福士岳歩さん(ソニー株式会社 harmo事業室 ソリューション開発課 統括課長)

過去にかかった病気や薬の副作用歴、アレルギーなどを記録する「お薬手帳」。健康管理には欠かせない大事なものですが、携帯するのが煩わしかったり、何冊ももらって管理が大変になったりと、使い勝手がよくないと感じる人も少なくないようです。

ソニーが開発した電子お薬手帳「harmo(ハルモ)」は、患者がICカードで薬の履歴を管理する新しいシステム。試験運用を経て2016年7月から商用サービスが開始されましたが、いったいどれほど便利なのでしょうか。harmoの生みの親であるソニーharmo事業室の福士岳歩さんにお話をうかがいました。

■自分だけでなく家族の「お薬履歴」も簡単&便利に管理

──harmoのカードは若草色なんですね。ライフネット生命のイメージカラーと同じで親しみがわきます(笑)。

福士:「ハルモ」なので「春」らしく……というのもあるのですが(笑)、やはり優しさを感じる色ということでライトグリーンがいいねとメンバー全員で決めました。実は私もライフネット生命さんには親しみを感じていて……。というのも、岩瀬くん(ライフネット生命社長)とは高校の同級生なんです。「がんばっているなぁ」といつも刺激を受けています。

──不思議な縁があるものですね。さて今回、福士さんが開発したという電子お薬手帳のharmoについていろいろとお聞きしたいのですが、これまでの紙のお薬手帳とはどう違うんですか?


福士:医療機関や薬局に行く際に、お薬手帳を持っていくとさまざまなメリットがあります。一番大きなメリットは、これまでどんな薬を処方されてきたか、副作用やアレルギーはなかったか、今服用中の薬は何かといった正確な情報を医師や薬剤師に伝えられることです。また2016年4月からは、お薬手帳を持参した場合に薬局で支払う金額が少しだけ安くなるようになりました。

そういったメリットがあるにもかかわらず、薬局に行く時にお薬手帳を持参するのを忘れてしまう人は少なくありません。harmoはこれまでのお薬手帳をICカード化することで利便性を高めたサービスです。ICカードはSuicaなどの交通系ICカードと同じ形状なので、財布に入れて普段から持ち歩けます。

──お薬手帳を常に持ち歩く必要性はあるのでしょうか?

福士:たとえば会社や学校、あるいは旅行先などで急に具合が悪くなった場合でも薬の履歴を正しく伝えることができます。これができないと、飲み合わせの悪い薬や家にまだ残っている薬と同じものが処方される可能性もあります。また災害時なども、お薬手帳を持って避難することは難しい場合も多いと思いますが、財布に入れられるharmoなら意識せずにこれに備えることができます。

これは命にも関わる話で、実際に東日本大震災でも、お薬手帳がある人はすぐに薬が処方されたけれども、ない人には薬が処方されるまでの時間にかかったり、最適な薬が処方されなかったりしたケースがあったようです。せっかく支援物資の薬が届いても、患者さんはいつも飲んでいる薬の名前までは一つひとつ覚えていませんし、「色が白くて」「このくらいのサイズで」という説明だけでは、医師や薬剤師は何の薬なのか特定できず、目の前に薬があるのに渡すことができなかった。だからお薬手帳は「いつも持ち歩けること」がとても重要なのです。

──harmoのカードはどこに行けば発行してもらえるのですか?


福士:harmoサービス加盟店の薬局に、処方箋と保険証を持っていけばその場で発行してもらえます。
薬の情報は暗号化されてクラウドサーバー上に保管されているので、紛失した場合も薬局で再発行手続きをすればこれまでに蓄積されたデータを失うことなく使い続けることができます。紙のお薬手帳の場合、なくしてしまうと過去の情報が分からなくなってしまいますが、harmoなら永続的に使えるというわけです。

また、お薬手帳をなくしたり忘れたりして何冊も新しいものを発行してもらっている人もいますが、お薬手帳が何冊にもなってしまうとそのうち管理しきれなくなります。情報の一元化という意味でもharmoは便利なカードなのです。

■情報保護のために考えたデータ管理方法が特許に

──薬の履歴情報はクラウドサーバーに保管されているということですが、harmoのカードにはどんな情報があるのですか?

