村木真紀さん(NPO法人虹色ダイバーシティ代表)

村木真紀さん(NPO法人虹色ダイバーシティ代表)

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10月29日、ライフネット生命は死亡保険金受取人の指定範囲を拡大し、新たに11月4日から異性間の事実婚に準じる「同性のパートナー」を受取人に指定可能とすることを発表いたしました。

当社では従来、死亡保険金受取人の指定範囲を、原則、「戸籍上の配偶者または2親等内の血族」とするとともに、異性の事実婚関係にあるパートナーの場合は、一定の条件のもとで、死亡保険受取人に指定いただくことが可能でした。

このたび、同性のパートナーに対する社会の認識の変化、当事者による生命保険会社に対する要望の高まり等を受け、同居期間等の一定の条件のもと同居期間など、同性のパートナーも死亡保険金受取人に指定いただけるように取り扱いを変更しました。

今回の発表の背景には、近年、日本でもレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの、性的マイノリティ(以下、LGBT*)に対する理解を広げ、平等な社会を作り上げていこうとする意識の高まりがあります。

同性カップルの権利を行政や企業が保障していこうとする動きは、これから全国へと広がっていくでしょう。「人生に、大切なことを、わかりやすく。」シンプルでわかりやすい生命保険を、手軽に、誰にでも、という理念を掲げる当社は、多様な生き方を尊重し、生活する上で生命保険を必要とする客さまに必要な保障をお届けし、安心して生活を営んでいただきたいと考えております。

今回発表した、同性パートナーの方への死亡保険金受取人の指定範囲拡大は、その試みのひとつです。

日本におけるLGBTへの理解はまだ、十分に浸透しているとはいえません。職場などでカミングアウト(LGBTであることを公にする行為)できない方もたくさんいるでしょうし、反対にLGBTの方々と、どう接していいかわからないという人もいるでしょう。

そこでライフネットジャーナル オンラインでは、今回の発表をきっかけに、LGBTをめぐる問題の啓蒙活動をされている方々への取材記事を、シリーズとして掲載していきます。

初回は、「LGBTなど性的マイノリティがいきいきと働くことができる職場づくり」を支援するNPO法人、虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんへのインタビューです。

自身もLGBT当事者である村木さんが、なぜ「LGBTが働きやすい職場づくり」を支援する団体を立ち上げることになったのか? 日本の「職場」においてLGBT理解を進めていくために何が必要なのか? お話を聞いてみました。

■LGBTだから感じた漠然とした不安

──虹色ダイバーシティ立ち上げのきっかけを教えてください。

村木:2011年の震災前から病気でもないのに、ちょっと体調がすぐれませんでした。仕事が忙しくなって、眠れなくなってしまったんです。それで少しお休みをもらったのですが、その直後に震災が起こったこともあり、家にいてもテレビをつけたら大変なニュースばかりで、「ツラいな……」と落ち込む一方でした。

近所に住んでいたレズビアンの友だちもちょうど同じタイミングで休職していたので、「ちょっと2人でお茶でも飲もうか」ということになりました。それで会って話していたら、どうも悩みのタネが似ているなって気がついたんです。

私も友人も当時カミングアウトしていないレズビアンで、なんとなく職場に溶け込めていない、このまま頑張っても報われないんじゃないか、そういう思いを持っていたんです。

最初は、「30代の女性なら誰もがぶつかる壁なんだろう」くらいに思っていました。でも当時の会社は男女差別がある職場でもなかった。また、友人の会社も大手企業で、女性のための制度がかなりしっかりしていたから「この先どうなるのか」と不満を持つ環境ではないんです。だからやっぱり、この漠然とした不安の原因は、「私たちがレズビアンだからなのかな」と思いました。

それがきっかけで海外の情報を調べてみると、職場ではLGBTの働きやすい環境づくりを掲げている企業がたくさんあることを知りました。「これは日本にも必要なんじゃないか」「私たちみたいな不安を抱えているLGBTが、たくさんいるんじゃないか」。それで海外の企業のLGBT支援の取り組みを日本にも紹介しようと思ったのが、活動のきっかけです。

──当初は会社勤めをしながら?

村木:そうですね。土日や有給休暇を使って企業などで講演活動をしていたんですけど、口コミで依頼がどんどん増えてきて、次第に働きながらでは追いつかなくなってきました。それで「これは本気で取り組もう」と決めて独立したのが、2012年のことです。

■なぜLGBT支援に注目が集まっているのか?

──企業だけでなく、渋谷区や世田谷区の取り組みなど、日本でのLGBTに関する取り組みが、ここ最近に盛り上がってきたのは、どういう背景があるのでしょう?

