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就職・転職市場に変化が起こっています。従来のサイトからのエントリーにこだわらず、企業が自ら情報を発信し、優秀な人材を直接リクルーティングする流れが広がっています。

そこで活用されているツールはソーシャルメディア。ある日、仕事中にフェイスブックにメッセージが届き、開いてみると「弊社に興味はありませんか」と就職や転職を勧められる。そんなことが珍しくなくなっているのです。

こうした人材採用の変化を「つながり採用」と呼ぶのが、ライターの宮崎智之さんです。宮崎さんは今年6月『ムダ0採用戦略』という書籍で採用市場の変化について取材し、この「つながり採用」の意義について解説しています。

いったい、「つながり採用」のメリットとは何なのか? なぜ、こうした変化が起こっているのか? 宮崎さんに聞いてみました。

■民主的な採用システムとして登場した「リクルートブック」

「つながり採用は決して新しい採用のスタイルではありません」と宮崎さん。人と人のつながりを頼って就職する、という意味では、古くからある「縁故採用」と共通するところがあるというのです。

「そもそも日本は1960年代くらいまで縁故採用が主流でした。大学のゼミやサークルの先輩、または親戚のツテを頼って就職するなんてことが一般的だったんです。しかし高度経済成長期を経て、企業の事情が変わりました。会社の成長を加速させるために、つながりを頼って得られる以上の人数を入社させる必要が出てきたんです」

もっともっと、若者が必要だ――。企業のそんなニーズに応えるように登場したのが、リクルート創業者の江副浩正氏が創刊した就職情報誌「リクルートブック」でした。

「これにより、企業への自由応募が急速に拡大しました。学生はコネがなくても自分のやりたい仕事に就けることになり、企業も多くの学生を獲得できるようになった。民主的で、自由な採用市場が実現されたと誰もが喜んだ。まさにWIN-WINの関係です」

「リクルートブック」が作り上げた「就職情報産業」は日本経済の躍進とともに拡大を続けました。しかし、バブルが崩壊して企業のリストラがニュースになり始めると、状況は変わり始めます。

「『若者にどんどん来てほしい』と言っていた企業に、『会社の文化や求める能力水準に合った若者を採用したい』という要望が芽生え始めました。この『厳選採用』志向は、今も続いています。

そもそもリクルートが作り上げた民主的な採用の仕組みは、『マスに呼びかけ、とにかくたくさんのエントリーを集める』ことで実現されました。ネットの普及により、主戦場が『就職情報誌』から『ナビサイト』へと移ると、より多くのマスにアプローチできるようになり、エントリーの母数はさらに飛躍的に増大しました。しかし、企業は厳選して採用したいと思い始める。ここで企業の思惑とのズレが生じるのです」

現在の主流である「就職ナビサイトからのエントリー」は、確かにどんな学生(または転職希望者)であっても企業に応募できるという意味で、民主的な採用方法です。しかし厳選して採用したい企業の側から見ると、「膨大な応募の中からほしい人材を見極める」のが大きな負担となってしまいます。

「しかも、就活・転職市場が活況になるにつれ、『エントリーシートにはこう書け』『面接にはこう答えろ』といったマニュアルも普及していきました。求職者の側も”対策”をするのが当たり前になったんですね。企業もそれを予測して、求職者の『素』の姿を引き出すためにあの手この手を駆使する。こうなると、採用の現場は企業と求職者の『騙し合い』の様相を呈するようになってしまいます。

実際、徐々に企業・求職者の両方から、既存の採用システムに対する不満の声が聞こえるようになりました。『騙し合い』が前提になってしまったことにより、『会社が本当に求める人物像』と『求職者が本当に求める仕事』のすり合わせが採用の過程でうまくいかず、入社してから互いに『こんなはずじゃなかった』と後悔する。こうしたミスマッチが目立つようになったんです」

「つながり採用」が注目されるようになった背景には、こうした時代の変化があるのです。

■「弱いつながり」が新しい時代のコネになる

「私は最初に、『つながり採用』とはある種の縁故採用であると説明しました。しかし昔と違うのは、その縁故はいわゆる『コネ』に限らず、ソーシャルメディアを通じた『弱いつながり』が採用のきっかけになっている点です」

従来の採用システムとは、「たくさんの人が集まるナビサイトのような『掲示板』に採用情報を貼り出すことで、多くの応募が期待できる」というものでした。

しかしソーシャルメディアを活用した「つながり採用」では、この「掲示板」を飛び越え、「企業が優秀そうな人材に直接アプローチする」ことが可能になる。これが企業の厳選採用の志向とぴったり一致するというわけです。

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