公的年金の受け取り金額が大きく減るのではないか──不安に思う人が多いなか、賢く私的年金を準備できる個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」が注目されています。今年1月に制度が変わったiDeCoについて、同じく個人資産を増やすために活用されているNISAとの違いは何か、ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんに聞いてみました。

■NISAはどんな仕組みになっている?

──iDeCoと同じように税優遇がある投資の方法としてNISA(少額投資非課税制度)もありますが、そもそもNISAとはどのような制度ですか。

竹川:NISAは、毎年120万円までの投資で得た配当(普通分配金)や譲渡益が非課税になる制度です。2014年のスタート当初は、毎年100万円までの投資が対象でしたが、2016年1月から上限額が年120万円に増額されました。

NISAで非課税になるのは、投資をした年から最長5年間です。いつでも売却できますが、非課税期間終了時に、保有している金融商品を翌年のNISA口座に移管(ロールオーバーという)して、さらに非課税期間を延ばすことも可能です。

NISAは20歳以上の人が対象ですが、19歳以下の人が利用できるジュニアNISAも2016年1月からスタートしています。非課税になるのは毎年80万円までの投資です。

──どんな金融商品が非課税の対象となりますか。

竹川:NISA口座で購入できるのは、上場株式や外国上場株式、公募株式投信、外国籍株式投信、ETF(上場投信)、海外ETF、REITなどです。ただ、取り扱う商品は金融機関によって異なります。NISA口座を開設するときには、自分が購入したい金融商品を扱っているかどうか必ず確認しましょう。

──取扱商品以外に金融商品選びのポイントはありますか。

竹川:コストやサービスもチェックしたいですね。例えば、投信は金融機関によって品揃えや本数が異なります。同じ投信でも、金融機関によって購入時の手数料が異なることもあります。また、投信の積み立てを考えているなら、NISA口座での積立対応の有無や、銀行口座から自動振替ができるかどうか、といったことも確認しておきたいです。

■iDeCoとNISAはどう使い分けばいい?

──iDeCoを利用できる人の範囲が広がりましたが、NISAと比較した場合、どちらを利用するのがいいでしょうか。

竹川:iDeCoとNISAを比較する場合、3つのポイントがあります。「税優遇」「運用のしやすさ」「引き出しの自由さ」です。

まず、税優遇の点ではiDeCoの方が手厚いと言えます。NISAは、配当(分配金)や譲渡益が非課税になるだけですが、iDeCoは、購入するときに所得控除の恩恵がありますし、運用中の運用益についても非課税です。

運用しやすさを考えると、iDeCoは口座内の商品の預け替えが自由にできるのが大きなメリットです。ひとつの商品を購入していくこともできますし、いくつかの商品を組み合わせて保有し、定期的にリ・バランスをしながら、長期で資産形成をすることができます。ただ、iDeCoは預金や保険商品といった元本確保型商品も対象になりますが、投資商品は投信に限定されます。

NISAは、さきほどお話した通り、上場株式や外国株式、ETFなども対象となっているので、金融機関によっては、数多くの商品から選択が可能です。ただし、一度売却した非課税枠は再利用できませんから、口座内でリ・バランスをしたり、商品を買い変えたりするのが難しいのが現状です。

引き出しの自由度では、NISAの方が利便性は高いです。いつでも自由に売却・換金が可能です。一方でiDeCoは原則60歳まで引出しができません。

■iDeCoとNISAの違い

*1 資産に特別法人税がかかるが、2020年3月末まで凍結中
*2 拠出に係る年齢制限。69歳11か月までは運用継続は可能
※DCは確定拠出年金、DBは確定給付年金
(『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』を元にライフネット生命作成)

──目的に応じて使い分けるのがよさそうですね。

竹川:その通りです。「老後資金をつくる」ことが目的であれば、iDeCoを優先したほうがいいでしょう。換金性を重視する場合には、NISAの方が適しています。どちらか選ぶのではなく、上手に使い分けることが大切です。

NISAは、英国のISA(Individual Sevings Account=個人貯蓄口座)の日本版として誕生しました。以前、視察で英国を訪れたときも、確定拠出年金とISAのどちらかひとつを利用するというより、目的や用途、運用方針によって使い分けているという印象を受けました。

──商品選びをする上で、NISAとiDeCoで違いはありますか。

竹川:iDeCoは60歳まで引き出しができないので、多く人は長期で運用することになります。保有する金融資産全体でどう運用するかを考え、iDeCoではなるべく期待リターンの高い商品を割り振るのがいいと思います。具体的に言えば、株式に投資をする投信を中心に活用するといいと思います。

一方でNISAは非課税期間が5年なので、「どういう目的・位置づけで利用するか」をしっかり考える必要があります。たとえば、「iDeCoに加えて、中長期で資産形成の中核になる、低コストで分散された投信を利用する」「iDeCoでは買えない個別株を少し買ってみる」などが考えられます。万人に当てはまるNISAの活用法はありませんので、一人ひとりが自分に合った方法を考えてください。

また、2018年からは新たに「積立NISA」という制度もスタートします。こちらは対象となる一部の投資信託などを積み立てで購入していく制度です。投資額の上限は年間40万円ですが、非課税期間20年です。こちらはNISAとの選択制になります。

『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』竹川美奈子著(ダイヤモンド社)

 

<プロフィール>
竹川美奈子(たけかわ・みなこ)
LIFE MAP,LLC代表/ファイナンシャル・ジャーナリスト。出版社、新聞社勤務を経て独立。2000年ファイナンシャル・プランナー資格取得。金融商品・サービスについて投資家目線に立った情報発信を行う。投資信託やETFをはじめ、最近ではiDeCo(イデコ)に関するセミナーの講師も数多く務めている。『はじめての「投資信託」入門』『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』(ともにダイヤモンド社)、『臆病な人でもうまくいく投資法』(プレジデント社)など著書多数。

<クレジット>
文/向山勇