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お金について、悩んでいない。そう断言できる人は少ないと思います。立冬が過ぎ、目前となった年末年始には何かとお金を使う場面も増え、将来の支出についても考える機会があるのではないでしょうか。子どもの学費や住宅ローン、医療費の増大や増税……お金の悩みはつきません。

『松浦弥太郎の新しいお金術』は、お金について漠然とした不安を抱える人、お金と本当に向き合っているか、実はよくわからないという人にとって、最初の一歩を踏み出すきっかけとなる1冊です。

著者は、元『暮しの手帖』の編集長であり、生活に寄り添う多くの著作を送り出している松浦弥太郎氏。「ていねいな暮らし」を見つめ続けてきた、松浦流のお金術を学んでみましょう。

■お金は友だち

考えてみると、お金と友だちはよく似ています。
上質な友だちづきあいが僕たちを幸せにするのと同じく、「お金さん」との上質なつきあいは、よい人生をかたちづくってくれるのではないでしょうか。

松浦氏は著書『松浦弥太郎の新しいお金術』の中でこのように語っています。そう、この本の中で、一番重要なことは「お金と友だちになる」ということなのです。

彼はお金を「お金さん」と呼び、大切な友人のように接します。そして「お金さん」と仲良くなるためには気づかいと努力が必要、と説くのです。

例えば、ちょっと疲れたとき、コンビニエンスストアで安易にお菓子を買うよりも、少し我慢して家でスープを作って食べた方が体にいいし、お金さんも喜ぶ。
こんなふうに、毎日の生活の中で「さて、こんな使い方をして、お金さんは喜んでくれるだろうか」と自問自答しているのです。

これは、簡単なようでなかなかできないもの。それでも「お金さん」に申し訳ないことをしてしまう、と考えれば、無駄遣いは減りそうです。

お金とのつきあいも、人間関係と同じように、相手を悲しませることはしない、喜ぶことをするようにと心がける。そうすれば、友だちは、仲間を連れてくる。こうした発想の転換が、お金とのつきあいを変え、人生の風向きを変えるのです。

■お金を自分のものにしない

この本には、彼自身が経験から学んだことのほかに、お金持ちとの交流の中で知った術も語られています。

「社会から流れ込んできたお金を自分がせき止め、私物化してはいけない。お金というのは社会のもので、いっとき自分のところを流れているだけなんだよ。(以下略)」

彼はある人からこのように教えられ、さらに、貯金も、土地や不動産の購入も「使い道」ではないと学んだそうです。巷では、貯蓄術、節税のコツ、得する運用というようなテクニックが話題を集めがちですが、それらは目的ではないのです。

自分が社会に小さな貢献をすれば、それなりのお金が入ってきます。大きな貢献ができれば、たくさんのお金が入ってきます。(中略)
お金さんが喜ぶように、社会に役立つように使えば、もっと大きなお金になって自分のところにもまた流れてきますし、社会全体に行き渡ります。

働き、お金を得て、使うこと。それらは全て「社会への貢献」を中心に流れているのです。

しかし、自分で稼いだお金を、自分のものとして考えない、ということはなかなか難しいもの。そんな、私たちが陥りがちな考えにも松浦氏は釘をさします。

うっかりすると「自分で稼いだお金は自分のもの。どう使おうと自分の勝手だ」という子どもじみた主張をしてしまいます。

これでは、お金と仲良くすることはできません。では、どのように考えればよいのでしょうか。

■「自分株式会社」を経営する

自分を会社だと考えてみるといいでしょう。僕であれば「株式会社松浦弥太郎」という会社を自分が経営しているつもりになるということです。

自分自身を一つの会社の経営者として見立てることで、徹底した客観性と、お金を私物化しない姿勢を貫くのです。

会社では、どんなに小さな金額のものでも、自分の娯楽のためのお金は横領となります。お金をどう使うか、ということにシビアにならざるを得ないのです。

「自分株式会社」に入ってくるお金と、出て行くお金を考えるとき、社会と自分とのプラスマイナスも考えてみましょう。
自分が社会に役立ち、貢献したことは、プラス。自分が社会に助けてもらったことは、マイナス。

助けてもらうことで使うお金よりも、貢献して得るプラスのお金が多く、その手元に残ったお金を正しく使って、社会に循環させていくことが、正しいバランスであると松浦氏は考えます。

ここから、働き方や仕事の本質も見えてくると僕は感じています。自分から与えなければ、入ってくるものなど何ひとつないというルールがわかってきます。

例えば、もっと給料を上げてもらいたい、という不満を抱くことは、「もっと社会に助けてもらいたい」というマイナスを増やす行為であり、「自分株式会社」が社会に貢献することと、相反してしまいます。

この「自分株式会社」と言う考え方は、自分を律する大きな助けとなるだけでなく、物事の有り様を理解する、ユニークなアイデアなのです。

このように『松浦弥太郎の新しいお金術』には、お金との本当のつきあい方だけでなく、働き方や人づきあいの知恵が綴られています。老若男女、どんな人にもためになる、生き方の基礎となる術がつまっているのです。

<クレジット>
文/田中歩