豊田剛一郎さん(株式会社メドレー 代表取締役医師)

豊田剛一郎さん(株式会社メドレー 代表取締役医師)

自分や家族が病気にかかった時、頼りたくなるのが正しい医療情報。しかしネット上にあふれる医療情報はまさに玉石混交で、いったいどの情報が正しいのか判断できずに困ることも少なくありません。信頼できる医療情報サイトが待たれる中、医師らが中心となって作るオンライン病気事典「MEDLEY」への期待が高まっています。開設から間もなく2年。MEDLEYを運営する株式会社メドレー代表取締役医師の豊田剛一郎さんにお話をうかがいました。

■編集には500人以上の医師が参加している

──昨今、医療情報サイトの信頼性が改めて問われています。「医師がつくる病気事典」と銘打つMEDLEYはどのように信頼性を確保していますか?

豊田:MEDLEYの編集部は医師や医療従事者をはじめ、医療に精通した人材で構成されています。編集のステップとしては、まず彼らが原稿の下書きを行います。編集部には最新の教科書やガイドラインが病院の図書館並みに用意されているので、自分の専門外のこともだいたいのことは分かるように準備をしています。ただし、ひとりの人間が書いた原稿がそのまま掲載されることはありません。公開前のすべての記事は、社内外の複数の医師によってチェックしています。社外の「協力医師」の方は、523人(2017年1月現在)にのぼります。

約1,500ある病気を網羅したオンライン病気事典。2017年1月時点で500名以上の医師が編集に協力し、内容を日々ブラッシュアップしている

約1,500ある病気を網羅したオンライン病気事典。2017年1月時点で500名以上の医師が編集に協力し、内容を日々ブラッシュアップしている

──どのように協力医師の方を見つけてこられるんですか?

豊田:最初は親しい医師から声をかけていきましたが、みなさん忙しいのでほとんど断られました。スタート間もないサービスだったからというのもあると思います。でも段々と形になっていくと、「自分も参加しようかな」とか「ここの情報が足りていないから書いてあげようか」と協力してくれる医師が増えました。

知人の紹介で協力医師になってくれる人もいますし、サイトからも登録できるようになっています。登録しているからといってお金がもらえるわけではないので、それだけMEDLEYがやろうとしていることに共感してくれているのだと思っています。

──MEDLEYがやろうとしていること、とは?

豊田:私たちの使命のひとつは、患者さんの医療リテラシーを上げることです。これまでなぜ、患者さんの医療リテラシーが上がってこなかったのかというと、医療というものをどこまで理解すればいいのか、その輪郭が分からなかったからだと思います。たとえばMEDLEYでは、約1,500の病気、3万種類の医薬品、16万の医療機関に関する情報が網羅されています。まずは医療というジャンルの輪郭がそれだけあるということを知ってもらうだけでも、見え方が変わります。

医療情報サイトで大事なのは、中立であること、最新の状態を保つ仕組みがあること、そしてあらゆる病気を網羅していることです。MEDLEYはまず「ここまでが医療ジャンルの輪郭なんだ」と示す意味でも、1,500の病気を網羅するために病気事典という形になりました。まだ社内の人間にしかアクセスされていないくらいマイナーな疾患に関する記事もありますが、そういう情報まで網羅して初めて「医療情報サイト」と言えるのだと思います。

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──オンライン辞書とした理由は何ですか?

豊田:紙の病気事典だと、同じ病気の項目があちらこちらに出てきて探しにくかったり、ページ数の制限によって情報が薄かったりすることがあります。インターネット事典は検索もしやすいし、リンクを貼るだけで関連情報に簡単にたどり着けます。最新情報を更新しやすいことも理由のひとつです。新しい病気や治療法、新薬が出てきた時に掲載内容が古くなってはいけないので、よりよい情報や新しい情報があれば、すぐに編集できる体制にしています。

MEDLEYを始めた頃は、特定の病気についてとても詳しく書かれているサイトはすでにたくさんありましたが、すべての病気を網羅しているサイトはまだ日本には存在していませんでした。MEDLEYとしてはまず、「何かあったらまずはここの情報を見よう」と思われる場所になることを目指しました。

──サイトを使いやすくするためにどのような工夫がされていますか?

