エステー株式会社 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 鹿毛康司さん

エステー株式会社 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 鹿毛康司さん

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東日本大震災直後、企業のテレビCM放映自粛により、テレビはニュースと公共広告ばかりが流れていました。そんな状況がしばらく続いていたときに、突然テレビからポルトガル・リスボンの美しい景色をバックに、金髪の少年「ミゲル君」が「消臭力」と歌い上げる素晴らしいアカペラが流れてきました。その15秒の間、テレビに釘付けになってしまった人も多いのではないでしょうか。

震災で傷つき、疲れた人々の心に響く印象的なCMを制作したのは、エステー株式会社でクリエイティブ・ディレクターを務める鹿毛康司(かげ・こうじ)さん。「消臭力」以外にも同社の広告全ての制作統括を担い、どれもCM好感度ランキングの上位に入っています。なぜ鹿毛さんのつくるCMは、見る人の心をとらえるのでしょうか。ライフネット生命の社内勉強会で話してくれたCMづくりの秘訣から、あらゆるビジネスに応用できる仕事術までをご紹介します。

■本音を見つけるには、想像と愛情

日本でテレビCMがどれくらい制作されているか、みなさんはご存知ですか? 答えはなんと、1か月あたり約1,000本。そのうち多くのCMは、視聴者の心に残らないまま放送を終えます。しかし、エステー株式会社のクリエイティブ・ディレクター、鹿毛康司さんの作るCMは違います。「消臭力〜ミゲル君ver.」を始め、T.M.Revolutionの西川貴教さんが出演する同じく「消臭力」や、「脱臭炭」「米唐番」など、商品名を聞けばテーマソングが思い浮かぶ、そんなCMを世に送り出し続けています。

見る人に強い印象を与えるCMと人知れず消えていくCMとは何が違うのか。鹿毛さんはこう語ります。

「CMは生身の人間がつくっているし、それを見るのも生身の人間。まずはそこを忘れちゃいけないよね」

広告をつくる時、はたまた、新しい商品を企画する時などビジネスのシーンでは、ついアンケート結果やマーケティング分析といったデータばかりにとらわれてしまうことを、鹿毛さんは指摘します。

「男女が口説いたり、口説かれたりする時って、絶対相手の表情を見るじゃないですか。そこに本音が隠されているから。『この人は身長が何cmで、年収がいくらで……』っていう定量データは、最初は重要かもしれないけど、最後は結局相手の本気がどれくらい伝わってきて、心動かされるかだよね。それはビジネスでも同じ」

消費者の本音を知るために、鹿毛さんがCM制作前に行うグループインタビューは、少し変わった手法をとるといいます。制作総指揮である鹿毛さん自身が、インタビューが行われる部屋の隣に入り、マジックミラー越しにインタビュイーの表情をくまなくチェックするそうです。

「消費者って本当のことを言わないし、そもそも多くの人は、自分自身の本音をわかっていない。じゃあどうやって見つけるかっていうと、まずは陰からその人のことをずっと見て、表情や口調などから情報をたくさん集めるんです。その時に大事なポイントが2つある。1つはターゲットの情報を集めながら、その人のバックボーンを想像し、ストーリーをつくる。もう1つはその人に愛情を持つ。これは映画とかドラマを見てる時に、主人公に感情移入してしまうのと同じですよね。映画の主人公に感情移入するように、ターゲットの気持ちに入り込むことができたら、その人が何を欲しているのか、どんなことに心動かされるのか、自ずとわかってくるはず。

広告も同じで、最近はみんな、twitterで発信しなきゃ、ネットで展開しなきゃ……ってツールのことばかり先に考えちゃう。そうじゃないよね。見る人に何を伝えたいのか、どうやって喜んでもらいたいのか、本来はそこをまずしっかり考えた上で、そのためにはテレビCMが必要だよね、ホームページも作らなきゃ、という話になる」

■左脳と右脳でCMはできている!

