中竹竜二さん(ラグビー日本代表でコーチングディレクター)

中竹竜二さん(ラグビー日本代表でコーチングディレクター)

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2015年に大ブームとなったラグビー。読者の中には、W杯での日本代表の活躍に夢中になった方も多いはずです。

そんなラグビー日本代表チームでコーチングディレクターとU20代表ヘッドコーチを兼務するのが、中竹竜二さん。2006年、32歳でラグビーの名門・早稲田大学の監督に就任。まったく指導者としての経験がなかったにもかかわらず、わずか2年で同大学を全国大学選手権優勝に導きました。

名門大学を率いて実績をあげ、現在はラグビー日本代表の活躍を支える、そのコーチング技術やマネジメント手法の秘密とは何か? ラグビーファンだけでなく、ビジネスパーソンにとっても仕事のヒントがたくさん詰まったインタビュー前編です。

■良いコーチとは「ゴールを明確にできる人」

――まず、コーチングディレクターという役職について教えてください。

中竹:多くの方にはあまり馴染みがない役職だと思います。日本のラグビー界としても、僕が初代です。でも、ラグビーの強豪国には昔からコーチングディレクターがいるんですよ。役割としては「コーチのコーチ」、つまり指導者を指導する立場です。2019年のラグビーW杯に向かって日本代表を強化するにあたり、2010年に新設されました。

――早稲田大学の監督を退任された後ですね。しかし「コーチのコーチ」とは、具体的にどんなことを指導されるのですか?

中竹:選手は試合のパフォーマンスを高めるためにいろんな練習をしますけど、意外にコーチって、自分のコーチング能力を高めるためにどんなトレーニングをすればいいのかわかっていないものなんです。だから僕の役割というのは、まずはちゃんとコーチの仕事の要素を細分化して整理する。それを高めるためのトレーニング法を指導していきます。もうひとつは、良い選手を発掘するのと同じように、良いコーチを発掘することも重要な役割です。

――確かに、選手に比べてコーチの仕事の中身というのは客観的に評価しづらい。では中竹さんが考える、「良いコーチ」の定義とは、どのようなものでしょうか?

中竹:基本的にはマネジメント能力が優れていることが一番重要ですね。もう少し具体的に言うと、「ゴールを明確に示すことができるかどうか」です。

例えば練習のメニューを組むときに、ゴール設定がないコーチっているんですよ。昔から良しとされてきた練習だからやる。そういう方が少なくないんです。しかし本当は、「こういうゴールに向かうためには、この練習が必要なんだ」と結果から逆算できなければ意味がない。それはなぜか?

ゴール設定が明確でないと、戦略を立てられません。そして戦略がなければ、結果を後から振り返って修正することができないんです。企業でいうPDCAサイクルと似たようなものですね。

■実践の結果を振り返ったときにしか人の成長はない

──「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)→Plan……」と繰り返してプレーを改善していくと。最初の部分のPlanを立てるためにも、まずはゴール設定が必要ということですか。

中竹:ええ。ただ、僕はプランニングとはいわずに、プレビューと呼んでいます。プレビューとは、プランニング(戦略立案)とプレパレーション(準備)を一緒にやるということです。日本ではプランニングはするけど、プレパレーションはしないというケースが珍しくありません。

いくら良いプランを立てることができても、それを適切に実行するための環境が整っていなければ意味がない。良い練習内容を思いついて、「さあやるぞ!」と思ったとします。しかしボールの数が選手の数に対して足りなかったり、その練習を行うためのスペースが確保されていなかったらできないですよね? とても基本的なことですが、環境を整えるということは、基本だからこそ忘れられがちです。だからプランニング能力だけでなく、プレパレーションの能力を高めていくことも重要なんです。

――それはコーチだけでなく、企業のマネージャーやリーダー層でも同じことが言えそうです。

中竹:さらに付け加えるなら、戦略を実践してみたら結果がイマイチだった、素晴らしく思えた練習内容を試してみたら選手の反応が想定と違っていた、そういう場合に即座に修正できるかどうか。それも優れたコーチに欠かせない能力です。後からゆっくり振り返るのではない、実戦での「ディシジョンメイク(Decision Make)」です。PDCAサイクルにおける「Do(実行)」の部分ですが、これを僕は「ディシジョンメイク」と呼んでいるんです。

――ただ実行するだけでなく、常に現実と照らし合わせながら修正していく能力も重要だ、と?

中竹:そうです。計画を立てることはできても、それをただ漫然とやっていては意味がない。プランニングしたことが本当に正しく行われているのか、現場で判断し、修正していく能力ということです。

――なるほど。今のお話を企業に置き換えた場合、計画や準備に時間をかけることはあっても、それを現場で正しく行われているかチェックする機会があまりないように感じます。

中竹:選手もビジネスパーソンも、準備に時間をかけているだけでは成長しないですよね。実践の結果を振り返ったときにしか人の成長はありません。これは失敗したときだけでなく、うまくいったときも同じことがいえます。どんな準備や計画があったからうまくいったのか。それを後から検証することで、再現性を高めたり、より精度を上げていったりすることができるんです。

■コーチの指導は反発ばかりだった

――お話をうかがっていると非常に納得できる部分が多いです。しかし「コーチをコーチする」といったときに、現場の反発はなかったのですか? 企業のマネジメント層もそうですが、人の上に立っている人を指導することは、選手を指導する以上の難しさがあるのでは?

中竹:やっぱり最初は総スカンですよ(笑)。コーチには役職に対するプライドがありますから、人から自分の業務内容を評価されたくない。しかもラグビーのコーチというのはみなさん僕より年上で、キャリアも経験も豊富な方ばかりなわけです。そりゃあ反発されますよね。

――その難しさをどうやって突破されたのでしょうか?

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