写真左:石川康晴さん(株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者 )、右:岩瀬大輔(ライフネット生命 社長)

写真左:石川康晴さん(株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命 社長)

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グループ全体で1,100億円を超える年商を誇るストライプインターナショナルも、最初はどこにでもいそうなひとりの少年の夢から始まりました。石川康晴さんと、岩瀬との対談後編は、石川さんの少年時代、石川さんが夢中になっている現代アートへと話が膨らんでいきます。
前編「『ストライプインターナショナル』が保険を扱う理由」はこちら

■本当に必要なのはマイナスの情報

岩瀬:働く女性をサポートするストライプインターナショナルのさまざまな制度を教えていただきましたけど、御社には他にもいろいろ面白い制度がありますね。「石川直行便」という制度があると伺ったのですが、これはどんな制度ですか?

石川:もともとは現場の情報を収集するために作りました。組織のトップにいると、会社の「よい情報」しか入ってきません。みんな、上を喜ばせようとしますから。でも本当に貴重なのはマイナスの情報。それをフラットに取りに行くにはどうすればいいかと考えて、社員なら誰でも社長にプレゼンテーションができる制度を作りました。私がよいと思ったアイデアには、即決でお金を出しています。

岩瀬:どのような事例がありますか?

石川:最近の事例だと、決まった場所に縛られずに仕事をする、いわゆるノマドワーキングをしたいという要望を受けました。全部の部署ではできないけれどEC(Eコマース)の部署ならできるのではないかということで、今、テストをしてもらっています。うまくいけば、よりテクノロジーに強い人材が集まりやすくなるのではないかと期待しています。

岩瀬:この規模の会社だと、普通は社員から社長へ直接ものを言うルートがありませんね。「直行便」によって、社長として助かったと思える提案はありましたか?

石川:ある女性社員が、「今入っている健康保険組合よりも夫が勤める健康保険組合に切り替えたほうが安い」と提案してくれて、年間3,000万円のコストカットにつながりました。安いだけではなく、そちらのほうが内容も充実していました。彼女には新年会で社長賞と、ささやかながら賞金を授与しました。

■「洋服屋になる!」夢に一直線に向かった青年時代

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岩瀬:小さい頃の石川さんはどんな少年でしたか?

石川:家の近くの川で2時間ばかり釣り糸を垂らして、1回も沈まない浮きをじっと見続けて「今日も釣れなかったな」と言って帰るような、地味な釣り少年でしたよ。

岩瀬:ファッションに興味を持つようになったのはいつ頃からですか?

石川:小学校5、6年生の頃です。お盆や正月になると親戚が集まって、いつも和服の話で盛り上がっていました。祖母が日本舞踊の師範をしていて、母も30代まで習っていたのです。織物の素材や帯の色の話を楽しそうにしているのを見て、自分も服に興味を持つようになったのだと思います。お年玉で買った服を着て、母から「そのパンツとシャツの色合わせいいね」と褒められると、うれしくなってまた服が好きになる。中2のときに訪れたお店では、スタッフから「あなたは本当に服が好きですね。将来、洋服屋さんを開いたらいいんじゃないですか」と声をかけられました。

岩瀬:本当に洋服屋さんになりましたね。

石川:当時はまさに「中二病」の猛烈な時期なので、「そうだ! 俺は洋服屋になるんだ!」と思い込んで、それが今も続いている状態です(笑)。単純だから、自分が洋服屋になること以外は考えたことがありません。起業するためにお金を貯めて、経営を学んで、アパレルの経験を積むということに没頭しました。みんな、どの学部に入って、将来は何になるのか、悩む時期があると思いますが、そういうことは一切なく幸せな青年期だったと思います。起業したばかりの頃は、経営も、買い付けも、店長も、オリジナルブランドのデザインも、全部ひとりでやっていました。

■現代アートに目覚めて地元岡山を活性化

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岩瀬:石川さんといえば現代アートのコレクターとしても有名で、地元岡山でも芸術イベントを開くなどされていますね。同じ岡山県出身で、「ベネッセアートサイト直島」などを手がける福武總一郎さん(ベネッセホールディングス最高顧問)からも影響を受けていますか?

