ジョン・ウーさん(映画監督、写真右から2番目)香港で助監督としてキャリアをスタートさせ、86年に「男達の挽歌」でアクション監督としての地位を確立。96年の「ブロークン・アロー」で、ハリウッドでも成功を収める。主な代表作は「フェイス/オフ」「M:I-2(ミッション・インポシッブル2)」 など

ジョン・ウーさん(映画監督、写真右から2番目)香港で助監督としてキャリアをスタートさせ、86年に「男達の挽歌」でアクション監督としての地位を確立。96年の「ブロークン・アロー」で、ハリウッドでも成功を収める。主な代表作は「フェイス/オフ」「M:I-2(ミッション・インポシッブル2)」など

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第28回東京国際映画祭で第2回「SAMURAI賞」(第1回目の受賞は北野武監督)を受賞したジョン・ウー監督が、若手監督や映画を学ぶ学生に向けたトークショーを行いました。
※昨年行われた第1回トークショーの模様はこちら

トークショーは若手監督(Q)からジョン・ウー監督(A)への質疑応答の形式で行われました。質問は基本的には映画に関することですが、キャリアを考える上で大きな参考になる回答が多く聞けましたので、ライフネットジャーナルでも紹介したいと思います。


 

Q:監督は香港からハリウッドまでさまざまなキャストさんと仕事をされてきていますが、これまで宗教観や文化の違いで演出上困ったことはありますか? また、その時はどのように対応されたのでしょうか?

A:宗教にしろ、文化にしろ、政治にしろ、価値観が異なるどんな相手であっても、我々に共通しているのは人間性だと思います。もちろん人間性の中には感情も含まれています。日本人、中国人、アメリカ人……みな人間であれば、喜怒哀楽、正義感、あるいは善と悪といったものさしを持っています。そういう基準に基づくと、コミュニケーションはとりやすくなると思います。

例えばハリウッドで映画を撮る時に、役者が西洋人であろうと、私は特に人種の違いを意識することはなく、友人に向かって話をしているような感覚でいます。そうするとコミュニケーションがしやすくなって、映画の中で私たちは何をしようとしているかということがお互いに理解できるわけです。

例をあげると、日本人や中国人などの東洋人は、仁義というものをとても大事にします。仁義のためには、例えば、時には親を殺してもいいかもしれない。あるいは友人のために自分を犠牲にして死んでもかまわないと思うかもしれない。そういう価値観がある。ところが西洋の人にとっては、これは受け入れにくい価値観なんですね。

登場人物に関してこういった演出をすると、西洋人のみなさんは疑問を持ちます。「あなたが死んでしまったら相手をどうやって助けるんですか。相手を助けるためにはあなたが生き残らないと」と合理的に考えるわけです。そうすると結論が出ないんです。このような場合には、文化的な問題としてではなく、正義感という人間性の問題として話し合いをはじめます。そうやって話し合っていくうちに、ひとつの役柄ができあがっていくんです。

西洋の役者のみなさんは監督のことをとても尊敬してくれます。ただしその分監督は、何を撮りたいのか、どんな映像が欲しいのか、役者に何を求めているのか、そういうことを明確に伝えなくてはならない。役者も、自分にはどういうことが求められていて、自分はそれをどう表現したいのかがわかると、とても演じやすくなります。

若手の監督が陥りがちなことですが、現場で演出をしているうちに自分自身が役者に対して何を求めているのかわからなくなってしまう。そうすると現場は混乱します。だから監督は、自分が何をやりたいのかを、はっきりと伝えることが大事だと思います。

ジョン・ウー監督

ジョン・ウー監督

Q:ジョン・ウー監督はアジアから世界へ出られた映画監督として、アジアで映画を志す者としては憧れの存在です。日本でこれからどんな監督が出てくることを期待されているかお聞かせください。

A:今の日本の映画にも見応えのあるものがたくさんあります。でも私は年のせいでしょうか、昔の古い日本の映画が懐かしくて仕方ありません。黒澤明監督などの有名な監督が大好きだったんですね。

