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「最近の若者は消費をしないって、本当なの?」。そんな疑問から始まった当企画。前回の記事に引き続き、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんに、若者たちの消費意識の今についてお話をうかがいました。

インタビュー前編「若者の新・三種の神器は『カフェ・散歩・レッドブル』」と合わせてご覧ください。

■友だち1,000人が珍しくない若者たち

──前回、若者は消費をしなくなっているのではなく、消費のスタイルが変化しているとうかがいました。具体的には、「高額単品消費」から「低額ちょこちょこ消費」へと変わってきた。この少ない金額を「ちょこちょこ」使っていくという消費スタイルが若者たちに広がった背景には、何があるのでしょう?

原田:いろいろな要因があるのですが、ひとつ確実に言えるのは、今の若者は昔では考えられないくらい友だちの人数が増えているということがあります。ただ、これは親友のような濃い関係ではなくて、「よっ友」という言葉もあるように、「よっ」と声を掛け合う程度の、薄い人間関係の輪が広がっているんです。

──昔の感覚でいう「知り合い」くらいの関係性ですか。

原田:そうです。そうした知り合いの輪が広がった背景には、SNSの普及があります。今の若者たちはSNSでつながったら、滅多に会わなくても、そのあともずーっとつながり続けることができます。

例えばFacebookであれば、早稲田大学みたいな大きな大学の学生になると、1,000人とつながっているなんてことが当たり前にあるわけです。だからハロウィンのようなイベントなどで、大規模に集まることができる。

僕が大学生の頃、1,000人に声をかけようとしたら大変なことでしたよ。そもそも、そんな大勢の友だちがいる学生なんていなかった。でも、今はSNSを使えば簡単にできます。

それだけ友だちがいると、付き合いでちょこちょことお金を使う機会が、昔の若者と比べて圧倒的に多くなります。「高額単品消費」の時代には、親友と海外旅行に行くとか、みんなでお金を出し合ってミニバンを買って海に行くとか、深く狭い関係性のために、若者は高額な消費をしていました。

しかし今は、それほど深い仲でなくとも、大勢がハロウィンに集まってわーっと騒ぐ。そういう機会が増えているので、ひとつの付き合いに高額な消費をするより、複数の付き合いに「ちょこちょこ」とお金を使うようになっているのです。

■「1か月先まで予定が埋まっています」

──原田さんが以前書かれた記事で、「今の大学生は1か月先まで予定が埋まっていて、ミーティングのセッティングも大変だ」とありました。つまり、それほど忙しくなるくらい、人間関係が広がっているわけですね。

原田:これは本当に大変で、僕はよく大学生を集めてミーティングをするんですけど、全然予定が合わないんです。人間関係のネットワークが広い若者だと、1か月、2か月先まで予定が埋まっているなんて言われますから。昔は「社会人って忙しいんだろうな」と想像したものですけど、今は大学生のほうが忙しくなってしまった。

──それだけ消費をする機会も多いというわけですね。しかし使える金額は限られているので、必然的に「低額ちょこちょこ消費」になると。

原田:そうです。昔だったら、大学生になったら、中学校や高校の友だちとは自然に疎遠になっていたはずです。でも、今はSNSでつながり続ける。今の若者は同級生のつながり、部活のつながり、地元のつながり、バイトのつながり……といろんなコミュニティに所属しながら生きています。

しかも、ずっとつながっているから、SNSで露骨にブロックしたり、返事をしなかったりすると、「あいつ感じ悪いよね」みたいな噂がすぐに広まる。コミュニケーションが「義務」みたいになってしまっていて、だから1か月先まで予定が埋まってしまうくらい忙しいのです。

原田曜平さん

原田曜平さん

■いくつものコミュニティに所属するメリット

──日々若者たちと接している原田さんから見て、そういうライフスタイルの「長所と短所」をあげるとしたら、どんな点でしょう?

