15092501_1ベンチャー投資家にして、マラソン世界一。そんな常識破りのビジネスパーソンが、インフィニティ・ベンチャー・パートナーズの小野裕史さんです。

『マラソン中毒者(ジャンキー)』という著書があるほど、マラソンにどっぷりハマった小野さんは、北極や南極といった過酷な土地でのマラソン大会に出場していき、2013年にはチリの「アタカマ砂漠マラソン」の日本人チームのメンバーとして世界一に輝きました。写真は、そのゴールの瞬間です。

小野裕史さん

小野裕史さん

まるでプロアスリートのような実績を持つ小野さんは、今も誰もが驚くような挑戦を続けています。その原動力とは何なのか? なぜ、エクストリーム(過酷)なスポーツにチャレンジし続けるのか? チャレンジする人を応援するライフネットジャーナル オンラインが、小野さんにその理由をうかがったインタビューの後編をお届けします。

前回記事:35歳まで運動ゼロだった男が、北極でフルマラソンをするようになった理由

■北極も南極も忍者のコスプレで走った

──小野さんといえば、世界中で過酷なレースに参加し続けているだけでなく、さまざまなコスプレをして走る「コスプレランナー」としても有名です。走るだけでも大変なのに、なぜコスプレまですることに?

小野:ちょうどマラソンを始めて1年くらい経ったときに、初めてコスプレをして走ったんです。『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる「目玉のおやじ」でしたね。理由は「これを被って走ったら面白そう」というだけでした(笑)。

僕は心が弱い人間なので、走っていると何度も挫けそうになるんですよ。でも大会ではいつも多くの人が応援してくれる。それで自分も頑張ることができる。だから自分も、「応援してくれる人たちを楽しませることができないか」って思ったことがきっかけでした。

──それが北極でもコスプレすることにつながったわけですか?(※2012年の「北極点マラソン」に出場した際、忍者のコスプレで完走した)

北極点マラソン完走記念の一枚。刀は差したまま走りました。

北極点マラソン完走記念の一枚。刀は差したまま走りました。

小野:北極点マラソンでは、日本人として目立つ衣装は何かって考えて忍者を選びました(笑)。このときはフルマラソンだったのですが、その後の南極マラソンでは100kmを同じ忍者のコスプレのまま走りましたね。

──南極で100km!

小野:さすがにそれだけ過酷だと完走者が毎年3~5人くらいしかいないんですよ。僕が参加した年も、世界中から9人しか集まらなかった。でも僕は「それぐらいの人数なら世界一になれるかもしれない!」と思って参加したんですが、2位という結果だったんですね。

──あとちょっとだった。

小野:それが悔しくて、なんとかマラソンで世界一になれないか考えていたんです。それで見つけたのが、チリのアタカマ砂漠で行われる大会でした。

■苦労も喜びもシェアすれば、その感動は何倍にもなる

──7日間で大自然の中を250kmも走破する過酷な大会ですね。

小野:このときは3人で常に一緒に走るチーム戦に挑戦して、本当に大変だったんですが、日本人として初めて1位になったんですよ。このときはめちゃくちゃ感動しましたね。

──やはり、それだけ道中がツラかった?

小野:それもありますが、チームとしての一体感が大きいですね。ひとりで走るのは喜びも悲しみも自分だけのもの。でも目標を共有し、一緒に挑戦することで、感動は何倍にもなる。自分ひとりで達成したのとはまったく違った種類の感動があるんですよ。

前編でもお話しした通り、実はビジネスにおいても、この「目標の発信と共有」は重要だと思います。アタカマ砂漠マラソンでいえば、「一緒に世界一を目指そう!」というわかりやすい目標を掲げたことで、そこに共感してくれた方々が集まり、チームが生まれました。

もちろん、ひとりで挑戦するのに比べて、チームメンバーが増えるほどマネジメントが困難になっていきます。しかしチームを組んだからこそ、ひとりでは達成できない目標にも到達し得るんです。

アタカマ砂漠マラソンも、僕ひとりでは「世界一」という目標の達成は難しかったでしょう。でも目標に共感する人が集まった、強い結束力を持ったチームで挑んだからこそ、困難な目標を成し遂げられたんです。これはビジネスにおいても、まったく同じことがいえるのです。

アタカマ砂漠マラソンの世界一はまさにチームの力によって達成した快挙だった

アタカマ砂漠マラソンの世界一はまさにチームの力によって達成した快挙だった

──なるほど、確かに誰もが共感できる目標の発信と共有は、ビジネスにおけるチーム作りの参考になりそうです。ではコスプレをやり続けているのは、どういう理由から?

