さとう桜子さん(美容ライフアドバイザー・エステティシャン、がん患者向けビューティサロンセレナイト運営)

がんであっても、自分らしく美しくありたい。闘病中の見た目の変化に悩む女性に向けて、オールハンドで完全オーダーメイドの施術を行うプライベートビューティサロン「セレナイト」を立ち上げたさとう桜子さんの初の著作が、2017年5月に上梓されました。タイトルは『がん治療中の女性のためのLIFE & Beauty』(主婦の友社)。本を通してさとうさんが伝えたかったこととは……? 出版の経緯と目指すところをうかがいました。

■本を通して実体験に根ざしたアドバイスを紹介

がん患者はさまざまな障害にぶつかります。家庭、育児、仕事、そして抗がん剤の治療中の見た目の変化。自らもがんと闘い、2度の手術と6回の抗がん剤治療を乗り越えてきたさとうさんは、美容やエステのプロとしてのキャリアを活かし、2013年に東京・築地に「セレナイト」をオープンしました(その詳しいいきさつについては、こちらの記事をご覧ください)。

「本は、入院中から構想があって、アイデアを書き溜めていました。サロンがスタートしてからは、新たに思うことや、お客さまへアドバイスした情報を足していきました。当初は『がん美容手帳』というタイトルを考えていました。メイクやスキンケア、日常生活に至るまで、自分らしくいられるための工夫をまとめたものですが、どれも私の実体験に根ざしています」

病院では、「スキンケアやメイクアップは特にしなくてもいい」と指導されることが多いそうです。疲れてはいけないという配慮からですが、それが別の新たな問題を生み出しています。

「『しなくていいよ』と言われると、やってはいけないと思う方が多いんですね。先日も婦人科がんの患者会に出かけたら、まったく洗顔していない方がいました。治療の副作用ではなく、お手入れ不足による肌荒れの方も多かった。そうした方々には、『洗顔はちゃんとした方がいいですよ』とアドバイスしています。抗がん剤の治療中には増えてしまったシミやくすんだ肌を隠そうとしてコンシーラーを利用することもよくありますが、メイクアップ製品は長時間つけたままにすると肌に負担をかけるので、ちゃんと洗顔をした方がいい。重篤な状態であっても、無理なく日常生活で改善できることはたくさんあります」

■泣きながら考えついたアイデアも

抗がん剤はさまざまな副作用をもたらします。個人差はあるものの、肌がボロボロになり、髪の毛やまつげ、眉毛など、全身の毛がすべて抜け、シミやむくみに苦しむ人は少なくありません。

その悩みを人に話すこともできず、ひとりで抱えこんで、肉体的な病気だけではなく見た目の変化による心理的ダメージに苦しむ女性たち。さとうさんは、そうした女性たちにあたたかく優しい目を向け、具体的で取り入れやすいたくさんの解決法を本の中で紹介しています。

例えばウィッグ。副作用で脱毛してしまった女性には必須のアイテムですが、お手入れにはちょっとしたコツが欠かせません。

「どうしても蒸れてしまうので頭の中に吹き出物ができてしまうことはよくあるんです。病院から『ウィッグは拭くだけでいい』と言われて、ウィッグが臭くなってしまう人もいます。でも、解決法はちゃんとあるんですよ」

ウィッグの洗い方、ドライヤーの当て方、さらには頭皮の洗い方からどんなシャンプーを使えばいいのか、疲れたときの手の抜き方まで、経験者であり美容のプロであるからこそ可能な実践的なアドバイスは、女性たちの悩みや疑問を解消し、心を確実にときほぐしていくに違いありません。

