写真左:岡部祐介(ライフネット生命保険 アスリート社員)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

写真左:岡部祐介(ライフネット生命保険 アスリート社員)、右:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

2016年5月、ライフネット生命に入社した岡部祐介。岡部の「仕事」は大きく2つあります。ひとつは人事総務部兼システム運用部としての業務、そしてもうひとつは陸上を通じて当社PR活動を行う、聴覚障碍アスリートとしての活動があります。
今回、ライフネット生命社長の岩瀬がインタビュアーとなり、岡部の日々の仕事やアスリートとしての活動、将来の夢などを聞いてみました。

■手話が母語で日本語は外国語!?

岩瀬:5月に入社してからもうすぐ半年ですが、入社前にイメージしていたライフネット生命と実際に働いてみてギャップなどはありましたか? 前職は日本を代表する大企業にお勤めでしたが、当社のような小さい会社と何が違いを感じますか。

岡部:大きい会社、小さい会社という意味での違いはないです。前職でもたくさんの応援・協力をいただいたのでとても感謝しています。退職後の試合にも、寄せ書きを送ってくださるなど、今でも心のつながりを感じています。

一方、ライフネット生命では競技もデスクワークも「仕事」という位置づけなので、海外や遠方への遠征にも個人の費用負担がありません。競技により集中できるように、サポートをしてもらっています。

岩瀬:岡部さんが入社してから毎朝月曜の朝礼でワンポイント手話レッスンをやるなど、社員の意識も変わってきたように思います。今日は聴覚障碍者のみなさんの世界をよりよく知るべく、少し突っ込んでお話を聞かせてください。

タブレットで筆談する岩瀬と岡部

タブレットで筆談する岩瀬と岡部

岡部:はい、よろしくお願いします。まず手話には大きく分けて、2種類あることをご存知ですか?

岩瀬:え、そうだったんですか。知らなかったです。

岡部:日本手話と日本語対応手話です。日本手話は語順も違い、日本語とは異なる言語です。私はこれを使っています。日本語対応手話は、中途失聴者などが学びやすい手話で、日本語の文章に一つひとつ手話をあてはめたものです。

少し不思議に思われるかもしれませんが、ろう者は、母語が手話なんですよ。日本語ではないんです。日本語は、聴覚障碍者からすると、いわば外国語なので、表現すること自体がなかなか難しいです(笑)。

英文を書くときに、「on」なのか「in」なのかを迷うように、私も「は」なのか「が」なのか迷います。よく間違えることもあるんです。日々勉強ですね(笑)。

岩瀬:手話が母語、日本語は外国語。なるほど、そうだったんですね。言われてみるまで気が付きませんでした。でも、岡部さんのメールを読んでいてもあまり違和感を感じることないですよ。間違うことをおそれず、積極的に発信を続けて欲しいと思っています。

■応援はかけ声ではなく手を振って

岩瀬:さて、岡部さんは聴覚障碍者アスリートとして陸上に取り組まれています。これまでのベストの成績などを教えてください。

岡部:昨年アジア大会でのマイルリレー(4×400mリレー(1600メートルリレー))で優勝しました。また、今年の7月に行われた世界ろう陸上大会でも、マイルリレーで銀メダルを獲得できました。2014年には、200mと400mの自己ベストを更新しています。今も自己ベストを更新できるようがんばっているところです。

岩瀬:アジア大会で優勝、世界大会で銀メダルとはすごいですね! ライフネット生命に入社してから自己ベストが更新されない、ということがないように、引き続き練習をお願いします(笑)。ところで、デフリンピック(*)はパラリンピックには含まれないのですね。聴覚碍害は陸上をやる上では相対的に軽いから、ということなのでしょうか。

*障碍当事者であるろう者自身が運営する、ろう者のための国際的なスポーツ大会

岡部:聴覚障碍者も以前はパラリンピックに参加していたようですが、陸上競技では他障碍者に比べて良い成績を残しやすかったことや、手話派遣に費用が高額であったこと、そして他の障碍とは違う配慮が必要なことなどから、参加が見送られるようになったそうです。例えば、スタートの合図として一般的なピストルの音は聞こえないので、別のツールを用意する必要がありますからね。

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岩瀬:日本ではデフリンピック/聴覚障碍者向けの陸上競技に参加する人口はどれくらいなのでしょうか。

岡部:2013年7月26日〜8月4日に第22回デフリンピックがブルガリア共和国のソフィアで開催されました。日本選手団は陸上競技、バレー、バスケなどの12競技に参加し、選手は162名、役員72名合計234名でした。そのうち、私が参加した陸上の選手団は26名でした。参加国・地域数は75か国、参加人数は約5,000人(2013年4月時点)でした。

岩瀬:かなりの規模になるのですね。今年10月24日の岩手での大会にはライフネット生命からも10名弱の応援団が駆けつけました、僕は取締役会なので残念ながら伺えませんでしたが。競技中は声援が聞こえるわけではないですよね、どのように応援されるのが一番選手にとって嬉しいものなのでしょうか。

