新川てるえさん(作家・コメンテーター・家族問題カウンセラー、NPO法人M-STEP理事長、NPO法人Wink理事)

新川てるえさん(作家・コメンテーター・家族問題カウンセラー、NPO法人M-STEP理事長、NPO法人Wink理事)

2度の結婚、離婚経験を生かし、97年にシングルマザーのための情報ウェブサイト「母子家庭共和国」を開設した新川てるえさん。2002年には、子どもの健全育成と家庭問題に悩んでいる女性の自立支援のためのNPO法人Winkを設立し、講演、カウンセリング、セミナー、著作と多彩な活動を繰り広げています。

どのようにしたら家族がもっと暮らしやすくなるのか。問題解決の道を模索しては行動し、状況改善へと努めてきた新川さんは、離婚や再婚に関する書籍も多数書かれています。シングルマザーのバイブルとなった著書『シングルマザー生活便利帳』では、入りやすい保険商品としてライフネット生命の「じぶんへの保険」を紹介しています。

ひとり親家庭やツレ婚(子連れ再婚)家庭を支援したいと精力的に活動し、行政をも動かしてきた新川さんにこれまでの波乱に満ちた道のりと、支援活動に注ぐ情熱の源についてお聞きしました。

■シングルマザーの生の声を聞きたい

──新川さんはインターネット黎明期の97年12月にウェブサイト「母子家庭共和国」を開設されています。きっかけは何だったのでしょうか?

新川:その年の8月の終わりに、私は2度目の離婚をしました。離婚するまではがむしゃらに走ってきましたが、離婚してみると「離婚ブルー」に襲われたんですね。普通に引っ越しをすると調味料まで失うことはありませんが、離婚となるとゼロから必需品を揃えなくてはなりません。私はたくさんのものを失ってしまったんだとひどく落ち込み、同じような仲間の声を聞きたくなった。ところが、ネットで「母子家庭」「シングルマザー」「離婚」で検索しても該当するものはほとんどない。母子家庭やシングルマザーの当事者の声が聞くことができないのなら自分で作るしかないと、自分の願望を満たしたくて始めたのが「母子家庭共和国」です。

──開設からすぐに反響はありましたか?

新川:家に帰ると「ただいま」と書き込んだり、朝には「おはよう」と呼びかけることができる仲間があっという間に増えていき、チャットやメーリングリストで盛り上がりました。みな、私と同じように寂しかったんだと思います。交流オフ会で飲み会を開いたり、1泊の旅行に出かけたこともありますよ。他に例がないサイトだったので、メディアで紹介されることも多く、アクセスが伸びて、当時は1日5万ヒットぐらいありましたね。ボランティアでサイトの作成を手伝ってくれる人、記事を書いてくれる人も現れて、コンテンツがどんどん増えていきました。

──新川さんが最初に出された本は98年7月発行の「母子家庭共和国」です。この本を出す契機もウェブサイトからですか?

新川:ええ。「母子家庭共和国」のサイトを見つけてくれた編集者から、自分の離婚経験をこんなに赤裸々に書く人はこれまでにいなかった、面白いのでぜひにと依頼されたんです(笑)。サイトの内容がそのまま本になりました。

■ひとり親支援を掲げて、NPO法人を設立

──「母子家庭共和国」に次いで、2002年にはNPO法人Winkを立ち上げています。その経緯を教えてください。

新川:2001年に今後母子家庭に支給されていた児童扶養手当が削減されることを知り、大きな矛盾を感じたのがきっかけです。当時、養育費の支払い率は2割未満。「母子家庭共和国」に集まる仲間はみな、生活に追われているので国に意見をあげたり、運動を展開するのは難しい。だったら自分に何かできるのではないかと考えました。私個人の有限会社の中でやるよりも、NPO化して社会貢献活動をした方がいいと知り合いにアドバイスされたこともあり、NPO法人という組織形態を選んだんです。

──「母子家庭共和国」のときと同様、ほかにやる人がいないなら自分で、という発想ですぐに行動に移されるのが素晴らしいです。

新川:子どもの頃からそうですね(笑)。小学生のときから、部屋の模様替えをしたいと思うと、たいした力もないのに、自分で家具をずるずると引っ張って動かしていました。やりたいと思うと、すぐに行動したくなるんです。

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──NPO法人Winkでは主にどのような活動を展開されていますか?

