写真左:御手洗瑞子さん(気仙沼ニッティング 代表取締役社長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

写真左:御手洗瑞子さん(気仙沼ニッティング 代表取締役社長)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

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岩瀬大輔による、「気仙沼ニッティング」代表取締役社長の御手洗瑞子さんインタビュー。震災後に立ち上げた同社が1着15万円のカーディガンをヒットさせたいきさつに続き、後編では御手洗さんのブータン時代の仕事や生活についてもうかがいました。(前編はこちら)

■「稼げる会社」とは? 気仙沼ニッティングが考える「未来の老舗」

岩瀬:気仙沼ニッティングが2013年の設立時に掲げた目標のひとつに「稼げる会社になりたい」というものがあります。「稼げる会社」とは、どのように定義していますか?

御手洗:経済的に自立していて、持続可能な会社であるということです。会社としては当たり前のことなんですが、震災直後は被災地でビジネスをすると「利益を出して稼いでいる」と反発されかねない雰囲気もあったので、あえて先に「私たちはチャリティーではなく、自立したビジネスをしたい」ということを明言しました。

岩瀬:その文言を掲げて、働いている人たちが戸惑うようなことはありませんでしたか?

御手洗:全然。「わーいわーい。稼ごう稼ごう」って(笑)。堂々と仕事をできるようになって気持ちよかったのではないでしょうか。初年度の収支が黒字になって「納税できます」と報告した時も、「これで、肩で風を切って気仙沼を歩ける」とみなさん喜んでくれました。

会社が黒字かどうかは、編み手さんたちの収入とは直接関係ありませんが、納税して街に貢献している会社で働いているということがみなさんの誇りにもなるんだと気付かされました。会社を立ち上げて本当によかったと思える出来事でした。

岩瀬:地域に貢献することで、御手洗さんが目指す「100年続く会社」、「未来の老舗」に近づいていくわけですね。

御手洗:そうですね。100年続く会社というのは、わかりやすいからそう言っていますが、実際の経営に必要なのは結果論ではなく、「経営指針としてどうしたいか」だと思います。100年続くというのはつまり、代替わりしても繁栄し続けるということです。そのためには、短期的な利益を追い求めるのではなく、長期的な可能性を食い潰すことをしない意思決定を常にしていかないといけないと思います。

岩瀬:長く続くことにこだわるのはなぜですか?

御手洗:実は会社を立ち上げた当初、会社の理念にこのフレーズは入っていなくて、最近言うようになったんです。お客さんから寄せられる「一生モノのカーディガンが欲しい」とか、「母から娘に2代にわたって着られるものが欲しい」といった声を聞いているうちに、購入されるほとんどの方は、ずっと着られるものを望んでいるということがわかりました。
だから「うちの商品は糸がほつれたら補修します」と案内していて、いつでも補修できるように商品に使った糸は全ロット取っています。もし私たちの会社がなくなったら、お客さまは相談できる窓口がなくなってしまいますので、ずっと会社が続いていくことが必要なんです。

岩瀬:お客さまだけでなく、働く人にとっても長くというのはいいことですね。

御手洗:そうなんです。去年の冬、あるデザイン雑誌の記者の方が取材に来られて、編み手さんたちに「会社に何を望みますか?」と聞いていました。私は離れた場所から、「何て言うのかな」と思って聞き耳をたてていたのですが、ほとんどの編み手さんが「ずっとこの仕事を続けられるようにしてほしい」と言っていたんです。

自分の生活の中に編むという行為があって、これがずっと仕事になったらうれしい。そのためにもっと上手に編めるように努力をする、と。気仙沼ニッティングはオーナー企業なので、ステークホルダーはお客さんと働いている人たちの二者だけです。だから、お客さんと働いている人の幸せを実現することが、会社の使命になる。お客さんと編み手さんの双方から「ずっと続いてほしいと望まれている会社なんだな」とわかったことで、「続く会社になろう」と思いました。岩瀬さんが行っている生命保険会社も、続くことが大事ですよね。

岩瀬:生命保険というのは、短くても10年20年、さらには一生涯保障するというものなので、最初から続くことを前提とした仕組みなんです。だから気仙沼ニッティングみたいに、いろいろ考えながら、お客さまや働く人から論理的に導かれて会社の理念に、ずっと続くというフレーズが追加されるというのは面白いなと思いました。

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■「見える仕組み」でモチベーションアップ

岩瀬:1着作るのに50時間もかかるということで、編み手さんたちのモチベーションを維持するのも大変だと思います。何か工夫していることはありますか?