岡部:岡部さん! と呼ばれても分からないので、緑のタオルや旗を振ったり、手を振ったりしてくれると嬉しいですね。

岩瀬:陸上競技を行う上では耳が聴こえる人たちと比べて、どういう点が大変なのでしょうか。先日の粟野さん(東京都聴覚障碍者連盟会長)のインタビューでは「トレーニングに必要なコミュニケーション」が課題だともうかがいました。

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岡部:トレーニング中のコミュニケーションですかね。チームでは、いろいろな人とのコミュニケーションが必要です。

練習中はもちろん、練習後にも、必ず指導内容などをチェックするようにしていますが、言葉を聞き取れないことがあります。その時に、遠慮せずにもう一度聞くことが大事です。

何もしなければ、情報は入ってこないので、自分から積極的に情報を取りに行かなければなりません。コーチも筆談したり、身振りで教えてくれたりするので、助かっています。

■岡部家の教育方針は「普通の子どもと同じように」

岩瀬:岡部さんのご両親は岡部さんをどのように育てられたのですか。思い出に残っている「教育方針」みたいなものはありますか。

岡部:これを機会に改めて聞いてみたのですが、特別な教育、特別な教育方針などはなかったそうです。普通の子どもと同じように育ててくれました。生活習慣など全般にわたり大人になってから困らないように育ててくれたと思います。迷った時にはいつも相談しましたが、最後は自分で決めるように育てられました。

聴力のハンデはあるので、口の形を読むように厳しく教えられたことはよく覚えています。お陰で今、自立することができているので本当に感謝しています。遠く離れていても、気持ちはいつも家族と一緒にいるような感覚ももっています。

岩瀬:先日の大会で社員が初めて岡部さんのご両親にお会いしたのですが「素敵なご両親だった」と言ってましたよ。ライフネットの「ファミリーデー」には配偶者やお子さんだけでなく、ご両親を連れてくる方もいるので、ぜひ次回は岡部さんも連れてきてくださいよ。あ、業務命令ではなく、ゆるいお誘いです(笑)。

岡部:個人的には恥ずかしいので、見られたくないのですが……(笑)。

■ろう者のコミュニケーション

岩瀬: FacebookやLINEなどメッセージングサービスが普及したことによって、耳が聴こえない方々にとって昔に比べると、コミュニケーションが取りやすくなったように思えますが、実際はどうでしょうか。

岡部:たしかに、昔に比べると、LINEやスカイプなどで、音声情報以外で、情報のやり取りができて便利になりました。電話も、以前はよく友人や親に頼んでいましたが、今は、代理で電話してくれるサービスもでき、大変便利になりました。

岩瀬:先日、中学生の聾学校で講演をされたと聞いて、とても嬉しく思いました。手話での講演だと伝えられる情報量やニュアンスはある程度、限られてしまうように思うのですが、実際はどうなのでしょう。

岡部:はい、昨年、初めて聾学校で講演会をさせていただきました。手話だからといって、情報量が少なかったり、細かいニュアンスが伝えられないわけではありません。私の母語も手話、聴講者の母語も手話ですから、一番スムーズに情報を伝え合えます。手話は日本語とは違う言語なので、日本語よりも情報量が少ないとか、劣っているわけではないのです。もちろん、年の離れた中学生に分かりやすくえる、というのは難問でしたけどね(笑)。

岩瀬:耳が聴こえる人たちに対して、聴こえない人たちにとってもっと住みやすい社会にするために僕らがもっとできること、要望みたいなものはありますか。

岡部:はい、機会があれば、どこかの大学の手話サークルや、手話カフェに行ってみてください! 先日、同僚と一緒に杉並区にある手話カフェに初めて行きましたが、机に紙やペンを用意してくれますし、とても便利だなと思いました。このようなコミュニケーションツールを用意していただけると大変助かります。

■これからやりたいこと

岩瀬:最後に、いまはライフネット生命でどんな仕事をされているのか、読者の方に紹介してもらえますか。

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岡部:所属は人事総務部ですが、システム運用部の仕事も担当しています。まだまだ覚えることがたくさんありますが、仲間と協力しながら業務を進めています。そして陸上競技を通じたPR活動や強みを生かした様々な活動も私の仕事です。大会の様子をFBページで発信したり、午後のストレッチを通じて社員のみなさんの健康促進したり(笑)、試行錯誤しながら進めているところです。

岩瀬:陸上を引退されたあとのキャリアも見据えて、どんな仕事に興味がありますか。

岡部:今、人事総務部の他にシステム業務を行っています。やはり、いつかシステムエンジニアなどにチャレンジしてみたいなと思っています。そして、デフリンピックの知名度を上げるためにアピールできるような仕事をやりたいなと思っています。例えば、講演会とか、陸上レッスンで皆さんと一緒に走ったりできたらいいなと思っています。

岩瀬:仕事も陸上の練習と同じで、若い頃に自分に負荷をかけてストレッチすると成長すると思いますよ。これからも応援していますので、がんばってください!

岡部:来年はいよいよデフリンピックがあります。デフリンピックに選ばれることはもちろん、陸上競技を通じて、ライフネット生命の社会的認知度向上に貢献すべく、活動できるようにがんばります。引き続き、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン 編集部