写真左:出口治明、右:新居日南恵さん(manma代表)

社会全体で子どもを育てる機運を高めよう──。そんなテーマを掲げて開かれた第3回婚活シンポジウムの壇上で、学生団体manmaの代表をつとめる新居日南恵さんと、ライフネット生命創業者の出口治明が対談しました。子育て中の家庭に大学生が体験留学する「家族留学」を中心に「いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる」ための活動を精力的に繰り広げている新居さんと出口が提案する解決策とは……!? ポジティブなヒントに満ちた対談模様をお届けします。
※モデレーターは残間里江子さんが務めました

■「シラク三原則」に学べ

──日本人の生涯未婚率が上昇しています。結婚に対する考え方も大きく変わり、1984年当時には「結婚してこそ一人前」という考えが6割を占めていたのに、現在は「必ずしも結婚する必要はない」と考える人が59.6%と逆転しています。

出口:僕は、ご飯が食べられて、温かい寝床があって、生みたいときに赤ちゃんが産めて、上司の悪口を好きなだけ言えるのが一番良い社会だと思っています。じゃあ結婚しやすく子どもを育てやすい社会にするにはどうすればいいのか。フランスの「シラク三原則」が参考になります。

第1の原則は、赤ちゃんを産めるのは女性だけですから、女性が産みたいときに産んでくださいというもの。第2原則は待機児童ゼロ。無料の保育所の完備です。第3の原則は、育児休暇から女性が職場復帰したら、ずっと勤務していたものとみなして企業は受け入れること。これでフランスは1994年の出生率1.6から2010年に2.0にまで回復しました。


新居:わかりやすいですね。周囲を見ていると、20代ではまだ適齢期じゃないから結婚は早すぎると考え、30代をすぎると今度は適当な相手にめぐりあえないという女性が多いです。なんとなく20代後半が適齢期だという固定観念に縛られて、早く相手が見つかっても「まだ早い」と思ってしまうんですね。何歳だから結婚するというのではなく、自分がしたいときに決められるのが一番いい。そのときに金銭的に問題がないのも大事だと思います。

──大学の授業料はどんどん高くなっているし、子どもの教育費が心配ですよね。

新居:ええ。manmaで行っている「家族留学」で訪問するご家庭でも、みなさん、教育費に関してはとても気にされています。

出口:OECDの加盟国中、日本の国家予算に占める教育費の割合は歴史的にずっと低いままです。ほかの国に比べて公費の負担が非常に少ないのになぜ教育費にお金をかけられないかといえば、生産性が低くて経済の成長率が低いからだと思います。税収が増えないから教育に回せない。そこも考えていく必要がありますね。

■共働きだから産まない!?

出口:manmaで「家族留学」に参加されている大学生はどんな方が多いんですか?

新居:「早く結婚してお嫁さんになりたいという人が来るんでしょう」と言われることがあるんですが、そうではないんです。優秀でハイキャリア志向、環境が整うなら働き続けたいという意欲を持っている人がほとんどです。

ただし、結婚・子育てに関するポジティブな情報がないので、みな不安は感じていますが、だからといって産む気がないということはないです。管理職になりたいという希望もあるし、子育ても優先したい。マミートラック的(産休育休明けに昇進が見込めないキャリアコースに固定される)に職場に残って働くかもしれないという人もいますが、共働きだから産まないということはありません。そういう人に対して、もっとキャリアアップできるサポートをするとか、働き続けながら子育てができる環境が整備されるといいのですが。

──昔は、女性が高学歴になって働きだしたから少子化になったと言われていました。

新居:それはよくわかります。いま、内閣府の「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」の委員をつとめていますが、そういう空気を感じます(笑)。その会議の男性メンバーは、奥さまが専業主婦という方が多いですね。「妻が専業主婦であることは男が女性にできる最大の貢献だ」と考えている方もいらっしゃいます。

出口:専業主婦は人間の歴史上では特異な形態ですよ。戦後の日本は、人口が増加し、工業モデルで経済が高度に成長できた。その時代背景で成立したのが専業主婦。その時代にがんばって偉くなった人がいまの日本を動かしているのが問題なんです。ものごとは、昔はどうだったのかを歴史から学び、世界はどうなのかを見ることが大事です。タテとヨコからファクトを見ていく必要がありますね。そうすれば、ひとりひとりの意識が少しずつ変わっていくと思います。

■子育てをしている人を奨励して応援する社会を作る

──少子高齢化が進み、昔は若者11人で1人のお年寄りを支えていましたが、支える人が3人になり、これからは2人になりそうです。こうした現実についてはどう思われますか?

新居:3人で支えていたのが1人になれば負担を感じると思いますが、いまはその感覚がないので「1人になるよ」と言われても、「少子高齢化やばいらしいよ、以上」で終わり(笑)。女性の多くは結婚したい、家族を持ちたいと考えていますが、少子高齢化だからという理由で子どもを産もうという人はいないと思います。

出口:若者とか高齢者という区分はやめて、年齢フリーの原則で社会を作るという考えもありますね。医療費もみな3割負担。働いている人が本当に困っている人を支える。そうして2人で1人を支える肩車から複数人で1人を支える騎馬戦に戻ればいいと思います。


新居:私の祖母の例から言っても、社会的な役割がなくなると人間は精神的にも肉体的にも衰えていきますから、年齢フリーという考え方はいいかもしれません。

──婚活サポートコンソーシアムでは、小池都知事に3つの提言をしました。ひとつは出産子育て費用の原則無料化、2番目は1家庭で3人目の子どもが生まれた際には300万円の祝い金の支給、最後がひとり親への支援です。これについてはいかがですか?

出口:全部良いと思います。数字で見るとひとり親、特にシングルマザーの家庭の6割が貧困状態にあります。どう考えてもここに給付を集中するのが正しい。最優先事項でしょう。

新居:2番目が気になります。お子さんが生まれるとお祝い金を出す会社がありますが、お金がもらえるだけでなく、歓迎してもらっているという雰囲気作りが大事だと思うんです。会社として、子育てをしている人を奨励して応援するスタンスがいいですね。国としてやるにしても、お金じゃなくてお祝い品を送るだけでもお母さんへのエールになると思います。

出口:動物として人間の女性が赤ちゃんを生むのは当たり前。良かったね、産んでくれてありがとうと、社会全体で応援して、働きながら子育てできるシステムが急務ですね。

写真左から石坂茂さん(婚活サポートコンソーシアム事務局長)、新居日南恵さん、出口治明、モデレーターの残間里江子さん(プロデューサー/クラブ・ウィルビー代表)

<第3回婚活シンポジウム 婚活のその先へ ~未来の子ども達のために、今私たちが考える>
主催:婚活サポートコンソーシアム
日時:2017年6月12日
モデレーター:残間里江子

<プロフィール>
新居日南恵(におり・ひなえ)
1994年生まれ、東京都出身。2014年に「いまの女子大生が安心して母になれる社会をつくる」をコンセプトにした学生団体manmaを設立。子育て中の家庭を訪問する「家族留学」の活動で若い世代が生き方のロールモデルと出会う場を提供している。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取り組みに関する検討会」構成員。日本国政府主催WAW!(国際女性会議)2016 アドバイザー/NewsPicksプロピッカー
●manma

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子