柳澤綾子さん(株式会社ケイト・スペード ジャパン 代表取締役社長)

柳澤綾子さん(株式会社ケイト・スペード ジャパン 代表取締役社長)

ニューヨーク発祥の「ケイト・スペード ニューヨーク」は、ハンドバッグを中心にアパレルやアクセサリーなどを展開する人気ファッションブランド。シンプルなデザインとカラフルな色使いは多くの女性に愛され、今では世界40か国以上400店舗まで拡大しています。このケイト・スペードを日本で大きく成長させた柳澤綾子社長の「女性の心をつかむ」ブランド戦略の話は、ライフネット生命の社内勉強会で大きな反響を呼びました。

■消費意欲が減退する中、女性たちの消費活動は今もなお活発

「Inspire Interesting Women to Live Interesting Life——賢く好奇心旺盛な女性たちに、人生をより興味深くするためのインスピレーションを与えたい」。これがケイト・スペードの根底を流れる大きなメッセージです。
同ブランドを支持する女性たちは、「madcap heroine(向こう見ずなヒロイン)」だと柳澤さんはいいます。

「彼女たちは頭の回転が速く、好奇心旺盛な遊び心があって、力強いんです。これまでイメージされてきた女性像、例えばしなやかで綺麗で、優しくて洗練されていて……という言葉は一切入っていません。今は、自分で自分の人生を切り開くような女性たちが多いのです」

このような女性の特徴は、消費活動にも現れています。例えば、現在の日本の消費志向は1996年と比べて約10%も減少しています。特に自動車やお酒などの高額品、嗜好品にはお金を使わない傾向が強まっているのです。

その一方で、ケイト・スペードの客層となる女性たちは、今もブランド商品を買い続けています。輸入ブランドのマーケットは、この10年間縮小することなく、横ばいで推移しているのです。

ケイト・スペード ジャパンのウェブサイトより。カラフルなファッションアイテムの一部は、ルワンダにつくった工場にて生産。戦火を逃れた職人女性たちの雇用を創出し、彼女たちの力で持続可能なコミュニティー運営のサポートを行っている

ケイト・スペード ジャパンのウェブサイトより。カラフルなファッションアイテムの一部は、ルワンダにつくった工場にて生産。戦火を逃れた職人女性たちの雇用を創出し、彼女たちの力で持続可能なコミュニティー運営のサポートを行っている

彼女たちは、なぜ消費を続けているのだろうか? 柳澤さんは、その答えを探すために20〜30代の女性たちのマインドについて詳しくリサーチを始めました。

「全体的に、彼女たちの多くは『みんなの中の私じゃなくて、私を私として見て欲しい』と思っているということが分かりました。例えば、OLと言われてしっくり来ますか? と尋ねると、80%以上の女性がNOと言います。彼女たちは、総括されるのが大キライなんです」

■20〜30代女性は、「ストーリー」を強く欲している

さらに、彼女たちは、感動するストーリーや体験を強く求めている世代だと柳澤さんは分析します。

「彼女たちの消費活動は以前と比べると変わってきています。今、マーケティングの用語で『ストーリーテリング』という言葉に注目が集まっていますが、ストーリーが非常に大切です。代表的な要素は3つあります。ひとつは、フォトジェニック消費。第三者への意識が消費行動のモチベーションになっているパターンです。例えば、SNSでどのように発信するかというのが大事なキーになっているので、写りの良い写真を撮るために話題の場所に行って体験を買うのです。

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2つ目は、ライフスタイル重視、充実した生活を送るための消費です。2015年のInstagramのハッシュタグランキング1位は、『おうちごはん』でした。16年は『ヘルシー』になりそうなんです。背伸びをして夜遊びするより、きちんと生活をする女性になる方が、1回だけアサイー・ボウルを食べるより、毎日お出汁をとったお味噌汁を飲んだ方が、断然ステキじゃない? というのが、今のトレンドです。

3つ目は、ストーリーテリング商品を求めること。作り手のメッセージ、熱意、社会貢献的価値、努力する姿勢、企業やブランドが手掛けていることなどに心惹かれるところから消費活動がスタートすることが多いです」

■女性の心を動かすための「マジック」はどう伝える?

