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ここ数年で「イクメン」という言葉は定着してきましたが、一方で仕事と子育ての両立に悩む男性はまだまだ減りません。キャリアを積んで仕事が忙しくなる時期と、子どもが生まれるタイミングが重なることから、2つの間で板挟みになってしまう人が後を絶たない状況です。

日本初の父親支援団体、ファザーリング・ジャパン(FJ)代表の安藤哲也さんは、年に200回以上、そうした悩みを抱える父親向けの講演会やセミナーを行っています。

これからのイクメンは、どうすればもっと仕事と家庭の両立ができるのでしょうか? 少子化社会を迎えるなかで、父親が育児に積極的に参加していくために、社会や企業が支援すべきこととは何か? 自身が3児の父でもある、安藤さんに聞きました。

■仕事と家庭で板挟みになる原因は「長時間労働」

安藤さんがFJを立ち上げたのは2006年。夫婦共働きで忙しく働いている最中の子育ての難しさを実感し、「この問題を解決するためには、会社と社会を変えなければならない」と思ったことがきっかけでした。

「子どもが生まれたときは会社での仕事の責任も大きくなっていた時期でした。そのために家庭のことが疎かになり、妻や子どもとも距離ができてしまったんです。楽しい家庭を作りたくて結婚したのに、なんでこんなに息苦しいんだろうかと悩みました。

それで周りを見渡してみると、同じような息苦しさを抱えた男性がたくさんいる。その根本的な原因は働き方、つまり長時間労働です。これを解消していかないと、いくら男性が育児をしたいと思っても、仕事と両立するのは難しい。だから社会全体の意識を変えるため、FJを設立したんです」

安藤哲也さん

安藤哲也さん

最近は育児に対するモチベーションも高く、積極的にコミットしたいと思っている男性が増えてきました。しかし、子どもが生まれる前も後も働き方が変わらなければ、結局は母親の負担は減らず、妻の就労が継続できなくなったり、夫婦関係まで悪化してしまいます。

「僕は男性にアドバイスする際、『子どもが生まれたら、意識のOSを入れ替えたほうがいい』と話しています。妻だけに育児の負担を押し付ける時代は終わりました。昔は祖父母と一緒に住んでいたから男性が家庭を顧みなくても成立していましたが、核家族で夫婦共働きが主流の今は、男性が育児に参画しないという選択肢はあり得ない。

子どもが生まれてから、『働き方を変えずに父親としてできることは何か?』と考えるのは古いOSです。それだと、空き時間を活用した“手助け”くらいしか育児にコミットできず、妻の不満は溜まる一方です。そうではなく、『男性が子どもに関心を持ち、育児することは当然』と考える新しいOSで、働き方を見直すことが必要なんです」

■ますます重要な「イクボス」の役割とは?

しかし働き方を見直したいと思っても、自分の意向とは関係なく仕事はあり、残業だってそう簡単にナシにはできない……。そう感じている男性も多いでしょう。

そこで安藤さんは、「イクメンの次は『イクボス』を増やすことが重要になる」と指摘します。

「イクボスとは、男性も女性も、仕事と育児を両立できる職場づくりを支援する管理職のことです。男性の育児参加を推進するためには、個人の意識だけではなく、企業が変わらないとなりません。これもOSの入れ替えで、『定時に帰ることを認めるか、認めないか』と議論すべきじゃないんです。『定時に帰ることは当たり前』という空気を組織に浸透させていく。そのためには、『イクボス』が率先して定時に帰るようにすべきなんです」

安藤さん自身、会社員だったときは定時に帰る上司だったといいます。制度を用意するだけでは、「本当に帰っていいのかな?」と部下は躊躇してしまい、制度が有効に活用されません。そこで上司が自ら、定時に帰る働き方を実践して見せることが欠かせないのです。

「それでは業績が下がると心配になる人もいるでしょう。でも、すでにワーキングマザーのなかには、仕事の効率を上げることで高い生産性を保ちながら、定時に帰ることを実現している人がたくさんいます。定時を過ぎても会社に残っている人を評価するのではなく、コスパの良い働き方をしている人を評価する。イクボスがそう宣言すれば、部下も働き方を工夫するようになります」

安藤さんは現在の労働環境が、「どれだけ時間がかかっても9回まで試合が続く野球」から、「制限時間内での得点数を競うサッカー」に変わりつつあると指摘します。そこで問われるのは、労働の「コスパ」です。

では、どうやってコスパを上げればいいのか? そのヒントとして安藤さんが推奨するのが、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」に変わる、「しゅんぎく」というワークスタイルです。

