中竹竜二さん(ラグビー日本代表でコーチングディレクター)

中竹竜二さん(ラグビー日本代表でコーチングディレクター)

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ラグビー日本代表でコーチングディレクターを務める中竹竜二さん。聞き慣れない役職ですが、その仕事は「コーチをコーチする」こと。ラグビーの名門・早稲田大学の監督として全国大会連覇に導き、あの五郎丸選手も指導してきた中竹さんは現在、全国で指導者を育成する仕事に携わっています。(インタビュー前編はこちら

「優れたスポーツ選手と優れたビジネスパーソンには共通点がある」と指摘する中竹さん。ラグビー日本代表の躍進の理由から、ビジネスにおける「コーチング」の重要性まで、ビジネスパーソンにとっても仕事のヒントがたくさん詰まったインタビュー後編をお届けします。

■エディー監督ほど日本の勝利を信じた人はいない

──中竹さんから見て、ラグビー日本代表の躍進はどのような変化がチームにあったからだと思われますか?

中竹:僕は監督のエディー・ジョーンズと4年間仕事をしていて、本人に「なんで南アフリカに勝てたと思う?」と聞いたことがあるんです。彼は「やはり自分自身が日本代表は勝てると信じたからだ」と答えていました。

日本代表が南アフリカに勝つという目標設定って、本来は世界からすると失笑レベルなわけです。エディーもそれはわかっていた。でも指導者が本気で信じなければ、選手も信じられない。信じられなければ、ゴールに向かって努力することもできない。

ただ、一方では「このままでは勝てない」という現実があります。だから勝ちを信じられるだけの戦略を立て、それを実行していった。正しい理論に基づいた正しいトレーニングですよ。適切な計画と適切な準備、そして実行した結果を検証し改善していく。その繰り返しです。しかしそれも、最初に「南アフリカに勝つ」というゴール設定があったからできたことです。

──具体的な目標がなければ、そこに向かうための準備もできないと。

中竹:あとは「ジャパン・ウェイ」の実践です。海外の強豪チームにパワーで立ち向かうのではなく、日本人らしい哲学を持って勝ち抜いていく意識を持つということ。ボールを積極的に動かし、粘り強くトライを狙っていく。組織って大きくなると形骸化してしまうものですよね。でも今回の日本代表は、本気でジャパン・ウェイが結果をもたらすと信じた。

──エディーさんは海外の方にもかかわらず、ジャパン・ウェイのような日本人に合った哲学をどうして見つけることができたのでしょう?

中竹:本人が「日本人の強みとは何か?」ということをかなり勉強したんですよ。いろんな日本人の指導者に会い、自分のチームに導入できることはどんどん取り入れていった。彼と話していて思うのは、この4年間で彼自身が誰よりも成長した。日本のラグビー界では明らかにエディー・ジョーンズが誰よりも勉強して、誰よりも成長したんです。

前からすごい指導者でしたが、それでも1、2年前と比べてもW杯のときはレベルが違った。脳梗塞(※2013年、軽い脳梗塞と診断され入院)で倒れるまでやり、退院したらすぐに現場に復帰したわけですからね。年齢を重ねた指導者が成長するためには、自分自身の成長に対する意欲が何よりも重要なのだと、エディーを見ていて実感します。

──そういう監督の姿を見ていたから、選手も成長しなければならないという意識を持つことができた?

中竹:そう思います。今回の日本代表はハードワークで有名で、多くの選手が「こんなにきつい練習を乗り切ったのは日本代表しかいない。だから勝てた」と答えています。実際にそうなんですよ。1日4回の練習をこなしていたんですが、これはスポーツ界の常識と真逆のことです。科学で証明されていないことをやったから、批判も多かった。でも、エディーは「これがジャパン・ウェイだ」と言うんです。「日本人は世界一勤勉だから、ほかの国ではできないことができる。それが勝ちにつながる」と。

■スポーツの知恵はビジネスにも応用できる

──中竹さん自身はコーチとしてエディーさんのような指導スタイルを実践したいと思いますか?

中竹:僕は性格的に無理でしょうね。自分の場合は、地道に選手と向き合って、長い時間を一緒に過ごしながら少しずつ改善していくと思います。文句を言われながらも、選手が自分で学んでくれるように導いていくタイプです。

でもスタイルとしては真逆でも、言っていることの根底は共通しているんですよ。それは「チームが強くなるためにはコーチも学ぶ必要がある」ということです。僕のコーチングセミナーにも何度か来てもらいましたが、「日本のコーチは世界一学ばない。それはダメだ」と言ってくれます。僕が言うよりも、彼が言ったほうがみんな真剣に耳を傾ける(笑)。

僕はもう少しエディーと一緒に仕事をしたかったんですが、監督を退任する最後の日に言われたんです。「お前がやろうとしている『コーチをコーチする』ということは、日本ではとても大変だぞ。しかしお前みたいに地道にやる方法が日本人には合っていると思う。だからあきらめるな」と激励してくれました。それはうれしかったですね。

──「チームが強くなるためにはコーチも学ぶ必要がある」という点は、ビジネスにも共通して言えそうですね。中竹さんはビジネス書も執筆されていますが、スポーツ界からビジネスパーソンが学べる知恵には、どんなものがあるのでしょう?

中竹:ひとつの分野に特化した場合、スポーツが圧倒的に進んでいるところがあります。例えば、ひとりひとりの選手の管理です。今は練習でも試合でもGPSを付けていて、選手がどんな動きをしたかしっかり把握して、後から検証できるようになっています。

あとはタレントを見つけてくる、つまり人材発掘の分野もスポーツがかなり進んでいます。世の中にたくさんいる才能をどう客観的に評価するか、チームに足りない人材をどうやって見極め、探してくるか、そういったことをずっと真剣に考えてきたわけです。

この分野でもスポーツ界ではデジタル化が進んでいて、才能を数値で計るようになってきた。同じことはビジネスの世界でも起こると思います。
まだまだスポーツ界のメソッドには世の中で活用されていないものが多いんです。僕はそれをビジネスの世界にも活用してもらいたいと考えています。

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