福士:harmoのカードにあるのは名前などの基本的な個人情報だけで、そこに薬の履歴情報は入っていません。harmoでは利用者の個人情報を守る観点から、個人情報と薬の履歴情報を分けて保管しているのです。万が一の話ですが、紛失したharmoカードの暗号化された情報が解析されたとしても、カードだけではその人がどんな薬を飲んでいるかということまでは分かりません。

またサーバー側が不正にアクセスされたとしても、そこにあるのは暗号化された薬の情報だけなので、それが誰のものかは分からないようになっているのです。両者を紐づけることができるのは加盟薬局などに置かれているharmoカードの読み取り端末だけです。この情報管理の仕組みはとても単純ですが、実はこれで特許も取っているんです。

──薬の履歴情報を他人に知られたくない人も安心して使えますね。でも紙の手帳には、いつでも自分で見られるメリットがあります。カードだけでは家で情報が見られません。自分が今飲んでいる薬の名前や、過去にどんな薬を飲んでいたのかを急に知りたくなった時はどうすればよいですか?

福士:ご希望の方には、パソコンからも見られるようにログインIDとパスワードを発行しています。また便利なスマートフォンアプリも用意しています。どちらも利用できない方には紙のお薬手帳の併用をお願いしています。やはりいざという時に情報が見られてのお薬手帳ですから。

スマホアプリには自分だけでなくharmoを使用している家族も最大10人まで登録できます。自分の子どもはもちろん、親も登録可能。家族全員分の薬の履歴がスマホでチェックできるというわけです。またどんな副作用があったかという情報も、あらかじめ用意されている「頭痛」「腹痛」「息切れ/息苦しさ」といったチェック項目をタップするだけで簡単に記録できます。

──自分のカード1枚でそこまでできるんですか?

福士:いいえ。カードは一人につき1枚の発行なので、それぞれ発行手続きをしてもらう必要があります。でもアプリは家族全員分を登録することでより利便性が高まるので、ぜひ利用してもらいたい機能です。たとえばお母さんとお父さん、両方のスマホアプリに子どもの情報を登録しておけば、薬の情報はもちろんのこと、お母さんが登録したメモをお父さんのスマホでも見ることができ、慣れないお父さんでも病院や薬局で正確に情報を伝えることができます。

また、離れて暮らす高齢の親を登録しておけば、ちゃんと病院に行って薬局で薬をもらってきたか、「薬の見守り」にも使えます。アプリの飲み忘れを防止するためのアラーム機能を使って、「今日もちゃんと薬飲んだ?」と親に電話をかければ、それもちょっとした親孝行といえるでしょうね。

──これを持っていると自分も家族も安心する、という点では保険と一緒ですね。

福士:その通りですね。持っている安心感はあると思います。大事な人にこそ持ってもらいたいですね。harmoの名称は、英語で「調和」を意味するハーモニー(harmony)が由来なのですが、そこには人と人とのつながりを大切にしたいという思いを込めています。harmoを使うことで家族間のつながりが強くなれば、開発した者としてこれ以上うれしいことはありません。

──福士さんの話を聞いて、「便利そうだからharmoを使ってみたいけど、自分の住んでいる地域にはharmo対応の薬局がない」という人はどうすればいいですか?

福士:harmoのシステムは同じ地域内の薬局、病院間での情報共有ができてこそ強みを発揮するので、これまでは主に地域の薬剤師会単位で導入されていました。2013年に川崎市から試験運用が始まり、隣接する横浜市、関西では大阪府豊中市や滋賀県など、対応している地域は確実に増えています。利用者の数も12万人を超えました。ただ、未対応の地域のほうが多いことは確かなので、2017年2月下旬から新しいサービスを開始することになりました。

(つづく)

<プロフィール>
福士岳歩(ふくし・がくほ)
1975年、千葉県出身。1994年私立開成高校卒業、1998年東京大学理学部情報科学科卒業、2000年同大学院卒業。ソニーに入社後は研究部門に配属され、次世代に求められる信号処理技術の開発や、コンセプトの発案に携わる。2008年よりお薬手帳の利便性を高めるための構想を練り始め、2010年より電子お薬手帳「harmo」の開発を本格的にスタート。現在は創案者としてharmoの新機能開発や普及に携わっている。趣味はピアノ。「本当の結婚式で弾くスーパーマリオ (Super Mario on Real Wedding Ceremony)」と題してYouTubeに投稿した動画の再生回数は270万回を超えている。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナルオンライン編集部
文/香川誠
撮影/村上悦子

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