このようにして発見した深層心理を、次はどうやって形にしていくのでしょうか。これまでの情報収集、想像の段階は「左脳」の仕事、ここから先は「右脳」の出番だと鹿毛さんは言いますが、どういう意味でしょう。

買ってもらえるブランドになれるかは、トライアングル・モデル(*)によって決まってきます。まず土台が「認知」。その上に「機能」「評価」という機能的価値、「感情」「印象」という情緒的価値が乗っていて、一番上は「共感」。どれだけ共感してもらえるかが、購買までたどり着くかどうかを決めるのですが、そのためには前段階で機能的価値だけでなく、見る人の感情に訴えるような付加価値を生み出さなければいけません。そしてそんなCMを作るためには、人間の印象や感情を司ると言われている右脳を働かせる必要があるというのです。

*ブランド論の第一人者、ケビン・L・ケラーが提唱する「ブランド共感のピラミッド」による。

トライアングル・モデル

トライアングル・モデル

例えば「米唐番」のCMは当初、商品の機能面を訴求するものにしようと話が進んでいました。しかし途中で「機能は丁寧に説明しなくてもわかってもらえる。代わりにもっと印象に残るようなアピールをしよう」と方向性を転換することに。ここで、右脳の出番がやってくるのです。鹿毛さんは右脳を駆使して、クリエイティブな発想を生み出していきました。

日本人にとってお米は特別なものである、という日本人ならではの感情に訴える効果を狙い、「日本の文化をみんなで守ろう」というフレーズに行き着き、また、見た目にもインパクトの高いCMに仕上がりました。結果、放映直後からネット上でも大変話題となり、制作陣の狙いは見事に的中したわけです。

「あと『ツッコミどころ』を残すことも大事。そうすると目に留まるし、忘れない。それにみんなが勝手にtwitterで広めてくれる、いわゆる“バズる”効果もあるからね」

という、熟練のワザも伝授してくれました。

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■広告費ランキング230位の会社でも、天下を取れる仕事術

「伝えたい相手の生身の姿を想像する」「感情に訴えかける」という2つを守ってCMを作り続けてきた結果、年間広告費ランキング230位のエステーが、消費者からの評価では、エステーの数倍もの広告費を使っている企業と肩を並べています。「CM好感度ランキング(企業別)」では同業他社を抑えて最高ランキング8位、「よい広告活動をしている企業ランキング(日経調べ)」では5位という数字が、その実力を証明しています。

さて、鹿毛さんから学んだ消費者に響くCMづくりの秘訣は、クリエイティブの仕事をしている人に限らず、あらゆるビジネスパーソンの仕事に応用できるのではないでしょうか。

例えば営業に従事されている方。商品への愛ばかり一方的に語ってはいませんか? 本当に愛情を込めるべきは、商品ではなく、それを使うお客さまのはずです。商品の開発に汗水流してくれた人に感謝をしつつ、使ってくれるお客さまがどういう生活をしているのか想像し、どういうシーンでそれが役立つのかを伝えてみてください。

金融や車、不動産など、複雑な商品の説明をしなければならない担当の方。あなたの説明は相手に本当に伝わっていますか? 四角四面に契約内容を読み上げるだけでなく、時にはユーモアを交えて、印象に残るように話をしてみてはいかがでしょうか。

そして最後にもう一つ大事なこと。あなたの仕事の、会社の大事な根っこである「理念」を忘れなければ、「小さな会社でも天下を取れる」。鹿毛さんから学んだ仕事術でした。

<プロフィール>
鹿毛康司(かげ・こうじ)
1959年福岡県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、雪印乳業株式会社に入社。1993年には米・ドレクセル大学にてMBAを取得。2003年、エステー化学株式会社(現・エステー株式会社)入社。クリエイティブ・ディレクターとして同社の広告すべての統括制作を担うようになる。2004年度CM好感度躍進企業第2位認定(CM総合研究所)。その後もCM好感度ランキング(生活雑貨類、同研究所調べ)上位に入るテレビCMを次々と制作。2011年には震災復興の願いを込めた「消臭力~ミゲル君」で好感度ランキング1位を奪取。ACCゴールド賞を受賞。

<クレジット>
文・撮影/ライフネットジャーナル オンライン編集部

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