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日本そしてグローバルな舞台で金融業を経験し、現在は塾の運営や学校へのアドバイザリーなど人材育成に力を入れている福原正大さんに、日本と欧米の仕事観の違いや、キャリアプランの描き方などをうかがうインタビューの後編です。前編では、日本企業の人事の課題、そして海外ではデータと人工知能(!)を使った採用システムまで登場しているとのお話がありました。後編では、さらに海外での状況や、実は新入社員のときはティッシュ配りもしていたという福原さんの実体験を元に、自分の理想の仕事や働き方にどう近づけるかを探ります。(前編はこちら)

■データ活用でミスマッチを減らす

──海外だと、採用や人事におけるデータ活用はどこまで進んでいるのですか?

福原:たとえばアメリカでは、そもそも人工知能×ビッグデータを軸とするベンチャー企業がどんどん立ち上がっていて、「GROW」(福原さんが代表を務めるIGSが展開する、人工知能を使った学生と企業のマッチングシステム)のような人材採用システムもいくつか出てきています。企業の側も、取り組みの濃淡はありますが、積極的なところはそういった仕組みをもう当たり前に実用化しています。

日本企業の中でも人事部は特に、データ活用といった考え方とは縁遠い感があるので、いきなり人工知能を活用しましょうと舵を切るのも難しいとは思います。ただ、データから得られるのは、あくまで示唆であって、最終的に判断するのは人間です。もう少し科学的な観点を意識して盛り込んでいくことで、企業にとって「合う」人材を採用し、その人の特性を生かす形で育成ができるのではないかと思うんです。

──そうですね、ミスマッチが減りそうです。

福原:ええ、働く側にしても、合わないと思って早々に辞めていく人が減るのでは。日本にはかなり多くの企業にジョブローテーションの仕組みがありますし、若いうちは納得できない業務もあるでしょうが、それでも、なぜその業務を任されているのか、人工知能からの示唆をもとにした未来の可能性などをきちんと説明されれば意識は変わるかもしれませんよね。

僕も結果的には金融の仕事がおもしろくなりましたが、新卒で銀行に入ってティッシュ配りばかりしていたときは、本当に毎日辞めたいと思っていましたよ。

■「スキル×コンピテンシー×性格」を考える

──ティッシュ配りをされていたんですか!

福原:ええ(笑)。慶應から東京銀行といっても、実際には付属校からの進学で全然勉強していなくて。採用時のABCDランクでいえば、僕はかなりぎりぎりだったでしょうね。自分ではM&Aなど華々しい業務を思い描いていましたが、出世コースとはほど遠く、大阪のはずれの支店で外貨窓口を担当しながら、ボーナス時期には店の外でティッシュ配りなんかをしていたんです。

でも、そこで悩んでいても仕方ないので、まず窓口の業務を効率化するために、プログラミングを勉強し始めました。同時に英語とフランス語も仕事の後に組み込んで、平日は勉強、週末は遊ぶと。僕は行動力には自負があって、とにかく今できることを何でもしていました。

福原正大さん

福原正大さん

──意味がない、と思ってしまう業務を続けるうちに、会社や仕事自体が嫌になってしまうことも多そうです。なかなか、福原さんのように前向きになれないというか。

福原:気持ちは分かりますよ。でも、人生はいってみればセレンディピティーで、何がいつどのように役立つかは未知数ですよね。僕の場合は、ときに論理より感覚で訴えるのが重要な日系企業に勤めたことは、その後に外資の立場で日系企業とやり取りするときにはプラスでした。ティッシュ配りだって、人ってどう行動するんだろうと思いながらやると、多少は得るものがあったかな(笑)。少なくとも、やる気がない自分をはっきり認識したからこそ、僕が会社を立ち上げたら絶対こういうことは社員にやらせないぞと思いましたね。

現実は現実として、与えられた役割をしっかり務めながら、自分がどんなふうに働きたいのかの理想を描いて、そのギャップを埋めていく発想が大事だと思います。

■「Who are you?」に答えられるか

──ギャップを埋めていくには、たとえば英語やプログラミングといったスキルを磨くのが有効でしょうか?