新川:大きくは「ひとり親支援」を掲げています。10年計画の中でもっとも力を入れていたのは、矛盾を感じていた養育費の支払いの問題ですね。養育費を払わずにいる親が多いという実態を広く知らしめていくために、4月19日を語呂合わせで「養育費の日」と決めてキャンペーン活動を繰り広げましたし、本を出したり、国からの助成金で養育費に関する調査や面接交流も行ってきました。私自身が国会に出て発言をしたこともあるんですよ。狙いは養育費を払わない人への啓発です。

■10年間の活動で法律が変わった!

──その10年間の活動による成果を教えてください。

新川:法律が変わったことです。民事執行法が改正になり、離婚届の中に「養育費の取り決め」に関する項目が入りました。離婚後の親子関係に関する民法の文面も変わりましたし、国が養育費相談支援センターを立ち上げ、私はそこの委員にもなっています。ただ、取り組み率は上がっているのに、養育費の支払い率自体はいまだに2割程度で、変わっていなんです。

──養育費の支払い率を上げていくために何が必要になるのでしょうか?

新川:個人の責任に任せていては支払いの現状は変わらない。国が立て替え制度を設けたり、罰則規定を設ける必要があると考えています。例えば、米国では養育費を払わなければ運転免許を取り上げられたり、国が立て替えたりする制度がちゃんとあるんですよ。ヨーロッパの国にも同様の制度がある国は多く、日本においても公的な支援が欠かせません。

──ひとり親家庭には、貧困に陥っているところも多いと聞きます。

新川:おっしゃるとおりです。貧しくて、子どもの教育環境も良くない。お母さんの余裕がなくて食事も楽しく食べられない。そういう問題が実際に起きています。ただ、国の貧困対策の中にはひとり親家庭も含まれているんですね。私たちの活動も少しは影響を与えているのかもしれません。離婚は昭和39年から上昇基調にあって、ひとり親世帯はいま、120万世帯ぐらいあります。数の上ではマイノリティではないので、15年前に比べるとずいぶんと公表しやすくなりました。

──確かに「シングルマザー」という言葉にもうネガティブな響きはありません。

新川:私が「母子家庭共和国」を立ち上げた時には、シングルマザーという呼び名はなくて、「母子家庭」という言葉があるだけ。しかもネガティブなワードでした。それよりちょっと前は行政にひとり親家庭は「欠損家庭」と呼ばれていたこともあるんですよ。その頃に比べるとずいぶんと状況は変わりましたね。とはいえ、男女の賃金格差が大きいため、小さいこどもを抱えて子育てをする環境は十分ではありません。そもそも、経済破綻をするような相手だから離婚するという方も多いんです。ひとり親はゼロからスタートして、養育費も慰謝料もきちんと払ってもらえないために、貧困に陥る家庭が本当に多い。これはぜひとも解決をしていかなければならない問題です。

(後編につづく)

<プロフィール>
新川てるえ(しんかわ・てるえ)
1964年 東京都葛飾区生まれ、千葉県柏市育ち。10代でアイドルグループの一員として芸能界にデビュー。その後、2度の結婚、離婚経験を生かして、97年12月にシングルマザーのための情報サイト「母子家庭共和国」を開設。2002年に、子どもの健全育成と家庭問題に悩んでいる女性の自立支援のためのNPO法人Winkを設立。理事長を10年間務めた後、長女に理事長の座を譲り、2011年4月にひとり親家庭と子連れ恋愛と再婚(子連れ再婚家族・ステップファミリー)を応援するNPO法人M-STEPを設立。ツレ婚家庭が抱える問題を社会が理解し、必要な支援のある暮らしやすい社会の実現を目指して、作家、講師、TV司会など多方面の活動を繰り広げている。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子