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今回は、出向先のスイス再保険会社について書きたいと思います。
(バックナンバー→ 第1話 第2話

スイス再保険会社に来て驚いたことは、彼らが「変化しなければならない」と強烈に意識していることです。世界第2位の会社とは思えないほど、です。

「再保険というビジネスはとても厳しい競争にさらされているんだ。だから常に変化し、新しいことに挑戦しなければいけないんだ」

「ここは大きな会社だから、手続きが長かったりすることもあるけど、一旦方向性が決まると驚くべき速さで動き出すこともあるんだよ」

「新しいことに挑戦できるのは楽しい。長い専門職の経験の後に、こんなチャンスをもらえるなんて嬉しいよ」

以上は、彼らから聞いた印象的なコメントの幾つかです。
特に、最後のコメントは、僕よりは20歳(もしかすると30歳?)以上も年上(のように見える)おじさんでした。長い専門職の経験の後、豊かな知見を新しい枠組みのもとに再構築し、さらに新しい技術に適用できるよう“翻訳”する仕事をしている方でしたが、自分の仕事を誇らしげに語る穏やかな笑顔が印象的でした。

さらに面白かったのは“Reverse mentoring(リバースメンタリング)”という試み。
“Mentor”は日本語にもなっている「メンター」です。直訳すれば「逆(“Reverse”)のメンタリング」ですが、どんなメンタリングか想像できますか?こちらの動画を見てみてください(英語ですが、冒頭の雰囲気だけでも楽しめると思います)。

何が“逆”になっていたか分かりましたか?
一般的なメンタリングは、年長者から年少者へ、社歴・業界経験が長い人から短い人へ行われることが多いようですが、その構造を逆にしています。上記の動画の例では、執行役員レベルのおじさんたち(特に、Baby boomer、日本で言えば団塊の世代)が、入社すぐの若手社員(Millennial、1980〜2000年頃生まれのミレニアル世代)からメンタリングを受けているのです。これだけでもぼくには驚きなのですが、さらに驚きなのはこれをベンチャーの会社ではなく、世界で2番目に大きいマンモスのような会社が行なっていることです(しかもYouTubeに動画を公開していることです!)。日本の大手金融機関で、このようなことが起こるなんて、想像しにくいですよね……。

「若い世代が、どのようにワークライフバランスを考えているのか、どのように保険を買いたいと思うのか、という点に興味があったけど、一番大きな学びは“世代間の違いなんて、それほど大きくない”ということだったよ」

実際にリバースメンタリングを受けた50代のおじさんのコメントです。「年下からでも学んでやろう」という心持ち(長幼の序も一理あるとは思いますが……)、安易に「世代間ギャップ」に逃げない相互理解の姿勢など、変化に貪欲な姿勢を垣間見た気がしました。

また、休憩室にかけてあった、ロンドン市内から離れた地方の事務チームの“Charter(憲章、目的や信念を定めたもの)”も、とても味わい深いものでした。

ある事務チームの“Charter(チーム憲章)”。この写真をブログに載せるにあたり、掲載許可をたずねた時も、まさにチーム憲章第一項「I will raise the profile of TA at every opportunity(私は、すべての機会において、チームの知名度・注目度を高めます)」に則り、快く承諾してくれました。

ある事務チームの“Charter(チーム憲章)”。この写真をブログに載せるにあたり、掲載許可をたずねた時も、まさにチーム憲章第一項「I will raise the profile of TA at every opportunity(私は、すべての機会において、チームの知名度・注目度を高めます)」に則り、快く承諾してくれました。

“I will be brave in my decision making, understand the value of my contribution and learn from experience and feedback.”
「私は、意思決定においては勇敢であり、自分自身が貢献することの価値を理解し、経験とフィードバックから学びます。」

まずは、“brave(勇敢な、肝が据わった)”、というとても主観的な単語。
「変化をする」と意思決定することは、こわいことでもあります。逆に、常に変わり続けることは、強い意志と勇気を必要とします。勇気を持て、と鼓舞するようです。

そして、“my contribution(私の貢献)”。
他の誰かが変化を担ってくれる、と待つのではなく、自分自身が変化に貢献するのだ、と背中を押します。

最後に、“learn from experience and feedback”。
変化に失敗はつきものです。ただ、失敗しても(自分自身の)経験と(他者からの)フィードバックから学べばいいんだよ、と失敗の可能性とそこからの学びを抱擁しているようです。

“change”という単語はどこにも出てこないのに無理矢理“変化”にこじつけるような解釈をするなぁ、と思ったあなた、この後には以下の文章が続くのです。

“私は、すべての機会において、現状に対してチャレンジすることで、ビジネスにさらなる価値を加えることを目指します。(I will look to add value to the business by challenging the status quo at every opportunity.)”
“私は、柔軟であり、敏速に反応し、変化に対して敬意を持ちます。(I will be flexible, responsive and respectful of change.)”

彼らには、世界で2番目に大きい再保険会社の社員には、貪欲に変化の機会を探す姿勢を見て取れました。英語に“Strive to change”(懸命に変わろうとする)という言い回しがありますが、彼らの姿勢はまさに“Strive to change”を体現しているようでもあります。

最後に、印象深かった一言を引いて、本文を終わりたいと思います。
ぼくよりは10歳以上も年上の女性から、屈託のない笑顔で言われた一言でした。彼女は、お客さまからの(特に難しい)苦情を受け付ける部署のマネージャーで、組織上の建てつけでは、変化を主体的に起こす役割を期待されているわけではなく、どちらかというと外部(または社内の他部署)から来た変化の荒波に揉まれる立場だと思います。その立場にあって、なお、こんなことが言えるんだ(チャーミングな笑顔で!)、と若干の驚きがあったことも、印象に残った理由かもしれません。

“We are familiar with change!”
「私たちは、変化に慣れているの!」