福原:そうですね。ただ、これらはあくまでスキルであって、スキルだけで納得できる仕事を見つけられるかというと、そうではないなと思っています。

その仕事が合うかどうかは、個人の「スキル×コンピテンシー×性格」で決まるというのが僕の考えです。このうち、スキルは自分で身に着けられますし、実行力や問題解決力といったコンピテンシーも努力して伸ばしていけます。

一方、性格はなかなか変えられないですよね。そもそも、自分自身の性格をきちんと把握できていない人も、少なくないのではないのでしょうか。

──自分の性格を知らなければ、仕事を選んだりもできないと。

福原:ええ。自分を知る、ということですね。これもまた、日本人はとても苦手だと思います。僕が某有名中・高等学校で講演したとき、彼らに「『Who are you?』と聞かれて答えられますか?」と投げかけたら、皆が固まってしまったんです。自分という個人には関係ない問題に答えるペーパーテストばかりをしてきて、自分が何者か、どう考えるのかを問われる教育を受けていないからでしょう。

僕の会社で運営する塾に来る高校生や、留学を考えている大学生も、海外の教育を知っていちばんカルチャーショックを受けるのはそこですね。で、向こうに行ったら当然孤独ですから、自分を見つめざるを得ない。その中で、どんどん自己が深まっていきます。

■「SNS断ち」のススメ

──なるほど。文化や教育の違いに加えて、特に今だとSNSや娯楽がたくさんあって、なかなか自分を深める時間を持ちにくいのかなとも感じます。

福原:ああ、そうかもしれませんね。SNSはどうしても、隣りの芝生が青く見えてしまうので(笑)、自分を見つめるのとは対極ですね。僕もつい、本を持っているのにSNSを見てしまったりもしますが、でも自戒を込めて若い人にも勧めているのは、一定期間の「SNS断ち」です。そして、読書や日記を書くこと。自分と対話し、自己を深く知るのにこれ以上の方法はないと思います。僕はずっと「5年日記」というのをつけていて、5年間の同じ日付のできごとや考えたことを振り返れるので、気づきがありますよ。

先のカルチャーショックを受けたり、孤独と向き合って自分を見つめることができるという点では、留学もとても有効です。それが難しければ、SNSから離れた一人旅でもいいですね。

──海外事情からご経験談まで、幅広いお話をありがとうございました。最後に、これから自分を伸ばしていきたいと思っている学生や社会人へメッセージをいただけますか?

福原:先ほどお話しした「スキル×コンピテンシー×性格」のそれぞれを伸ばす、知ることは大事なのですが、これらを最終的に統括するのは価値観なんです。仕事でリーダー的な立場でなくても、皆さん一人ひとりが自分のリーダーですから、何らか岐路に立ったときはこれらの要素を踏まえて判断をしないといけない。

その拠り所になる価値観を確立するのに大事なのは、やはり僕は教養だと思うんですね。歴史でも文学でもいい、教養を身に着けることで、自分ならではの価値観が磨かれるという発想は持っておくといいと思います。また、価値観とは、人工知能が最も入りにくい領域でもあります。だからこそ、人間が担う部分としてさらに大事になるでしょう。

それから、僕の人生を変えた本の1冊に、小説家で中国文学者の高橋和己先生の『人は変われる』という書籍があります。自分はこうなりたいんだという思いがあれば、人は何歳からでも変われます。このメンタリティーを持てるかどうかがとても大事なので、現実をしっかりこなしながら、ぜひ自分が思い描く方向へとチャレンジしてみてください。

<プロフィール>
福原正大(ふくはら・まさひろ)
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、バークレイズ・グローバル・インベスターズを経て、2010年、グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(IGS)設立。2015年からはグローバルな人材を育成し企業に紹介する大学生向け事業「GROW」を朝日新聞社と提携して展開。近著に『人工知能×ビックデータが「人事」を変える』(福原正大/徳岡晃一郎 共著)。

<クレジット>
取材・文/高島知子
撮影/村上悦子

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