落合陽一さん(筑波大学助教、デジタルネイチャー研究室主宰、コンピュータ研究者、メディアアーティスト)

落合陽一さん(筑波大学助教、デジタルネイチャー研究室主宰、コンピュータ研究者、メディアアーティスト)

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デジタルとアナログ、リアルとバーチャルの区別を超えた新たな世界観「デジタルネイチャー」を提唱し、研究者、大学教員、メディアアーティストとして活躍を続けている落合陽一さん。「現代の魔法使い」とも呼ばれる彼はどのような未来を目指しているのでしょうか? 果たして人間とコンピュータとの関わりは……!? ライフネット生命の勉強会で行われた、ロジックとパッション、クリエイティビティがほとばしる落合さんのお話をお届けします。

■物理現象をどうやってソフトウェアで理解するか

デジタル技術と物理的な現象を組み合わせることで、革新的な作品を次々と発表している落合さん。その多彩な作品には、例えば超音波で膜を細かく振動させ映像を映し出したシャボン玉や、指で触れると形が変化し触った感触も楽しめるホログラフなど、まるで魔法やCGをみているような楽しさがあふれています。これまでになかった斬新なバーチャル&リアルを生み出してきた落合さんはいま、ラボでどのような研究に取り組んでいるのでしょうか。

「ハードウェアやデザインをどうやってソフトウェアで理解するかが研究テーマです。従来は、工学部系の人たちがハードウェアを作りそのスペックを評価してきましたが、僕たちはハードウェアを「作るためのメソッド」をソフトウェア化していっています。

例えば、空中に三次元の映像を描画する装置を作ったり、光の点群をプラズマで描くことを定式化したり、統計的には機械学習のデータから形を最適化出力する研究ですね。どうしたらユーザーが今までにない音と光、物質とのインタラクションを形成できるのか、といったようなことがテーマなんです」


Leaked Light Field at LAVAL Virtual Award

私たちはどうしてもハードウェアとソフトウェアを分けて考えがちですが、落合さんの発想は違います。モノづくりに必要な素材の加工から最終製品に至るまでをソフトウェアでつなごうとし、すでに実装を始めています。

例えば、光を通す木を用いたスピーカーや、革から光がさしてくるようなディスプレイ。3Dプリンターを使ってハードウェアを作ることが容易になってきたこともあり、これまで考えもしなかったようなことが、コンピュータを使って実現可能になってきています。

「ソフトウェアを変えるだけでいろいろな素材が加工できます。車のダッシュボードから光を出す研究も自動車のベンダーといっしょに進めています。ラピッドプロトタイピング(三次元CAD上で入力された形状データ用いて、積層しながら立体モデルを直接生成する手法)をしている段階なので、もうそろそろ実用で社会に出てきますよ」

■人間と機械を混ぜていく!?

未来のビジネスを変革すると期待される新しい技術の領域で、AI(人工知能)、機械学習、ディープラーニングなどの言葉に加え、最近耳にする機会が増えてきた「ヒューマンコンピュテーション」。これは計算の一部に人間の能力を利用することで、コンピュータのみでは解決できないような問題解決を行う基本概念も落合さんが取り組むテーマのひとつです。

例えば、こちらの人を“歌わせてしまう”プロジェクト。


Human Coded Orchestra。特定の人にしか聞こえない音によって、歌う人を制御する

「指向性のあるスピーカーを使って、ある特定の人にしか聞こえない音を打ち出すと、カラオケのガイドメロディが強制的に耳に当たっているような形になり、特に練習をしなくても、人を合唱させることができるんですね。

中には音程の取れない人も混ざっているので、それを見込んで5人くらいでチームにするとハーモニーが取れます。一見、みんな自由に『レット・イット・ビー』を歌っているのに、実は機械で制御されているという状況になる(笑)。こんなふうに、コンピュータで制御して人の体を動かすとか歌わせるとか、文字情報や画面をクリックするだけでは得られない情報を使って、どうやって人を操るかに特化した研究も進めています」