さとうさんが闘病中に泣きながら考えついたというアイデアも惜しみなく披露されています。

「ウィッグをかぶっていると、頭が蒸れます。夏は暑くてとても苦しく、のぼせたようになるんですよ。化粧も汗で流れてしまうし、トイレの中で頭を拭きながら悲しくなったときに思いついたのが、インナーキャップがわりにTシャツ素材の端切れを使うこと。Tシャツをカットして保冷剤と一緒に袋に入れて持ち歩き、それで頭を拭き、取り替えたら爽快で気持ちが良かった(笑)。袋に持ち帰って洗えるし、便利な方法だと思いました」

こうしたポイントは、女性だけではなく、誰にでも役立ちそうです。

■医療者向け1日研修もスタート

本の装丁にも、読者の心情を考慮した工夫が施されています。

「『がん』の文字がたくさん踊っている本は電車の中で開きにくいので、イラストをたくさん入れたきれいなデザインにしました。『治療中の写真を入れたら』という声もあったのですが、写真なんてとんでもない。がん治療を始めると、こんな頭、こんな肌になりますよと脅すようなものですから」

イラストを多用し、柔らかなトーンでまとめられた本は、がん患者の心に寄り添うさとうさんの姿勢そのものでしょう。

「セレナイト」自体も進化を遂げています。2017年3月には、美容の基礎から、がんの方への接し方、エステ、メイク実技を学ぶセレナイトクラスの研修生が、広島にスタジオをオープンしました。スポーツ系のトレーナーをしていた女性で、体のメンテナンスをメインにしたスタジオですが、その一角で、セレナイトで学んだ技術の提供も行なっています。

「受講生は、がん経験者かご家族にがん患者がいる人を対象にしていますが、みな飛行機や新幹線で通ってきます。この4月からは、管理栄養士でメディカルアロマの勉強もしている女性が研修を受けはじめました。いつか地元でサロンを始めたいというんですね」

セレナイトクラス開校のために、さとうさんは120時間にわたるカリキュラムを作り上げました。すでに一期生は、研修アシスタントとして活躍を始めており、セレナイトのこれまでの積み重ねてきたものが、少しずつ広がり始めています。
さらに、2017年に入ってからは、医療者や美容関係者向け1日研修もスタートしました。

「化学療法科の認定看護師さん向けに研修をしたら、『みっちり教えてほしい』と依頼されました。テンプレートで眉を書くとか、お人形のようなつけまつげをつけるといったアドバイスなど、病院で患者向けに指導している内容は、すでに美容業界では古いとされることが多い。でも美容は進化していますからね。改良した内容をお話し、それを看護師さんに伝えて自分の顔でやってもらっています」

見た目が変わったことで外に出るのが怖くなり、引きこもり状態にあった女性が、さとうさんからメイクレッスンを受けた途端に進んで会社に行くようになった。そんな事例は珍しくありません。髪も眉毛も抜け、むくんだ顔になると、自分の気持ちが悲しくなるだけでなく、人に驚かれたり、相手が「かわいそうに」と気にして仕事にならなくなり、迷惑をかける──それが社会との接点をより遠ざけてしまうことがあります。
見た目を整えることは、外に出る気持ち、社会に復帰する意欲につながる。明日への希望に直結しているのです。

『がん治療中の女性のためのLIFE & Beauty』
さとう桜子(主婦の友社)

<プロフィール>
さとう桜子(さとう・さくらこ)
美容学校卒業後、ヘアーメイクアップアーチストを経て化粧品業界へ転向し、フランスのブランド・オルラーヌでエステの技術を習得。アルビオングループのソニアリキエル新宿伊勢丹チーフ、ピアスグループのカバーマーク、ケサランパサランのマネージメント、トレーニング担当を経て、2009年からエステダムジャパン設立メンバーとして大手エステブランドや百貨店、代理店の教育、企画運営を手掛ける。2013年に、がん患者向けビューティサロン「セレナイト」をオープン。ビューティアドバイザー兼エステティシャンとしてサロンの運営と後進の指導に力を注ぎつつ、医療機関、企業、学校などでの研修や講演活動を行なう。2017年『がん治療中の女性のためのLIFE & Beauty』上梓。
●セレナイト

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子

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