村木:多分、これは世代的なものが大きいと思っています。日本で1990年代にいわゆるゲイブームが起こって、LGBTであることをカミングアウトしてメディアで活躍する人が登場してきました。それを見て育ったのが、マツコ・デラックスさんのような現在40代の世代です。

若いうちに「LGBTが世の中にたくさんいるんだ」という認識を持って生活している初めての世代なんですね。そんな彼らが職場の中で力を持ち始め、LGBTフレンドリーな環境をつくろうとしているのが大きいのではないかと思います。

LGBT支援をめぐる大きな流れで言うと、1970年代、80年代はアメリカやヨーロッパが先行していました。日本でも当事者たちが集まった小さなグループはあったのですが、なかなかメディアでは扱われない。

それはやっぱり、LGBTというのが、個人の「イロコイ」に関する話題だと思われていたからです。だから当事者たちも、職場どころか、親にさえカミングアウトができない。私もカミングアウトするなんて思い付きもしなかったですから。そういう状況が長かったんです。

でも40代になると、パートナーが病気をしたり、親が要介護になったりという問題が出てきます。私の友人でも、介護離職をするレズビアンがすごく多いです。レズビアンって、親から見たら、たとえパートナーがいたとしても「未婚の娘」という扱いなんです。

今、40代のLGBTが、そういう人生の大きな壁にぶち当たり始めている。日本でLGBTに対する理解を進めよう、制度の面でも平等にしていこうとする動きが広がってきたのは、そういう背景もあります。

──具体的には、どういう支援が求められているのでしょう?

村木:ひとつは同性結婚や同性パートナーシップ条例といった、同性間のパートナーシップを社会的に認める流れ。もうひとつは職場や学校での「平等な扱い」を求める流れ。両方あります。

これまで関心がなかった人には、最近急にLGBTという言葉が出てきたと感じるかもしれませんが、さまざまな人たちが90年代から各地で行ってきた取り組みが、今ようやくつながり始めたのかなと思っています。実際、過去には考えられないくらい当事者のカミングアウトも増えていますね。

あと、ここ2、3年の動きとして大きいのは、当事者以外の人たちが、「アライ」(ally。英語でLGBTの理解者、支援者を意味する)として、ソーシャルメディアなどで「自分はLGBTのサポーターだ」とカミングアウトし始めたことがあります。

「誰も理解してくれないかもしれない」という中でカミングアウトできる勇気がある人は、やっぱり、なかなかいないですからね。自分の周囲に「大丈夫」といってくれる人がいるといないのとでは、全然違いますよ。

■職場のカミングアウトは「ここで働き続けたい」というサイン

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――ただ、村木さんの本(『職場のLGBT読本』柳沢正和氏、後藤純一氏との共著)などを読んでLGBTに対する知識が身に付くほど、今度は、「気付いていないだけで、自分の言動が知らず知らずに誰かを傷つけていたのでは?」と悩んでしまうことも多くなったんです。

村木:そういう感想を持つのは、特に人事の方に多いです。LGBTフレンドリーな職場を作ろうと真剣に考えるほど、かえって悩んでしまい、冗談も言えなくなってしまうと。でも、初めから完璧な「アライ」である必要なんてないんです。まずはレインボーのステッカーをパソコンに貼って、自分の立場を明確にするくらいのところから初めてみてはいかがでしょうかとお話しています。

LGBTの側にもためらいがあるんですよ。職場でカミングアウトできなかったということは、これまで異性愛者のフリをしていたということですから、「カミングアウトしたら、今まで嘘をついていたのかと思われるかもしれない」という不安があるんです。だから、なんでもまずは一歩を踏み出して、「互いにオープンなコミュニケーションを始めていきましょう」と示すことが大切だと思います。

――間違ってはいけないのは、LGBTフレンドリーな職場をつくるということは、「LGBTの方にカミングアウトをしてもらおう」という“強制”ではないところですよね。

村木:カミングアウトをするかしないかは人それぞれです。職場の場合、カミングアウトするのは、「何かあったときにLGBTだと知ってもらっておいたほうが安心だから」といった心理的な安心のためが多いです。

もちろん、具体的な要望がある場合もあります。たとえば自分に何かあったとき、会社が緊急連絡先として登録しているのは両親ですよね。でも、そこに同性パートナーも加えてほしいとか。トランスジェンダーの人だったら、どうしても男性用(または女性用)のトイレを使うのが嫌だとか。相談を受ける側は、LGBTだからこうだろうと決めつけずに、一人一人の具体的なニーズを聞いて、対応を検討するという認識があればいいと思います。

