山下敏雅さん(弁護士)

山下敏雅さん(弁護士)

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昨今耳にすることの多いLGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字を取った性的マイノリティーの総称です。ライフネット生命は11月4日、「同性のパートナー」でも死亡保険金を受け取れるように、受取人の指定範囲を拡大しました。(詳しくはこちら

11月5日からは渋谷区で「同性パートナーシップ証明書」の交付が始まるなど、LGBTの社会的認知が高まりつつあります。しかし同性カップルは、結婚や相続など法律上の制約が多くあるのも事実。LGBTを取り巻く環境がどう変わっているのか、現状どのような問題があるのか。LGBT支援法律家ネットワークのメンバーでもある山下敏雅弁護士にお話を伺いました。

■弁護士と性的マイノリティーのつながりを強めたい

──山下さんがLGBTの支援に取り組もうとしたきっかけを教えてください。

山下:弁護士になる前、友人の知り合いのゲイカップルの相続手続きを手伝いました。2人はお店を経営していたのですが、財産を所有する側の方が倒れて余命数日という状況になってしまい、急いでパートナーに財産を相続させる必要がありました。

この時「男同士だから」という理由でいろんな問題に直面しました。男女のカップルなら簡単にできることなのに、どうしてこんなに壁が多いんだろうと思ったのがきっかけでした。

──具体的にはどういった問題がありましたか?

山下:LGBTの当事者には、自分が性的マイノリティであることを対外的に知られたくないと思う人が多くいます。余命数日の方はなかなか自筆で遺言が書き切れなかったので、このときは『証人を立てれば本人が書かなくても良いという例外がある』と説明したのですが、私の友人は『危急時遺言を作成しても、僕は事情があって証人にはなれない』と拒みました。

なんとか養子縁組届と、万が一、養子縁組ができなかった時に備えた遺言を作り終えました。でもその時ちょうど病気の方の親族が病院にやってきて『養子縁組届と遺言があるなんて聞いていない』とトラブルになったのです。

2、3時間ほど説得してその日はようやく事態を理解してもらえましたが、その後も、親族と大きなトラブルがあったことを後日聞きました。

もし男女のカップルと同じように結婚相手だったなら親族とのトラブルもなかったと思います。

──当時、LGBT支援に特化した弁護士さんはいなかったのですか?

山下:私が弁護士になる前の頃はほとんどいませんでした。私たちが2007年にLGBT支援法律家ネットワークを立ち上げたのは、当事者と弁護士などの法律家とのつながりを強めたかったからです。全国一斉相談会をやれば、過労死110番全国ネットワーク(1988年よりスタートした過労死に関する電話相談)の時のようにつながることができるんじゃないか、と。

でも当時、弁護士と行政書士を合わせて10人くらいしか集まりませんでした。今、一斉相談は時期尚早だから緩やかに輪を広げることから始めようと、最初はメーリングリストだけのやり取りでした。

──LGBT当事者からは、どんな相談が多いですか?

山下:当事者が非当事者から差別的な言動を受けているという相談よりも、実はカップル同士のトラブルのほうが多いです。例えば、交際中に貸していたお金が返ってこないなどの問題。こういう問題は本来、弁護士であれば誰でも対応できるはずなんですが、LGBTと弁護士がつながりにくいという現実があります。

「何でこの人に貸したんですか」となった時に、「元パートナーです」と正直に答えにくかったり、弁護士が真面目に取り合ってくれるかという不安があったりするからだと思います。法律のテーマ自体はどんな弁護士でもできることでも、性的マイノリティという問題が背景にあると途端に相談するハードルが上がってしまうのです。

■LGBTに理解がある人、ない人、無関心な人

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──若い世代のLGBTに対する理解は高い一方、上の世代の理解は低い傾向にあるといわれています。実際いろいろ方の相談に乗られる中でそういったことは感じますか?

山下:感じます。弁護士の中でも大きく違っていて、上の世代の方はLGBTへの関心が薄いと思います。その世代にLGBTが少ないからというわけではなく、その世代のLGBTに対する差別や偏見は今よりもとても厳しいものだったため、表にあまり出てこなかったのだと思います。90年代後半からインターネットや携帯電話によって出会いの場ができ、特に若い世代のLGBT当事者たちは上の世代の方々のような苦労と比べれば安定的な友人関係、自己肯定感が育まれやすくなっています。

LGBTであってもなくても、法律トラブルに直面するのは、若いときよりも、年を重ねた頃のほうです。今も高齢のLGBT当事者の方が法律トラブルで困っているはずなのに、なかなか法律家につながっていないという現状があります。今後若い世代が年を重ね、法律で守られていないと実感する機会が増えることで、社会を変えていく動きがますます進むだろうと思います。