なぜヒューマンコンピュテーションが注目されているのか。それは、人間がやった方がいいこと、機械にやらせた方がいいこと、それぞれに適不適があり、人間と機械が互いに補いあった方が迅速かつ効率的に問題解決を行えるからです。

「いま映画を着色するプロジェクトなんかも研究業界では進んでいます。動画はコマ数がたくさんあるので機械学習でやった方が早いですが、そうでなければ人間にタスクを分散してやってもらった方が早かったり正確だったりする。人間と機械を混ぜていくのは現在のトレンドですね」

■3Dプリンターで臓器や体細胞が作られる日

ヒューマンコンピュテーションや人工知能は、私たちの生活にも深く関与しています。
車の自動運転の実現も近い──。情報技術の可能性を探る落合さんは、そう予測します。

「日本はまだ制度上の問題で難しいと思いますが、ドイツは近い将来、法律が整備されて、車の自動運転が導入されると思います。今は車椅子の自動運転やパーソナルビークルに関する研究に着目しています。自動運転で公道を走れるようになったら、車を降りた後に、どうすればいいのか。ここをなんとかクリアしたい。僕は高齢者の介護費用をそういった自動化システムに組み込むことで減らしたいと思っています」

テクノロジーが超高齢化社会に貢献し、お年寄りや障害を抱えた人々の行動半径が増えて、より快適な暮らしが可能になる。それは、すべての世代にとって健全で明るい社会を意味しています。そんな未来の実現が楽しみでなりません。

生命保険会社がコンピュータを使った機会学習で実現できることについても、落合さんはこう指摘します。

「普遍性のあるデータを大量に取り込んで機会学習を進めるのはGoogleなど大きな組織が圧倒的に強いですが、日本における死亡率のデータなど、ライフネット生命だからこそ持てるニッチな情報があると思います。これらのデータが紙でなくExcelやCSV形式になっていれば、自動化するスクリプトを書くのはそう手間ではない。ニッチ領域はGoogleも手出しはできないし、そもそもやらないと思いますからね。ぜひチャレンジしてほしいですね」

落合さんの知的好奇心はとどまるところを知りません。その視線は遺伝子組み換えの領域にも向かっています。

「CRSPR-cas9といって、DNAの任意の場所の遺伝子配列を替えることができるゲノム編集技術が生物系で注目されていますが、僕が関心をもっているのは、ここをどうやって機械学習やデータサイエンス、ファブリケーション技術としてやっていけるか、です。病気になる人はどの遺伝子を持っていて、それをどう切り貼りして書き換えれば病気にならなくなるのか。人生のリスク管理としては次のキーワードだと思います。

また、近いうちに3Dプリンターで臓器や体細胞を作るという話も実用に出てくると思っています。遺伝子のデータと物理よりのファブリケーションの研究とがシームレスにつながってくるでしょう。それは2025年ぐらいかな。そうなると不思議なジャンルがもっと出てくるはず。その時までは研究者をやっていたいですね」


「Cross-Field Haptics:多重場による触覚提示」臓器の触覚を再現する機能も 

落合さんが予測する2025年の未来まであと9年。そのとき私たちの生活、医療、エンターテイメントはどう変貌を遂げているのでしょう。どんな変貌になるにせよ、そこに落合さんが大きな役割を果たすことは確かかと考えます。「現代の魔法使い」は情報技術を魔法の杖のように自在に操りながら、発見と驚きに満ちたファンタジーな世界を創り上げているはずです。

<プロフィール>
落合陽一(おちあい・よういち)
博士(学際情報学/東京大学)、筑波大学助教、デジタルネイチャー研究室主宰。コンピュータ研究者、メディアアーティスト。「米ワールド・テクノロジー・アワード」(2015、ITハードウェア部門)受賞。BBC、CNN、Discovery、TED×Tokyoなどメディア出演も多数。国内外の論文賞やアートコンペ、デザイン賞など受賞歴も多い。著書に『魔法の世紀』(Planets、2015年)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館、2016年)がある。人呼んで「現代の魔法使い」。

<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/ライフネットジャーナル オンライン 編集部

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