御手洗:編み手さんたちが、お客さんを見えるように工夫しています。ただ会社にセーターを納品して終わり、ではなく、そのあとどんな風にお客さんによろこんでもらっているか見えるように。編み手さんたちは普段、自宅で作業していますが、週末にオープンしている気仙沼ニッティングのお店「メモリーズ」では、お店の中で編み手さんたちが編む作業をしています。お客さんと編み手さんが会える場所なんです。買う人にとっても、自分たちのセーターがどうやって編まれているのか見られるとうれしいですし、編む方にとっても、どんな風にお客さんがよろこんでくれているか見られるとやりがいになります。また、編み手さんの姿が見えるようになると、お客さまから直接編み手さん宛てにメールや手紙が届くようになりました。

岩瀬:例えばどんなメッセージですか?

御手洗:「いつも愛用しています」とか、「同窓会に着ていったら友達に褒められました」といったもので、写真付きで送られてくることもあります。そういうメッセージが編み手さんに伝わると、「こんなふうに着てもらっているんだ」とか、「本当に一生モノとして大切に使ってくれているんだ」という気づきになって、「もっといいものを編みたい」というモチベーションが生まれます。

岩瀬:普通、買った服が気に入ったからといって、なかなかそのメーカーに写真までは送らないと思うんですけど、メッセージが行き交うための仕掛けも作っているんですか?

御手洗:そうですね。オーダーメイドのMM01は、編み始める時に編み手さんから「私が担当させていただきます」というごあいさつのカードを送っています。編んでいる途中にも「これくらい編めましたよ」と写真で報告したり、手紙のやり取りをしたりしています。レディーメイド(既製品)の商品にも、スタッフからのメッセージや返信用封筒を入れていています。お客さまからお手紙があってそこに住所を書いてくださっている場合には、編み手さんから返信しています。

岩瀬:もはやプロダクトだけを売っているのではなくて、作っている過程や編み手さんとの関係性も含めてトータルでお客さまに楽しんでもらっているわけですね。

御手洗:オーダーメイドのカーディガンを注文された沖縄のお客さまから、「今自分のカーディガンを編んでくれている○○さんの差し入れに」と、ちんすこうが送られてくることもありました。

岩瀬:沖縄は暑いのにカーディガンを欲しがるんですね。

御手洗:沖縄も、冬は寒く感じるそうです。20度を切ると寒く感じて、ダウンを着たりこたつを出したりすると聞きました。

岩瀬:全国のいろんな人とやり取りができると、編み手さんたちも楽しく仕事ができますね。

御手洗:こういう人が待っていてくれているんだということがわかると、編み手さんたちも楽しいようです。お客さまに喜んでもらうためにもっといいものを編みたいという気持ちがないと、編み手さんたちが下請けマインドになってしまって、クオリティの低下につながります。もちろん納品時のチェックリストもありますが、「それさえ通っていればいいだろう」となると最小の力しか出してもらえなくなってしまうので、編み手さんからお客さんが「見える」こと、は大切にしています。

気仙沼ニッティングの編み手さんたち 撮影:繰上和美

気仙沼ニッティングの編み手さんたち 撮影:繰上和美

■1着15万円と1泊15万円

岩瀬:気仙沼で事業を始める前、御手洗さんはブータン政府で働いていましたが、当時経験したことや勉強したことが今にもつながっていると思いますか?

御手洗:思いますね。私はブータン政府で観光産業の育成を担当していました。ブータンは経済水準の高い国ではありませんが、人はあまり「小さな途上国」とは見ていないと思います。「幸せの国」としてある種のあこがれを持って見ています。そして、観光客の単価は非常に高いんです。たとえば、ブータンにはアマンリゾーツのホテルがあります。私は観光産業の仕事をしていたので、よくアマンのホテルに出入りしており、そのときに「お客さまにどういうケアしているのかな?」と観察していました。やっぱり、よくできているんですよ。アマンでは、お客さまがその地域の文化を感じられたり、特別に扱われていると感じられたりする工夫があって、お客さま一人ひとりへの目配りがしっかりしているんです。それでいてマニュアルっぽくない。そういう部分を見ていたのは勉強になったと思います。

岩瀬:気仙沼ニッティングの15万円という単価路線がしっくり来たのも、ブータンのアマンを見ていたからじゃないですか? 被災地でビジネスをするとしたら、普通は低価格帯のものを出すんじゃないか思っていたので、この逆転の発想はどこから来たんだろう、ってずっと思っていたんです。

御手洗:そうですね。アマンは1泊1400ドルなので、カーディガンの1着15万円とほとんど同じ値段です。「うちのカーディガン1着はアマンの1泊だ」という感覚は確かに頭のどこかにはありますね。

岩瀬:ブータンで働いたことの影響はものすごく大きいんですね。ところでなぜブータンで仕事をしていたのですか?

