白戸:これはトライアスリートに40代が多い理由でもあるのですが、30代も半ばを過ぎると、体力がガックリと落ちてきます。これまで自分が動かしたいように体を動かせていたのに、40歳が近づいてくると、自分で自分の体をコントロールできなくなっていることに気がつき始めるんです。でも、トライアスロンに挑戦することで、徐々に自分で自分の体をコントロールできる感覚を取り戻していけるようになります。それが何より楽しい。だから「もっと、もっと」と自分を磨いていこうとする。

──しかも、その自分を磨く喜びは成績にも結びつきやすい。

白戸:ええ。私はトライアスロンの楽しさの源は、英語でいうと「Joy」だと思っているんです。その本質は、40代になってこないとなかなか理解できない。というのも、若い人がスポーツに求める喜びって、ゲーム性だったり、仲間と一緒にプレイする楽しさ、つまり「Fun」なんです。「Joy」は自分の中から湧き上がってくるようなうれしさで、この本質は、「自分の体をコントロールし、その限界を更新していく喜び」だと思うんです。

──だから、トライアスロンは「いい大人のスポーツ」なんですね。

白戸:トライアスロンの目的は「自分を磨くこと」だから、大会でも、選手は互いに「ライバル」という意識は薄いんです。むしろ、「自分を高めてこの舞台に辿り着いた同志」みたいに感じています。スタート前に「頑張りましょうね」と声を掛け合うことも珍しくありません。これは40代がハマりやすいもうひとつの理由です。

人と対決するスポーツって楽しい(=Fun)んですけど、真剣にやればやるほど疲れるんですよ。負けたときは精神的にも疲労してしまい、小さな成功体験を積み重ねられない。それに対決してくれる相手が必要ですから、家族ができて、仕事も忙しくなる年齢になってしまうと、意外とハードルが高いんですね。

でも、トライアスロンは人と争わない。成績は出ますが、それは以前の自分を超えられたか確認するためのものでしかない。あくまでライバルは「自分自身」です。だから私は、「トライアスロンは生涯スポーツ」だと伝えたいんです。全身の筋肉を使うスポーツですから、健康にも良いですしね。実際に大会には80歳の方もいますし、60代はもはや珍しくない印象です。

■トライアスロンは就活にも有利!?

──ちょっと変な質問かもしれませんが、トライアスロンをやっていることで、周囲から尊敬されるといった効果もあり得ますか。「あんな大変なスポーツをやっているんだ!」みたいな。

白戸:それはありますよ。例えばアメリカでは、トライアスロンが就職活動に役立つと言われています。

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──就活ですか?

白戸:これといった自己PRポイントがない学生に、「とりあえずトライアスロンをやってみろ」とアドバイスするそうです。トライアスロンをやっている人は、「我慢強い」「タイムマネジメントができる」「取り組んだことを最後まで投げ出さない」といったイメージがありますから、「大学生のときにトライアスリートでした」とアピールしたら好印象になるそうなんですね。

──だとしたら、アメリカの学生はこぞってトライアスロンをやりたがるのでは?

白戸:いや、軽い気持ちでやるには大変すぎます。ダイエット目的の人が続かないのと一緒で、本当に強い目的意識を持った人でないと完走できないですよ。だからこそ、「トライアスロンやってます」というところにバリューが生まれるわけです。

あと、トライアスリートは仲間意識も強いんですよ。トライアスロンをやり続けている人は苦労を乗り越えた同志だと思っていますから、企業の垣根を超えてつながったりする。大会で出会った人たちが互いに事業を支援したり、人脈が広がるなんてこともありますね。

──もちろん、それが目的でトライアスロンをやっている人がいないからこそ、仲間意識が生まれるわけですね。では最後に、自分もトライアスロンを始めてみたいと思った人に、白戸さんはどんなアドバイスを送りますか?

白戸:矛盾した発言かもしれませんが、トライアスロンのチームやコミュニティに入ってほしいですね。トライアスロンって究極の個人スポーツなんですが、周囲の支援がないと続けることができないスポーツでもあるんです。初めから3種目すべてが完璧にこなせる人なんていません。自分の不得意な種目は、どこかで指導を受ける必要がある。大会に出場するにも、どんな準備が必要で、宿泊所をどう手配して、どうやって移動するのか、考えなければならないことが多い。

ひとりでやることは不可能とはいいませんが、負担がかなり大きい。それならば、トライアスロンのコミュニティやチームに入って、互いに高め合いながら、協力していけばいい。年齢や肩書に関係なく対等な仲間を作れることは、年齢を重ねるほど得難いものですよ。そんな損得抜きに意気投合できる仲間ができるところも、エグゼクティブの人たちがトライアスロンにハマる理由といえますね。

あとは、ゴール設定。「◯◯ができたら挑戦する」ではなく、「いつどこで大会に出る」と具体的に決めてしまうことです。〆切がないと原稿ができないように、レースを決めないとなかなかチャレンジすらできません。ゴールを設定すると、人間というのはそこに向かって努力、調整していけるものです。まずは明確なゴール設定が大切ですね。

『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)

『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)

<プロフィール>
白戸太朗(しらと・たろう)
1966年京都府生まれ。プロトライアスリート。株式会社アスロニア代表。中央大学卒業後、日本体育大学に編入学。以後、本格的にプロのトライアスリートとして活動し、1990年から1997年にかけて国際トライアスロン連合(ITU)の主催する世界トライアスロン選手権に出場。そのあとはロングディスタンスの最高峰「アイアンマン」に主戦場を移し世界を舞台に活躍。1992年に日本体育大学の大学院に進学し、1995年に大学院修士課程を修了。現在もトライアスロン大会に出場するかたわら、2008年にアスロニアを立ち上げ、トライアスロン用の各種用具(ウェア、自転車)の販売、世界的な大会である「アイアンマン」の開催をはじめ、国内の普及活動にも取り組んでいる。
●株式会社アスロニア

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ

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