無類の読書好きで知られるライフネット生命会長 出口治明は、趣味が高じて書評を連載しています。「オルタナティブ・ブログ」に掲載された中から、今回は『産まなくても、育てられます』の書評をご紹介します。


子どもがほしいと願う「あなたは子どもを産みたいのでしょうか、それとも、子どもを育て、ともに過ごしたいのでしょうか」と著者は問いかける。後者なら、不妊治療の他にも特別養子縁組という「もうひとつの方法」があるのだ。本書は、親になりたいと願うすべての人に向けられた現代の福音書である。

本書は2部構成を採っている。第1部は、現実に養子を迎えた8組のカップルに取材を重ねて、産むことへのこだわりや血のつながりなど夫々のカップルの「気持ちの壁」の乗り越え方を浮き彫りにする。実は、ほとんどのカップルが不妊治療の経験者なのだ。不妊治療を始めるときは、いつまで続けるかを考えておく必要があるという指摘は重い。

では、さんざん悩みぬいた後で気持ちの壁を乗り越えたカップルはその後どうなったのか。「不妊治療に苦しんでいた頃は、こんな幸せな気持ちになれるなんて想像もできなかった。特別養子縁組は、わが家に天使をつれてきてくれました」「生みの親も育ての親も、命を守るという思いを共有しているからこそ、養子縁組が成り立つのだと思う」「子どもは、その存在自体が光です。私たち夫婦だけでなく、親や親戚もこの子たちに力をもらっていると感じます」。

惜しみない愛情を注がれて屈託なくのびのび育っている子どもたちを見ると、血のつながりがあってこそ親子だという考えははたして本当だろうか、と著者は自問する。学問の世界では、血縁よりも育てることの方が親子の絆は遥かに強くなる、という説が有力だといわれているが、それが見事に実証されていると感じた。

第2部は、特別養子縁組の基礎知識と題して、特別養子縁組のしくみと申し立てから成立までの手続きを、順を追って丁寧に述べる。 家庭裁判所で申し立てが認められた特別養子縁組は474件、民間団体が仲介して成立したのは196件(2013年度)。これに対して乳児院で暮らしている赤ちゃんは3,000人にのぼるという。「人間は人間を育てるのが一番性に合っている。犬や猫などのペットを育てるほうが難しく、かつペットの方もストレスを感じているはずだ」という動物学者の話しをふと思い出した。欧米に比べて養子縁組が圧倒的に少なく、ペット天国と化しているわが国の社会は果たして正常なのだろうか。

もちろん、特別養子縁組がすべてバラ色であるわけではない。真実告知の問題や試し行動の乗り越え方など困難もつきまとう。「血縁ではなく、愛情でつながる家族だということを自然体で受け止めればいい。そもそも、子育ては苦労の連続です。全体でみれば楽しいことは10%ぐらいかもしれません。でも、その10%がダイヤのようにキラキラ輝くかけがえのない時間だということも、子どもを迎えてみて初めてわかることです」、これは特別養子縁組の仲介を長年つとめてきた人の言葉である。子どもがほしいと考えている全ての人に読んでもらいたい良書だ。

『産まなくても、育てられます』後藤絵里 (著)、講談社

※オルタナティブ・ブログ「ライフネット生命会長 出口治明の『旅と書評』」より

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