御手洗:学生時代から、国際協力に興味がありました。私は子どもの頃、国際キャンプなどに参加して、いろんな国の友達ができたこともあって、先進国の人間が上の立場から「支援してあげる」という姿勢はあまり好きではなかった。同じ目線で普通に話せる感じが自分に合っているので、支援機関を通じてブータンに行くのではなくて、ブータン政府の人間となってブータンの人たちと一緒に産業育成をしていく仕事にとてもやりがいを感じていました。

岩瀬:とはいえ、ブータンはまだ途上国なので、支援も必要じゃありませんか?

御手洗:ブータンでの産業育成における最大の障壁は、国民が支援慣れしてしまっていることでした。支援されることが当たり前になってしまうと、その後の自立が大変です。もちろん、支援が必要な部分もありますが、ブータン政府としては、中長期的に自分たちが自立するために、いまはなにについては支援を受け、なにについては多少大変でも自力で頑張るのか、戦略的に考えて支援も選択していく必要があります。そんなブータンで仕事をしていた時に日本で震災があって、おそらく被災地も中長期的にそういう課題に直面するだろうと思いました。

実際、震災直後は相手のためになにが必要か冷静に考えるというよりも、「何かしたいという私の気持ちを受け取ってください」という自分本位でエモーショナルな支援も多く見受けられました。支援というのは諸刃の刃なんです。相手を助けることもありますが、相手が自立する力をそいだり、金銭感覚を狂わせることもあります。また、補助金頼みの事業ばかりでは自立していく力が弱ってしまうのが目に見えていました。自分にできることは小さいけれど、それでも、まずは健全だと思えるものをつくるところからはじめよう、と思いました。

■起業という楽しいお金の使い方

岩瀬:ブータン政府で働いていた時の月給は2万5千円だったそうですけど、お金の面では困りませんでしたか?

御手洗:それでもブータンの平均月給よりは高いですし、ブータンは物価も安いので、日々の暮らしに困ることはありませんでした。ただその時よかったと思ったのは、自分に貯金があったことです。そんなに大きな額ではありませんが、大学卒業後の数年間、実家住まいで会社勤めをしていたので、20代の女性が1~2年暮らしていけるだけの蓄えがありました。そのおかげで、ブータンに行くという決断をできたと思います。気仙沼での起業にふみきれたのも、同じかもしれません。大した額でなくても、慎ましく暮らせば半年や1年はもつかな、と思える額の蓄えがあると、岐路に立ったときに挑戦しやすくなるかもしれませんね。

岩瀬:お金を貯めて海外で働いたり、被災地で起業したりと、いいお金の使い方をしていますね。

御手洗:ありがとうございます。たしかに、日ごろは節制していても、ぽんとまとまったお金の使い方はしているかもしれない。ある程度まとまったお金があると、こんなに自由に楽しいことができるんだ、と学びました。お金は寝かしておくだけでは何にもならないし、浪費していつの間にか無くなってしまうかもしれない。でもそのお金を元に会社を始めれば、自分も面白いし、人に豊かなものを生み出せる。いい使い方をしたな、と思います。

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岩瀬:事業の楽しさに目覚めたわけですね。また新しい事業も考えていたりしますか?

御手洗:いまは気仙沼ニッティングに集中していて、あまりほかの事業のことは考えていません。そうそう、ブータンに行ったり、気仙沼で起業したりしたときに、もうひとつ役に立ったことがあります。それは「いざとなっても、きっと自分が食べていくくらいはどうにか稼げる」と思えていたこと。自分でそう感じられるようになると、やりたいことに挑戦する勇気が出ると思います。貯金も大事ですが、それ以上に、自分は最低限なにがあれば暮らしていかれるのか自覚していること、その分を稼ぐ力を自分で持っておくことは、もっと大切なように思います。日々の仕事に誇りを持って楽しく取り組むことから、新しいことが始まると思います。

<プロフィール>
御手洗瑞子(みたらい・たまこ)
1985年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年よりブータンで公務員に。初代首相フェローとして1年間勤める。2012年「ほぼ日刊イトイ新聞」の「気仙沼ニッティングプロジェクト」に参加。2013年代表取締役社長に就任。著書に『ブータン、これでいいのだ』、『気仙沼ニッティング物語 いいものを編む会社』(ともに新潮社)。
●気仙沼ニッティング

<クレジット>
取材・文/香川誠
インタビュー写真/村上悦子

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