原田:長所はやはり、多くの人と薄くつながっているところにあると思います。例えば昔の東大卒の官僚だったら、東大時代は東大の人とばかり接し、官僚になってからも、自分と同じような人とばかり付き合っていたはずです。つまり、自分が所属するコミュニティ以外の情報が入ってこないなかで、貧困対策などを考えていた。もちろん、そうじゃない方もいらっしゃったとは思いますが、そういう風になりやすい環境だったわけです。

ところが、今の若者たちはいろんなコミュニティに所属し、大学以外、会社以外のリアルな情報もSNSを通じてずっと受け取っているので、他者への想像力というか、共感力がものすごく高い。昔の官僚と今の官僚で、どちらがリアリティのある政策を考えられるかといえば、間違いなく後者だと思います。

これはマーケティングの世界も同じです。自分の業界の批判になってしまいますが、今は普段、外国車に乗っているようなマーケターが、軽自動車のCMを作っている。経済が成長していく時代には、そのやり方でも通じたんです。おしゃれなCMを作れば、地方の山の中に住んでいる人にも、「いつかオレも」とあこがれを抱かせることができた。

しかし経済が成熟して、低成長のステージになると、「東京の話題はオレたちには関係ない」と思われてしまう。いくら東京でおしゃれなCMを作っても、地方の人には響かなくなっているんです。

軽自動車に日々乗って、少しでも安く暮らしたいという人の気持ちがわかっている若いマーケターが作るCMのほうが、おしゃれではないかもしれないけど、共感を呼ぶに決まっています。だから今の若者たちから、僕より100倍は優秀なマーケターが生まれてくる可能性が十分にあると思っています。

■個人の競争よりチーム戦を好む

──一方、「短所」をあげるとしたら?

原田:これは長所の裏返しなんですけど、共感力が高くて、他者の痛みに敏感な優しさがあるために、人を蹴落としてでものし上がりたいというギラギラさがない。だから、上の世代からすると、どうしても「貧弱」に見えてしまい、「今の若者は努力をしない」などと言われてしまう。

こういう話があります。従来の予備校や進学塾というのは、テストの点数をランキングにして貼り出すことで、悔しさをバネにがんばらせていました。しかし今の子たちに同じことをすると、がんばるより先に病んでしまう。あまり競争させられずに育ってきたので、露骨に個人として競争させられると傷ついてしまうのです。

だから最近は、個人を競わせるのではなく、例えば5人組ずつのグループをいくつも作って、「チーム」として競わせる。そうすると、成績がすごく伸びるというんです。ひとりで上り詰めるのではなく、みんなで励まし合いながら、目標に向かってがんばる。それが今の若者たちに合っているのです。

──努力しないというよりも、まじめで繊細なんですね。

原田:そうです。ただ、今の若者がこうした特徴を持つのも、仕方のないことなんです。そもそも必死に競争したところで、社会全体は上がっていかない。格差も広がっている。多くの若者にとって、日本はもう“まったり”が当たり前のステージに入ったのです。そこは大人も上から憤るだけじゃなく、認めないといけない。ただ、こうしたまったり志向には、日本ならではの問題もあります。

──というと?

原田:日本にはエリート教育がないことです。低成長の成熟国家でも、アメリカもヨーロッパも、エリート教育は未だに徹底しています。世の中を変える人材というのは、貧しい人を自分たちが助けなければという意識を持っています。学歴がすべてではないですが、それを教育するのがエリート教育です。

みんながまったりを志向するのは、もうしょうがない。でも日本も少数でいいから、エリートを育てていかないと、社会全体が沈んでしまうのではないかと思います。

■ヒット商品のヒントは「イノベーションよりアップデート」

──なるほど。最後に、世の中全体がまったり志向になっていくなかで、今後はどういった商品やサービスが求められていくと思いますか?

原田:海外の成熟国家の若者たちは、お金を使わないで暮らすライフスタイルがもはや当たり前になっています。日本もいずれそうなるでしょう。企業にとって重要なのは、そうした状況を前提にしたうえで、それでも「必要なもの」をどうやって生み出していくかということではないでしょうか。

例えばアメリカのミレニアムズ(2000年以降に成人を迎えた世代)を調査すると、就職が厳しいので、「だったら」と起業するケースが増えています。ただ、それは社会全体を変えるようなイノベーションを起こしたくて起業するわけではない。では、どういうジャンルで起業をしているかというと、健康に良いオーガニックな食品とか、そういう普段の生活をちょっと良くするアイデアを広めるために起業しているのです。

──イノベーションというより、生活のアップデートということですか。

原田:生活に必要なものをより快適にしていく。アメリカの若手起業家が目指しているのは、そういうことなんです。今の若者たちにとって、基本的にモノは十分すぎるほどそろっている。だから日本でも、派手なアイデアによるイノベーションより、生活のアップデートという方向に、ヒット商品が生まれるヒントがあるのではないかと思います。

<プロフィール>
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大学非常勤講師。2003年JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。専門は若者研究。日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行っている。近著に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』、『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』など

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉

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