ブランドビジネスにおいて、よく「マジック」と「ロジック」のバランスが大切だといわれます。もちろん、ケイト・スペードも例外ではありません。

「例えば、80万円もするクロコのバックをなぜ買うのかと考えると、そこにロジックは全くありません。別のマジックがあるから買っているわけです。一方で、なぜプライベートジェットを買うのかと考えると、便利だからというロジックしかありません。つまりブランドには、ロジックとともにマジックが必要なのです。特に、私たちのような手の届きやすいブランドは、そのバランスが非常に大切になります」

さらに、女性のお客さまには、商品のロジックだけでアピールしても響かないという特徴があると柳澤さんはいいます。

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「私が今持っている赤いバッグについて、ロジックで攻めるとどのようなセールストークになるでしょうか。今年のトレンド色である赤であること。パソコンやA4書類も入ること。軽いし防水性も高いので、雨や雪の日にも便利。お値段も3万円とお手頃ですよ、と言うでしょう。でも、これでは全然買ってくださらないんです。

お客さまの購買に繋げるには、このバッグを持つことで、人生がもっと楽しく興味深くなるかというヒントを与えることが大切です。これを持っていると、ステキなバッグですねと声をかけられて新しい出会いがあるかもしれないという感覚。この週末、このバッグを持って初めて那須高原に行ってみたくなるという感覚。新しい自分になるような、ワクワクすることを想像させてあげることが重要です」

今の女性たちが強く求めているのは、ロジックよりマジック。マジックとは、「エモーショナルコネクト(ブランドと顧客との感情的な繋がり)」だと柳澤さんはいいます。店員さんが私のことを考えて提案してくれたことだから、それに乗ってみようという体験があると、女性の心はひゅっと動かされてしまうのです。

■ゴールデンサークル理論で、ロジック重視の人にもマジックを伝える

では、言葉に表現しにくいマジックは、どうすればロジックを重視する人たちに伝えることができるのだろうか。その問題に悩んでいた柳澤さんは、経営評論家サイモン・シネック氏の提唱する「ゴールデンサークル理論」に出会いました。

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「ゴールデンサークル理論を使うと、マジックをしっかり伝えられると分かりました。これはどういうものかといいますと、人はすべて『Why(なぜ、それをやるのか)』に共感して行動するというというものです。

普通、多くの企業は『1, What(こんな製品を作りました)』『2, How(こんな風に使うことができます)』しか伝えません。しかし、これだけでは不十分ですし、伝える順序も違います。

大事なのは、『1, Why』『2, How』『3, What』の順で伝えること。どんな人でもWhatは分かります。一部の人はHowも知っているでしょう。しかし、Whyを理解している人はとても少ない。これがチームの中で共有され、お客さまに伝えられた時に、『ああ、ケイト・スペードのバッグを持てば、こんな人生が待っているんだ!』と感じてもらえるのです」

柳澤さんは、「Why」の重要性を強調します。

「Whyとは、『なぜ、組織が存在するのか?』ということです。ケイト・スペードのWhyは、先にも触れましたように、より興味深い人生のインスピレーションを女性たちに与えることです。これをお客さまに受け取ってもらうためには、何度も繰り返し伝えなければなりません。これができないと、本業から逸れてしまうといった間違いが起こってしまいます」

もうひとつ大切なのは、社員ひとりひとりが自社の商品の価値を信じられるようになることだと柳澤さんはいいます。

「ビジネスを大きくする一番の原動力は、社内で商品のファンを増やすことです。社員みんなが『この商品が好きだ』と言えるようになったら、もっともっと素晴らしい会社になり、ステキな商品を生み出せるようになるのではないでしょうか」

なぜ、ケイト・スペードが世界中の女性に愛されているのか。ポジティブで情熱的、クリエイティビティに価値を置き、前向きに商品と向き合う柳澤さんの姿勢が、その理由を物語っているように感じます。

<プロフィール>
柳澤綾子(やなぎさわ・あやこ)
ケイト・スペード ジャパン代表取締役社長。1998年、大妻女子大学卒業後サンエー・インターナショナル入社。2007年にケイト・スペード事業部事業部長、2009年より現職。2014年にはアジア初の旗艦店を銀座にオープン。ブランドの認知度と売り上げを短期間に躍進させた。子育てと会社経営を両立し、明るくポジティブな姿に、ファッション界を牽引するリーダーとして注目されている。
●ケイト・スペード ニューヨーク(ブランドサイト) 

<クレジット>
文/森脇早絵
撮影/ライフネットジャーナル オンライン 編集部

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