今の若い監督さんが持っている現代感覚は、とても大事だと思います。しかしそれだけでなく、現代感覚を持ちながらも、日本映画の伝統的な感覚、ある種の精神性みたいなものを取り入れてうまく結合することができれば、よりよい新しい作品がどんどんできてくるのではないでしょうか。

昔の日本映画は本当に美しく、飽きられることのない素晴らしい作品が多い。これは私の提案ですが、昔の日本映画の真髄を取り上げて、そこにみなさんの現代感覚を加えることで、新しいスタイルの日本映画を撮っていただけたらと思っています。

私自身も映画を撮る時に、わざわざ新しいことをしようとは考えておりません。私がハリウッドに行く時に、師匠であるチャン・チェに言われました。「お前はアメリカに行ったら、西洋のテクニックを駆使して我々の精神を表現することができればそれでいい」と。その話は実はとても重要です。みなさんもハリウッドへ行くことを考えているかもしれませんが、目新しいことをしようとする前に、まずはみなさんが持っている現代感覚、あるいは日本文化固有の精神的な部分の表現に挑戦してみてください。それができれば理想的な映画が生まれるのではないかと思います。

Q:マレーシアの者です。アジアが生んだ監督として、ハリウッドで作品を撮られていますが、ハリウッドで監督の作品について誤解されていることはありますか? 相手の誤解を解きたいという点はありますか?

A:撮影の段階では、いつも自分も準備万態で現場に臨み、役者やスタッフとのコミュニケーションも良好で、お互い理解し合っているので、作品が誤解されるということはありませんでした。

ひとつのエピソードを紹介します。『フェイス/オフ』を撮影したとき、現場はいたって順調でしたが、エンディングである問題に直面しました。この映画では、ジョン・トラボルタ演じる主人公が、戦いの末に相手の悪役を殺してしまいます。ところがその悪役には小さな息子がいた。我々の構想では、ジョン・トラボルタがこの残された男の子を自分の家に連れて帰り、妻と娘との4人で暮らすというエンディングにするつもりでした。

ところが撮影の段になって、会社側から突然言われました。このようなやり方はやめて欲しいと。理由は何ですかと聞くと、アメリカではヒーローが最後、敵の子どもを連れて帰るというのは、おそらく一般的には受け入れられない。ジョン・トラボルタが1人で帰ればいいんだと言われました。

私も意見を述べました。言葉や文化は違っても、アメリカ人もアジア人も人間性は共通しているのではないかと。つまりこれは人間性の問題だと思いますよ、と。最後は、ジョン・トラボルタが5歳の子どもを養育することになる方がいいのではないかと。しかし受け入れてもらえず、結局はジョン・トラボルタが1人で帰るシーンを撮りました。

ハリウッドで大きな映画を公開する時は、編集し終えて完成したヴァージョンをまず一般の方数名に観てもらって、アンケート調査を実施するというやり方をとります。そこでみなさんに点数をつけてもらったり、好きか嫌いかなどコメントを書いてもらったりします。『フェイス/オフ』の最初の試写の点数は33点でした。60点が合格ラインなので、33点というのは不合格ですね。

そのアンケートを見ると、「最後、なぜ主役の彼は男の子を家に連れていかなかったのか?」という質問が60%の観客から出されていた。その結果を見たプロデューサー達が、「間違っていた」と私のところにお詫びにきてくれました。急遽、撮影をし直すことになり、再度試写をやったら今度は88点になりました。

私はかなり自信を持つようになりました。アクション映画であっても、世界市場で人々に感動を与えるのに必要なのは人間性しかないと思います。国は違っても、誠、善、美、そういったものは人間共通ですから、それらをしっかりと映画の中で表現できれば、どんな国でも受け入れられると思います。

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<クレジット>
取材・文・撮影/ライフネットジャーナル オンライン編集部

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