「これは『瞬間的に訊く』という意味です。報告・連絡・相談は確かに重要ですが、報告のための資料作りや、多すぎるメールのやり取りには、『直接話せば一瞬で解決する』ものが少なくありません。『ほうれんそう』は業務を効率化するためのものなのに、『ほうれんそう』のために残業するのでは本末転倒です。

話せばわかることは資料にしない、CCメールは多用しない、会議は最小限にするなど、仕事のコスパを上げるため、イクボスが職場のちょっとしたルールを決めてしまう。そうして細かい『しゅんぎく』を積み重ねていくことで、労働時間はけっこう短縮できるんですよ」

■これからの男性のキャリアは「イクメン五段活用」に

「これからはダイバーシティを理解しているボスが理想の上司になる」と安藤さんは言います。子どもを抱えたまま働く女性は今後も増えていきます。彼女たちをマネジメントしていくためには、上司の育児経験の有無は重要な要素になっていくのです。

「働き方が変われば、育児をめぐる状況はどんどん良くなっていきます。僕らは『イクメンの五段活用』と呼んでいるのですが、『イクメン』を目指すと、やがて必然的にPTAや地域ボランティアなどに関わるようになっていきます。それが『イキメン(地域で活躍する男性)』です。

イキメンはやがて会社でイクメンを指導する『イクボス』になります。さらに歳を重ねるとそれは『イクジイ(孫世代を支援する高齢者)』になり、最後には介護にコミットする『ケアメン』になる。育児をめぐる状況が改善されることで、男性の人生のみならず社会全体が変わっていくのです」

反対に長時間労働がなくならず、父親たちが仕事のストレスを抱え込み続ければ、どこかに必ず「犠牲者」が生まれると安藤さんは言います。

「僕は『タイガーマスク基金』という、児童養護施設の子どもたちを支援する活動もしているのですが、そこにいる子どもたちは、両親の離婚をきっかけに貧困になり、養育環境が悪化し、仕方なく施設に入ったというケースが珍しくありません。そして離婚の理由を突き詰めていくと、父親が仕事ばかりで家庭を顧みなかった、仕事のストレスを家庭で爆発させていた、ということが多いんです。

時間がないということは、生活から余裕が失われているということです。それでは他人に優しい社会にはなっていきません。育児に限らず、いろいろな日本の問題は、やはり長時間労働をどう改善していくか、ということに尽きると思っています」

■子育てを軸に保険を見直すと……

このところ「ひとり親家庭」の貧困問題がメディアで話題になっていますが、この問題を考えるうえで、保障や保険に対する考えが間違って広がっているのが心配だと安藤さんは言います。

「夫はしっかりした生命保険に入っているけど、専業主婦の奥さんは入っていないというケースが多いんです。夫が亡くなると稼ぎ手がいなくなってしまうからですが、奥さんが亡くなった場合はどうか。当然、子育ては祖父母のサポートがない限り、子育て全てを自分でしなければなりません。残業や泊まりの出張もできませんから仕事を同じ水準でこなしていくことはできず、年収が下がっていきます。最悪の場合は、会社にいられなくなるかもしれない。

『男性は稼ぐ人・女性は子育てする人』という古いOSに囚われていると、そういう発想が出てこないんです。貧困に陥らないためにも、夫は子育ての当事者意識を持って、『もし妻がいなくなったら』を考えて保障や保険について考えることが必要でしょう」

FJやタイガーマスク基金のほか、子育てや働き方の改革をめぐるさまざまなプロジェクトにかかわっている安藤さん。自身の活動の最終的な目的は、どこにあるのでしょうか?

「僕らの活動の目的は『イクメン』『イクボス』なんて言葉をなくすこと。つまりファザーリング・ジャパンが活動しなくてもいい社会を作ることなんです。たとえば、男性のほとんどが育児休暇を取得するのが当たり前な北欧の諸国には、FJのような父親支援の団体はありません。『男性も育児に参加できるように企業や社会が変わるべきだ』と主張する必要がないからです。でも日本はいま、古いOSが新しいOSにすっかり変わるまでの過渡期。1日も早く、この団体を無くせるように活動していきますよ(笑)」

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<プロフィール>
安藤哲也(あんどう・てつや)
1962年生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパン代表。2男1女の父親。出版企業やIT系企業を経て、2006年、ファザーリング・ジャパンを立ち上げ代表に就任。NPO法人タイガーマスク基金の代表も兼務。その他、「パパ’s絵本プロジェクト」メンバー、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員、子育て応援とうきょう会議実行委員、にっぽん子育て応援団団長、ラジオパーソナリティなどその活動は多岐に渡る。著書に『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』(廣済堂新書)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)など

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉

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