──同性パートナーを公認する渋谷区や世田谷区の動き、職場内でのLGBT理解を進める企業の取り組みについてどのように捉えていらっしゃいますか。

山下:肯定的に捉えています。渋谷区で同性パートナーシップ証明を議会という多数決の場できちんと通したということは、少数派の人たちにとっては大きなことだと思います。また、世田谷区は行政の裁量で仕組みを作ったという点で、渋谷とはまた違った立ち上げ方をしたことも素晴らしいと思います。

一方、法的効果がないじゃないかとか、いろんな批判的な声もありますが、問題点はこれから改善していき、より良い物をつくっていくための次のステップにしていけばいいと思います。

──無関心の方もまだまだ多いと思いますが。

山下:関心がない方は恐らく、近くに当事者が「いない」のだと思います。なぜいないのか。それは当事者が言わない、言えないからです。言ってしまったら、からかわれたりいじめられたりして、居場所がなくなるかもしれない。よく笑いのネタになることもありますが、発言している人は何とも思っていないことが、当事者にとってはナイフで刺されるくらいの痛みになります。

自分の居場所がなくなる、存在を認められていない、ということはそれほど恐ろしいことなのです。だから興味関心がない方は、周りにいるはずなのに言ってもらえないのはなぜなのかということを、振り返ってみるといいんじゃないでしょうか。そういう人がいてもいいよね、からかうのはおかしいよね、というメッセージをどこかで発信していれば、「この人なら言っても大丈夫かな、言ってみようかな」と当事者たちは思うのです。

■民間企業はまだLGBTに冷たい?

──ライフネット生命はこのたび、数年前から検討を進め、1年ほど前より、本格的な議論を経て異性間の事実婚に準じる同性パートナーでも死亡保険金を受け取れるように受取人の指定範囲を拡大しましたが、この取り組みについてはどう思われますか?

山下:保険金の受け取りに関して言えば、法律には法律上の家族に限るとは書かれていないのです。それが、これまで実際には法律上の家族でないとダメな扱いにされてきた。家族に限ることでトラブルを避ける意味合いがあったにしても、その反面、保護されるべき人が保護されていない、パートナーを受取人にした保険に入りたいのにできないという大きな問題を生じていたことを考えると、今回のライフネット生命の取り組みは素敵だと思います。

LGBTへの理解促進というのはここ1年くらいのブームだと思われがちですが、いろいろなLGBT当事者の団体がずっと長く活動に取り組んでいます。行政の取り組みも、そして、貴社の取り組みも数年前から続けてきたこと。私たちの法律家のネットワークの取り組みも8年前からです。そうやって、みんなが少しずつ積み重ねてきて理解が進んできたのが、今につながっているのだと思います。

──生命保険の他にも、民間のサービスでLGBTの方が非当事者に比べて不満や不安を感じていることはありますか?

山下:たくさんあります。法律婚ができないと認められない法的効果には相続などがありますが、実は法律で認められないこと以上に民間の対応で認められないことが圧倒的に多いんです。例えば2人で住む部屋を借りようとしても、同性同士は断られやすい。住宅ローンでもペアローンを組めないという問題があります。

別に法律上結婚できなくても、大家はきちんと家賃を払ってキレイに使ってくれると思えば部屋を貸してもいいはずですし、金融機関もちゃんと回収できると思えば本来はお金を貸してもいいはずです。同性婚を国が認めるように一生懸命働きかけていくことも必要ですが、それと並行して法律婚が認められていなくても社会の中でLGBTという人たちがいることを前提に、民間がしっかりとサービスの提供や事業に取り組んでいくことがすごく大切だと思います。

──今後のLGBTに関する活動について教えてください 

山下:LGBTに関する法的なテーマ自体は弁護士なら誰でも扱えるものが多い。債務整理だって、昔はほんの一部の熱意のある弁護士だけが扱っていたものだけど、今では誰でも扱えるテーマになっています。そういう意味で、LGBTは決して特殊な分野じゃない。どんな弁護士でもLGBTの相談を受けられる社会にしたい。それに向けて輪を広げていきたいというのが一番の思いですね。

<プロフィール>
山下敏雅(やました・としまさ)
1978年高知県生まれ。2003年10月、東京弁護士会に弁護士登録。川人法律事務所、弁護士法人東京パブリック法律事務所(公設事務所)での勤務を経て、2012年に永野・山下法律事務所設立。過労死問題や子どもの虐待事件などを担当してきたほか、LGBT(セクシュアルマイノリティ)の支援なども行っている。
永野・山下法律事務所
LGBT支援法律家ネットワーク
どうなってるんだろう、子どもの法律

<クレジット>
取材・撮影/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/香川誠

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