豊田:病気の原因は何なのか、どんな症状があるのか、どんな検査法や治療法があるのかといったことをすべて同じフォーマットで読めるようにしています。今も試行錯誤していて、「この病気は何科で受診すればいいの?」とか「そもそも病名が分からないから症状から検索できるようにしてほしい」といった声を聞きながら作っています。患者目線の医師が増えてきたおかげで、「分かりやすくなった」という声も聞かれるようになりました。

■いい医師が使う言葉で分かりやすく説明

メドレーの「症状チェッカー」。気になる症状を入れると、関連する質問が返信され、答えていくと、可能性の高い病気がリストアップされ、詳細情報にたどり着ける

メドレーの「症状チェッカー」。気になる症状を入れると、関連する質問が返信され、答えていくと、可能性の高い病気がリストアップされ、詳細情報にたどり着ける

──患者さんや妊婦さんなどがネットで医療情報を調べすぎてしまい、かえって不安が膨らんだり、何が正しいのか分からずに混乱してしまうケースが少なくないと聞きます。

豊田:昔であれば、たとえば身近にいるおばあちゃんからの「あなた、心配のしすぎよ」「寝ていれば治るから大丈夫」といった一言で「そうなんだ」と思えたかもしれません。でも今はコミュニティーの形が昔とは全く変わっているので、誰も「大丈夫」と言ってくれない。その一方で情報へのアクセシビリティーが高くなっているために、「医療情報難民」が増えているのだと思います。

いろいろと調べているうちに、「ここでもあそこでも同じことを言っているから、この情報は正しいんだ」と納得したり、耳心地のいい情報に触れて「心配しなくていいのか、よかった」と安心したりはできますが、そういった情報が必ずしも正しいとは限りません。そもそも、正しい情報にたどり着けたかどうか、自分で確かめようがないことを調べること自体が無理難題です。だからこそ、専門知識を持つ私たちがこのMEDLEYというサイトで解決しようとしているわけです。

──専門家の言葉はとても頼りになるのですが、患者側に立つと分かりやすさも大事かと思います。医療の専門知識を持たない人向けに専門情報を提供することの難しさはありませんか?

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豊田:分かりやすさを追い求めると厳密性が失われ、本当に困っている人に「これ本当に信じていいの?」と思われてしまいます。逆に厳密性を追い求めると、難しい言葉が増えて患者さんが読めなくなってしまいます。ですのでMEDLEYとしては、「先生たちが患者さんにいつも話している言葉で説明する」ということを心がけています。

たとえばある病気について、どの医師も本質的には同じ説明をしているはずですが、それをどう伝えるかという“包み方”は医師によって違います。医師は自分の専門の病気のことを人生で何千回としゃべりますが、いい医師が患者さんにどのような言葉で伝えているか、という情報もインターネット上にあったらいいなと思います。それが、MEDLEYが示す「ひとつの正しさ」でもあるからです。

(後編に続く)

<プロフィール>
豊田剛一郎(とよだ・ごういちろう)
1984年生まれ。医師・米国医師。東京大学医学部卒業後、脳神経外科医として勤務。米国での脳研究成果は国際的学術雑誌の表紙を飾る。日米での医師経験を通じて、日本の医療の将来に対する危機感を強く感じ、医療を変革するために臨床現場を離れることを決意。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて主にヘルスケア業界の戦略コンサルティングに従事後、2015年2月より株式会社メドレーの代表取締役医師に就任。オンライン病気事典「MEDLEY」などの医療分野サービスの立ち上げを行う。
●オンライン病気事典MEDLEY

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/香川誠
撮影/村上悦子

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