石川:そうですね。僕が中学生の頃に直島の開発が始まって、その頃からかれこれ30年間、直島の様子や福武さんの活動をずっと見てきましたから。

岩瀬:福武さんから石川さんへ。岡山の地には、商人が芸術を活性化させようという気風が脈々と流れているのでしょうか。

石川:福武さんの前に、倉敷市の大原美術館を開いた大原孫三郎(1880-1943)という実業家がいました。福武さんも私も、孫三郎が起こした「岡山ルネサンス」に憧れ続けているのです。起業家が3世代にわたってアートに力を入れてきた地域というのは、世界的に見てもここだけです。最近ようやく、瀬戸内アートというものが海外からも注目されるようになりました。

岩瀬:先月から「岡山芸術交流Okayama Art Summit」という大規模な展覧会も始まりましたね。

OKAYAMA ART SUMMIT 2016 より

OKAYAMA ART SUMMIT 2016 より

石川:10月9日から44日間。16か国31アーティスト、51作品を展示する、現代美術の大型国際展覧会です。第1回目となる今年は、アーティスティックディレクターに、イギリス出身でニューヨークを拠点に活動する世界的なアーティスト、リアム・ギリック氏を迎えました。世界中から質の高い作品が集まりました。

岩瀬:これだけのエネルギーを芸術に向けている。何をきっかけに、現代アートに興味を持つようになったのですか?

石川:23歳で起業をした私は、その前から服の買い付けによく欧米に出かけていました。起業後は隔週のペースで行っていましたね。だいたい2、3件のアポをとって、2泊4日のスケジュールで行くのですが、そうすると半日くらい暇になってくるのです。そういう時間に、ロンドンのテート・モダン、パリのポンピドゥー・センターなど現代アートに強い美術館めぐりをしていました。正直に言うと、最初は「現代アートってよく分からないな」と思いながら見ていたのですが、だんだんとのめり込んでいましたね。

岩瀬:作品を買うようになったのはいつ頃からですか?

石川:5年ほど前に、ある画廊で、世界的に有名な河原温さんというニューヨーク在住のアーティストを紹介してもらいました。そのときに河原さんの作品を買ったのがきっかけですね。河原さんは2014年に81歳で亡くなりましたが、デイトペイントという作品がとても有名でした。それは毎日、今日の日にちをペイントするだけの作品なのです。

岩瀬:現代アートの中でも、特に前衛的なコンセプチュアル・アートを集めているのが特徴ですよね。僕が石川さんのコレクションで印象深かったのは、東京オペラシティで開かれた展覧会の入り口で、来場者の名前を叫ぶアートでした。

石川:あれは「ネームアンサー」という作品で、パフォーマンス・アートの一種です。入口で「お名前を教えてください」と聞いて、「岩瀬大輔」と返されたら「岩瀬大輔さまー!」と叫ぶ(笑)。そのパフォーマンスをする権利を買ったのです。

岩瀬:2014年に岡山城を中心に開かれた「イマジニアリング オカヤマ アート プロジェクト」というイベントで公開された、空間を風船で敷き詰めるアートも面白かったです。

石川:マーティン・クリード氏の「作品番号 1350番 その部屋の半分の空気」という作品ですね。要は空間の半分を可視化するために、風船で埋め尽くしたのです。

岩瀬:市電を使っての作品だったので、行政との折衝が大変だったんじゃないですか?

石川:実際に走っている市電の車内の半分を風船で埋めていくので、みんな風船をかきわけながら進んでいました。実は国交省から許可をもらった際に、「風船がひとつでも道路に漏れたらこの企画は終了」という条件が出ていたのです。ドアが開くたびに、ボランティアスタッフが外に漏れそうになる風船を割ってそれを阻止していました。

岩瀬:市長も知事も巻き込んで、みんなで町おこしをするというのがいいですね。

石川:全国でもあまりないと思います。

■座右の銘は「静思萬考」

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岩瀬:今日は楽しい話をたくさん聞かせていただいてありがとうございました。最後に、石川さんの好きな言葉を教えてもらえますか?

石川:私の名前の「康晴」は、同じ岡山県出身の将棋棋士、大山康晴さん(十五世名人)から来ているのです。父も祖父も大の将棋好きで。その大山さんの座右の銘である「静思萬考」という言葉を、私も常に大切にしています。これは、静かに万通りの戦略を考えて最高の一手を打つという、大山さんの棋士としての戦い方を表した言葉です。ストライプインターナショナルはアグレッシブでチャレンジングな組織でありたいと思いますが、経営者としての私は大山さんのように静かに、ロジカルに考えながら、しっかりと守りを固めてから攻めていきたいと思います。

<プロフィール>
石川康晴(いしかわ・やすはる)
ストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEO。1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。公益財団法人 石川文化振興財団 理事長。内閣府男女共同参画推進連携会議議員。94年創業。95年、クロスカンパニーを設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、現在売上高はグループで1,100億円を超える。グループ従業員は約4,600名、店舗は国内外合わせて約1,300店舗まで拡大。2011年9月には中国に進出。宮﨑あおいを起用したテレビCMでも注目を集める一方、女性支援制度の充実、地域貢献活動へも積極的に取り組む。2016年3月に、株式会社ストライプインターナショナルに社名を変更。2016年7月、企業家大賞受賞。

<クレジット>
取材・文/香川誠
インタビュー写真/村上悦子

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