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部屋が汚くても困らないし──「片付けられない人」がよく口にする言い訳です。しかし、片付いていない環境が、その人の精神や、会社の利益に影響しているとしたら…。たかが掃除といえど、侮ることはできません。引きこもりの子どもや経営不振の企業を掃除によって立ち直らせてきた日本そうじ協会理事長の今村暁さんが、ライフネット生命の社内勉強会で、掃除がもたらす思いがけない効用を語ってくれました。

■掃除に大切なのは“今この瞬間”

身の回りのいらないものを捨て、シンプルに生きることが人生を充実させる──「掃除」にはこんな効用が謳われることが多いですが、今村さんは昨今の「掃除ブーム」以前から、掃除の大切さに目をつけていました。

「私は金融業界に数年間勤めた後、横浜で学習塾を開き教育の仕事を始めました。今まで、学校に行けない不登校の子どもたち500人くらいと接してきました。そして、『彼らにどうやって夢を持たせよう、どうやって夢を叶えさせよう』と考え続ける中で、掃除から始まる環境づくりの大切さに気がついたんです。

今までに、経営者、アスリート、受験生……たくさんの天才たちと関わってきました。天才というのは、一言で言うと集中力のある人なんです。集中力がある人っていうのは、何をやってもうまくいくけれど、逆に集中力がない人は、何をやってもうまくいかない。だから、どうやって集中力を高めるかを考えて、環境づくりに取り組んできた結果、子どもたちの才能が開花してきたというわけなんです」

今村さんは「動禅 掃除道」という、掃除への取り組み方を提唱しています。「動禅」とは「今この瞬間に集中すること」、「掃除道」とは「掃除から始める良い習慣づくり、良い環境づくり」を意味します。キーワードは「集中」「習慣」「環境」。過去や未来にとらわれず、今この瞬間を集中しきることが、最大限の成果を呼び起こし、それには、集中できるための良い習慣と環境が必要になるということです。

■掃除が企業利益の改善につながる

今村さんの掃除指導によって、変わってきたのは子どもたちだけではありません。モノに埋もれて荒れた1枚の部屋の写真を見せながら、語ってくれました。

「この部屋、とある会社の社長の書斎なんです。そこは年間2,000万円くらいの利益は出しているものの、社員が頻繁に辞めたり、クレームが絶えなかったりと、トラブルが多い会社でした。僕がピンときて『社長の家、散らかってるんじゃないの?』と聞いたら、『そうです。でも家は寝るだけだからいいんです』と言っていました。でも『騙されたと思って、どこか1か所だけでも綺麗にしてみて』とアドバイスしました。その時のコツは、過去のモノと未来のモノを全て捨てて、今のモノだけを残すようにするように、と。1か月経って部屋を見てみると、何も無くなっていた。つまり、その社長は今に生きていなかったんですね」

大量のモノを処分したことで、過去のしがらみからも解放され、部屋だけでなく社長自身の気持ちもすっきりしたようです。効果はそれだけにとどまらず、なんとその会社は今では月に1,000万円の利益がでるまでに成長しているというから驚きです。

(次ページ)掃除による改善効果はまだまだあります