んだ本よりも面白かった」のでしょうか。それとも、「知らなかったことがわかった」という意味で面白かったのでしょうか。

「人間の感情は白黒ではっきり分けられるものではありません。子どもだって『面白い』と『つまらない』の間には必ずグラデーションがある。指導する大人の役割は、『どこが面白かった?』などと具体的に聞いて、この曖昧な感情のモヤモヤをうまく解きほぐしてあげることです」

この際、子どもが感想をまとめた文章に対して、「こんな作文じゃダメ」「もっと他に書くことないの?」と“指導”することが一番いけないそうです。

「文章として乱れていたり、時系列がバラバラでも、子どもの感情が書かれていたら評価してあげます。そうすると子どもたちは達成感を抱き、文章を書くことが次第に楽しくなってくるんです。

作文コンクールの金賞を取るような文章を目指して『もっとこう書きなさい』と修正指導してしまうと、子どもたちは自分の感情を出さず、その“正解”をマネしようとします。大人の顔色をうかがい、大人が『正しい』と教えているものを書こうとします。それでは、いつまで経っても自分の意見を主張できるようにはなりません。文章を書くことが“苦行”のまま成長してしまうのです」

木暮さんは2014年の夏から始めた「キッズ作文トレーナー養成講座」で、こうした方法論を小学生の子を持つ親、指導する立場の大人に指導しています。すると、子どもの文章力が向上するだけでなく、親の育児ストレスも軽減されるという効果が見られたそうです。

「子どもが何を伝えたいのかわからないから、親はイライラしてしまうんです。子どもが何をしたいと思っているのか、どう感じているのか、それをちゃんと言葉にできるようになれば、親子のコミュニケーションはかなり円滑になります。これは大人の人間関係においても同じですね」

そして、子どもが“自分の意見が言えるようになる”方法を指導していくことで、木暮さんはこんな目標を持っているとか。

■なぜ経済ジャーナリストが子どもの作文を指導するのか

「僕は経済ジャーナリストなので、将来的には子どもへのマネー教育も行っていきたいと思っています。しかし、お金について正しい知識を身につけるためには、まず子どもが自分の意見をちゃんと表現できないといけません。自分の価値観を他人に主張できるようになれば、『このお金を何に使いたいか?』『限りある金額のなかで、どう優先順位をつけるのか?』といったことを真剣に考えられるようになるんです。文章力を鍛え、伝達力を身につけることは、こうしたことにもつながっていくんですよ」

(小暮さんインタビュー「給料や貯金は無関係!?お金で幸せになるための意外な心構え3つ」はこちら)
15050801_3

<プロフィール>
木暮太一(こぐれ・たいち)
経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。『カイジ「どん底からはいあがる」生き方の話』『カイジ「命より重い!」お金の話』『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』(以上、サンマーク出版)『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)など著書多数
●キッズ作文トレーナー養成講座

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