渡辺由美子さん(特定非営利活動法人キッズドア理事長)

渡辺由美子さん(特定非営利活動法人キッズドア理事長)

いま日本では、子どもの貧困が社会問題になっています。子どもの貧困率は16.3%といわれています。とりわけ、母子世帯の経済的困窮は著しく、平均収入は243.4万円と全世帯収入平均の半分以下のため、ひとり親家族の子どもの貧困率は54.6%。つまり2人に1人は貧困状態となっています*。
*参考資料:内閣府「平成27年版 子ども・若者白書(全体版)」、厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査の概況」

そうした家庭の子どもたちの多くは困難な環境から勉強する習慣が身に付かず、塾に行く余裕もなく、高校や大学への進学をあきらめ、夢を持てずにいます。彼ら彼女たちにも社会で活躍してもらいたい。そんな思いから無料の学習指導を行っているのがNPO法人キッズドア。「日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会」を目指して精力的に活動する理事長の渡辺由美子さんに活動内容や今後の目標についてお聞きしました。

■日本では義務教育でもお金がかかる

──まずキッズドアを立ち上げた経緯について教えてください。

渡辺:2000年に、夫の仕事の関係で二人の息子とともに英国で暮らしたことがきっかけです。行ってびっくりしたんですが、息子が通っていた小学校ではほとんどお金がかかりませんでした。払ったのは、遠足代の2ポンド(約500円)ぐらい。お金が必要になればバザーやチャリティを開いたり、寄付を募って集めていました。英国は日本よりも格差社会ですが、子どもにはあまり差がない。日本のようにお稽古に熱心なわけでもないのでお金の心配がないんです。地域や企業が学校や子どもを支えていました。

──日本とはまったく違いますね。

渡辺:そうなんです。1年後に帰国したら、地元の小学校では給食、教材費、写真代など、毎月何らかの支払いが必要で、さらに修学旅行費も別途かかる。日本の学校はお金がないと安心して通えないと思いました。英語やスイミングなどのお稽古に通う子も多い一方で、まったく家計に余裕がない家庭も多い。夜遅くまで働いているから、保護者がPTAや学校行事にも出て来られないという家庭もたくさん見てきました。
それで、お金がない家庭をなんとか支援できないかと考え、最初は子どもの支援をしている団体を探したんですが、海外の子どもの支援はしていても、日本の子どもに特化した団体はなかったんですね。だったら自分で作ろうと、2007年に立ち上げたのがキッズドアです。

──最初から学力支援を行っていたのでしょうか。

渡辺:いえ、はじめはこんなに勉強に困っている子どもが多いとは知らなかったので、学生ボランティアを集めて、無料のイベントやワークショップなどを開催していました。経済的な余裕がない家庭の子どもたちは旅行にも行けません。博物館や展示会に行くこともできないし、スポーツ体験も乏しい。体験活動をする機会がほとんどないので、それを少しでも提供したいと考えました。
でも、一番来てほしい子どもたちは来なくて、私よりもよほど良い生活をしているような子どもばかりが目立つ(笑)。調べてみると、保護者は土日も働いていているので休日子どもと出かけることもできず、想像以上に余裕がない家庭が多いことがわかった。インターネットでイベントの告知をしても、パソコンもない家庭が多いので情報も届かないし、来たくても交通費がかかるので気軽には来られないんですね。

■貧困家庭が切実に欲していたのは、学習支援だった

──それで学習支援に活動内容をシフトされたのですか。

渡辺:そうですね。産経新聞の夕刊に活動内容が紹介されたのもひとつのきっかけになりました。記事が載ると、事務所の電話が鳴りっぱなしだったんです。特に母子家庭のお母さんからの電話が多く、みなさん、「うちはお金がないから公立高校でなければ進学はできないけれど、いまの成績だと入れる学校がない」とか「勉強をがんばってくださいと言われても、学校で見てくれるわけではないし、勉強の仕方がわからない」と子どもの勉強について悩んでいる。
そんなに勉強に困っているのであればと、大学生のボランティアが講師となって2010年の夏休みからタダゼミという高校受験対策講座を無料で始めました。

──最初はどれぐらいの子どもたちが集まったのでしょうか。

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