小野:コスプレは自分が楽しむためではなく、応援してくれる人や、大会のスタッフの方々、一緒に走っているほかのランナーを楽しませたくて始めたことです。コスプレをすることでみんなが笑顔になり、それを見た自分もモチベーションが上がっていく。最初は「面白そう」と始めたことでしたが、実際にやってみると、「自分が思っていないようなステージに行けた!」という感覚がありましたね。

──そのステージとは?

小野:北極や南極でコスプレしたときには、言葉が通じない海外のランナーも笑って、応援してくれました。大げさな話、これってソーシャルメディア的だなって思ったんです。ソーシャルメディアによって人々が言語を超えてつながったように、コスプレでマラソンをすることによって、人々が言葉を超えた感動を共有できる。そんな風に感じました。

今の先進国はモノがあふれていて、モノよりも魅力的なコトが求められる時代になっています。マラソンのブームもそのひとつですが、心が動く体験は、ひとりでやるよりもたくさんの人と共有したほうが何倍も面白い。これもビジネスと共通するところがありますが、人と何かをやり遂げる楽しさは尽きることがないんです。

そんな小野さんの定番コスプレは「ダイコン」です

そんな小野さんの定番コスプレは「ダイコン」です

■ドバイの王族が参加するレースが次の目標

──思いつく限りの過酷な大会に参加してきた小野さんですが、個人のランナーとしての次なる目標はあるんですか?

小野:正直、今の僕はランニングでは飽き足らない体になってしまいました。まさに“ジャンキー”ですけど(笑)、北極も南極も砂漠も走って、「次の目標はどうしようかなあ」という状態です。

8月末には「UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)」というトレイルラン(※フランス、イタリア、スイスの3か国をまたぎながら2日間不眠不休で168kmの山道を走破する大会)に参加してきました。これは2回目の挑戦だったんですが、さすがにもう、市民ランナーとしてこれ以上はないくらいのところまで来てしまったとは感じています。

でも、今はマラソン以外の目標があるんですよ。それは馬術の大会です。

──馬ですか!?

小野:「エンデュランス馬術競技」という種目です。馬に乗って1日160kmを走り、そのタイムを競うスポーツです。日本ではあまり知られていなくて、この競技のための馬を専門に育成する牧場は日本ではわずかです。

僕は縁があってその牧場と出会う機会があり、オーナーさんのお話を聞くうちに、「競技人口が少ないから、真剣にやれば世界大会が目指せる」と思い、即座に「やります!」と答えました(笑)。それで今は定期的に牧場に通って、乗馬の技術と知識を学んでいますね。

ともに走る愛馬と特訓中の1枚

ともに走る愛馬と特訓中の1枚

──どんな人がやっている競技なんですか?

小野:アメリカが発祥といわれ、今ではヨーロッパでも盛んですが、特にドバイの王族が力を入れています。来年末にドバイで世界大会が行われる予定で、僕はこれに日本代表として参加してやろうと狙っているんです。ドバイの王族と同じ舞台に立つなんて、僕が普通に仕事をしていたら一生に1回もないかもしれない。でもこの大会に出られれば、彼らと競い合うことまでできるんです。これは燃えますよ。

──まさか、市民ランナーがドバイの王族と競うところにまでたどり着くとは……。ご自身もまったく想像していなかった未来では?

小野:そうですよ。僕がマラソンを始めたのは2009年で、それがたった6年でこんなことになるなんて(笑)。でも、自分の人生を自分で作り上げている感覚があって、本当に面白いですね。

──ドバイの大会に出場できる可能性はどのくらいですか?

小野:行けるか行けないかギリギリのラインです。来年の4月に選考会のような大会があるので、そこでタイムを出せなければ厳しいと思います。でも、こんな面白いチャンスは滅多にないので、なんとかクリアしたいですね。

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<プロフィール>
小野裕史(おの・ひろふみ)
1974 年北海道生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。院生時代より個人でモバイルメディアを複数プロデュースし、2000 年より株式会社シーエー・モバイルの創業に関わる。2008 年1月に株式会社シーエー・モバイル専務取締役を退任し、インフィニティ・ベンチャーズLLPを共同設立。 グルーポン・ジャパン、サンシャイン牧場のRekoo Japanなど、国内外にてベンチャー投資を行うとともに、自ら投資先企業の経営に参画し事業創出を行う。35年間運動ゼロながら、2009年より突如ランニングを始め、北極、南極、砂漠、日本横断など世界中のレースを完走している

<クレジット>
取材・文・撮影/小山田裕哉
写真提供/小野裕史

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