そもそも相談に来る人は、今までずっと一緒に働いていた仲間なわけです。むしろカミングアウトするということは、自分のことをわかってほしい、ちゃんと向きあって欲しいというサインです。だから最初はびっくりするとは思いますが、ポジティブに受け入れるのがいいと思います。

──ある意味、ここで働き続けたいと伝えているわけですからね。

村木:私も5回転職をしているのですが、それは必ずしも仕事内容や職場に不満があったからではないんです。当時を振返って、はっきりと退職理由がわかっていたわけではないですが、振り返ると、やっぱり、カミングアウトできないことを窮屈に感じていたからだと思います。

職場でカミングアウトされて、「めんどくさいことを言ってきたな」と感じる人もいるかもしれませんが、でもそれは、「カミングアウトしなかったら辞めていたかもしれない」ということなんです。待遇や仕事内容に不満がないのに辞められるよりは、カミングアウトされたほうが会社としてはいいですよね。

――そう考えると、本当の退職理由を知らないまま、お別れしていたケースがどこの職場にもあるんでしょうね。

村木:LGBTフレンドリーだってわざわざ表明しない限り、基本的に、当事者は「会社はわかってくれない」と思っています。親はわかってくれない、学校はわかってくれない、多くの当事者はそう思って育っているので。だから、もし「会社がちゃんとサポートします」と言ってくれたら、ものすごく、うれしいんです。

■LGBTフレンドリーを打ち出すことが差別化につながる

──最後に、今回の当社の取り組みについて、ご意見をいただければと思います。

村木:個人的にも、LGBTの友人から「同性パートナーを死亡保険の受取人にできる生命保険会社を知らない?」と相談を受けることがあります。私の友人は30~40代が多く、家の購入を検討するタイミングなんですね。最近はレズビアンでも子どもを持つ人が増えているんですが、そうすると、パートナーが出産したときに、子どもを受取人にして学資保険を組めるんだろうかなんて相談もあります。

あと多いのは、ちゃんと相談できるファイナンシャルプランナー(FP)を紹介してほしいという相談です。一般的なFPさんだと、どうしても異性愛かつトランスジェンダーでないことを前提に話をされてしまうので、ライフプランを具体的に話しづらい。

だからライフネット生命の取り組みに関しては、本当に「待ってました」と(笑)。生命保険業界で最初に私たちを講演に呼んでくれたのがライフネット生命でしたが、実はそのあと、いろんな保険会社からも講演に呼ばれているんです。各社ともにLGBTのニーズは感じていて、私たちも「やってください」とお願いしていました。

そうした保険会社の中で、やっぱり最初に取り組んでくれたのはライフネット生命で、とてもうれしいですね。私たちは、最初に手を挙げる、勇気ある企業を応援しようと思っていました。微力ながら、応援させていただきます。

──ありがとうございます。

村木:渋谷区や世田谷区が条例を制定したといっても、法的には同性婚は認められていないので、同性パートナーに資産を遺す手段がほとんどないんです。私たちがパートナーに資産を遺そうと思ったら、比較的高額な信託か、自分で遺言を書くしかない。でも遺言を書いても、法定相続人の取り分は削れないですから、必ずしも自分の希望通りにできるわけではない。

そういう意味では、生命保険というかたちで、自分の意志でパートナーの生活をケアできる手段ができた。これは大きな安心になると思います。

これからは職場だけでなく、さまざまなモノやサービスでもLGBTフレンドリーを打ち出すことが、企業の差別化になっていくでしょう。具体的にどんなことが求められているのか、どういう風に改善していけばより受け入れられるようになるのか、そういったことは、まずは実際にやってみることでわかってきます。LGBTに注目することで、他のマイノリティ属性を持つ人たちにも受け入れられるモノやサービスも生まれるかもしれません。

だからライフネット生命が一歩を踏み出してくれたことはうれしいですし、これからさまざまな分野で、多数派ではない、多様な属性を持つ顧客でも気持ち良く使える商品やサービスが増えていくきっかけになればいいなと思いますね。

<プロフィール>
村木真紀(むらき・まき)
特定非営利活動法人「虹色ダイバーシティ」代表。1974年茨城県生まれ。京都大学卒業。日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。LGBT当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTと職場に関する調査、講演活動を行っている。関西学院大学非常勤講師、大阪市人権施策推進審議会委員。第46回社会保険労務士試験合格。2015年「Googleインパクトチャレンジ賞」受賞。共著「職場のLGBT読本」。

<クレジット>
聞き手/岩田慎一(ライフネットジャーナルオンライン)
取材・文/小山田裕哉

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